重要な意思決定
2024

構造改革「Dプロ」の開始

背景

売上規模と利益率の乖離が顕在化したROIC経営への転換

東レは2020年代に入り、売上規模に対して利益率が改善しない構造的な課題に直面していた。事業別にROICを算定したところ、数量維持や設備稼働率を優先してきた一部事業が資本効率を押し下げている実態が可視化された。PBR1倍割れが常態化する中、取締役会では低PBRの要因を成長性ではなく収益率に求め、投下資本と利益の対応関係を事業単位で再点検する方針が共有された。

この分析によって浮かび上がったのが、市場シェアは維持していたものの価格転嫁の限界や固定費負担により利益率が低下していた事業群であった。繊維、フィルム、樹脂の一部では、設備維持や数量確保を優先した過去の判断が資本効率の改善を妨げていた。ROICを上位概念とする経営への転換が明示され、全社横断で低収益事業を扱う枠組みの必要性が認識された。

決断

Dプロによる事業ごとの収益成立条件の再設計

2024年、東レは構造改革施策「Dプロ」を開始した。対象はPPスパンボンド、欧米フィルム、ポリエステル短繊維、Zoltek社など、投下資本が大きく収益改善の余地が限られていた事業であった。Dプロは低収益事業を一括で切り離す施策ではなく、事業ごとに投下資本・固定費・数量・価格の関係を分解し、ROICが成立する条件を検証するプロセスとして設計された。

個別の事業では、欧米フィルムで汎用品ラインの停止と付加価値品への転換が進められ、Zoltekでは稼働率に応じた生産体制への切り替えが実施された。撤退か存続かを先に決めるのではなく、投下資本に見合う利益を生み出せるかを検証した結果として縮小・撤退が選択される順序が採られた。成長投資ではなく既存の投下資本から得られる利益の最大化を目的とする点が、従来の中計との違いであった。

結果

事業ポートフォリオの動的調整メカニズムとしてのDプロの位置づけ

Dプロの導入により、東レは成長投資と構造改革を同一のROIC基準で評価する枠組みを持つことになった。従来は成長投資を優先し、低収益事業の見直しは段階的・部分的にとどまってきたが、Dプロでは収益が出る条件を満たさない事業については縮小・撤退に進む判断が制度として組み込まれた。規模維持を前提としてきた過去の意思決定を数値で相対化する機能が、Dプロに期待されている。

一方で、Dプロの実効性は個別事業での判断がどこまで徹底されるかにかかっている。東レの事業ポートフォリオには、技術的蓄積が深く社内に擁護者が多い事業も含まれており、ROICの数値だけで機械的に撤退判断を下すことが組織的に受け入れられるかは未知数である。構造改革の枠組みが整備されたことと、実際に不採算事業の整理が進むこととの間には、なお距離がある可能性がある。