東レの直近の業績・経営課題と展望

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東レの直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望

2025/3売上高25,633億円YoY+4%
2025/3売上総利益5,059億円YoY+14.1%
2025/3販売費及び一般管理費3,661億円YoY+5.7%
2025/3営業利益1,275億円YoY+121.1%
2016/3経常利益1,502億円YoY+16.8%
2025/3親会社株主に帰属する当期純利益779億円YoY+255.8%
2025/3自己資本比率48.5%YoY+1.6pt
2025/3有利子負債合計7,996億円前年比▲1,108億円
2025/3現金同等物期末残高2,373億円YoY+0.6%
経営トップ大矢光雄代表取締役社長
2025/3従業員数47,914前年比▲226人
2025/3平均給与821万円前年比+55万円

なぜ航空機で築いた東レの参入障壁は産業用途で再現しないのか(筆者所感)

1951年6月、田代茂樹社長は米デュポンとのナイロン技術提携契約に踏み切った。前払いロイヤルティ300万ドル、当時の為替で10.8億円は資本金7.5億円を上回る投資であった。契約は特許実施権にとどまり製造ノウハウは含まれず、名古屋工場の立ち上げは現場エンジニアの試行錯誤に委ねられた。特許だけを買い、技術は自前で立ち上げる。この組織文化が東レの創業期に刻まれ、のちに40年赤字の炭素繊維事業を撤退させずに育てる経営判断の根に据わった。

こうして根付いた自前技術志向は、繊維産業が構造不況に沈んだ1970年代に独特の経営判断として現れた。鐘紡が化粧品、帝人が医薬品、東洋紡がフィルムへと本業を組み替えるなか、藤吉次英社長は1975年12月に脱繊維を否定した。繊維技術から樹脂・フィルム・炭素繊維へ派生させる方針を示し、1971年販売開始の炭素繊維トレカは40年近く赤字を抱えながら設備改良と品質安定化への投資を続けた。1982年にボーイング社からB767の材料指定を受け、1990年にB777、2006年にB787の主要構造材として全面採用され、機体重量に占める複合材比率は約50%に達した。長期独占供給契約は、業界が逃げた領域に残り続けた意思決定構造の結実であった。

だが、航空機で築いた参入障壁が産業用途でも働くとは限らなかった。2014年2月にZoltek社を913億円で、2018年7月にTenCate社を約1,171億円で買収し、炭素繊維関連ののれんは合計約900億円規模に積み上がった。風力発電翼向けのラージトウ炭素繊維を主力に産業用途の裾野を広げる意図であったが、風力発電向け需要は期待通りには伸びず、2024年3月期にはZoltek関連のれん約139億円を全額減損した。PBR1倍割れの常態化を受け、東京証券取引所による資本コストを意識した経営の要請も2023年3月に重なった。事業別にROICを算定すると、数量維持や設備稼働率を優先した一部の既存事業が全社の資本効率を押し下げている実態が、社内で初めて体系的に可視化された。

航空機向けの独占供給は、ボーイング・エアバスという需要家寡占、設計段階からの深い関与、長期認証という三条件が揃った結果である。風力発電・自動車・産業機器では需要家が分散し、認証期間も短く、価格交渉力は需要家側に残る。同じ炭素繊維でも、用途の構造が違えば超過利潤の生まれ方が違う。2024年に始動したDプロは、繊維に残るという藤吉以来の理念を維持しつつ、事業ごとにROIC成立条件を検証する制度を組み込んだ。技術投資の長期視点と資本効率の短期規律を両立できるか、Dプロの10年で答えが出る。

東レの業績推移直近10ヵ年・有価証券報告書をもとに作成(XBRLよりデータ取得)

項目単位FY152016/3連結 / JGAAPFY162017/3連結 / IFRSFY172018/3連結 / IFRSFY182019/3連結 / IFRSFY192020/3連結 / IFRSFY202021/3連結 / IFRSFY212022/3連結 / IFRSFY222023/3連結 / IFRSFY232024/3連結 / IFRSFY242025/3連結 / IFRS
損益計算書 (PL)
売上高YoY億円21,044+4.7%20,265−3.7%22,049+8.8%23,888+8.3%22,146−7.3%18,836−14.9%22,285+18.3%24,893+11.7%24,646−1.0%25,633+4.0%
繊維事業億円8,9208,5619,1369,7438,3107,1928,3629,9929,74810,111
機能化成品事業億円7,2468,0338,6887,6127,2049,1009,0948,8619,449
炭素繊維複合材料事業億円1,8621,6161,7792,1592,3691,8292,1522,8172,9053,000
環境・エンジニアリング事業億円1,8332,1252,3832,5771,9081,9351,9932,2882,4412,365
ライフサイエンス事業億円558542538537530530520538522532
売上原価億円16,62615,96517,48019,35516,61915,06117,92620,68520,21120,574
売上総利益億円4,4194,3004,5684,5344,2933,7754,3604,2084,4355,059
販管費億円2,8742,8313,0043,1193,0072,8703,0583,3093,4633,661
営業利益YoY億円1,545+25.1%1,469−4.9%1,565+6.5%1,415−9.6%1,147−18.9%559−51.3%1,006+80.0%1,090+8.4%577−47.1%1,275+121.1%
繊維事業億円689668724729596366422512547642
機能化成品事業億円618714677545670910304367600
炭素繊維複合材料事業億円361240208115226-7516159132225
環境・エンジニアリング事業億円96117133122106145165197232259
ライフサイエンス事業億円31211913513142-13-8
経常利益YoY億円1,502+16.8%
当期純利益YoY億円901+26.9%994+10.3%959−3.5%794−17.2%557−29.8%391−29.8%842+115.4%728−13.5%219−69.9%779+255.8%
貸借対照表 (BS)
自己資本比率%41.642.742.440.641.343.643.144.946.948.5
有利子負債比率%22.218.517.921.136.033.829.528.526.324.3
キャッシュフロー (CF)
営業CF億円1,9611,7401,2921,7622,2582,0351,3831,4521,8572,550
投資CF億円-1,544-1,352-1,867-2,602-1,424-979-572-1,027-1,210-632
財務CF億円-776-1806181,189-676-612-1,015-574-704-1,885
従業員
連結従業員数45,83946,24845,76248,32048,03146,26748,84248,68248,14047,914
単体従業員数7,2237,2207,6257,5857,5687,4207,1756,9926,9957,010
平均年収(単体)万円681698706720720672734756765821

IR資料直近5ヵ年

決算説明会資料

年度報告資料
FY25

FY25_kessan_setsumei.pdf

中計「プロジェクト AP-G 2025」進捗。政策保有株式縮減方針に基づき2024年度に1,098億円を売却し、上限1,000億円の自己株式取得(155百万株)を実行。配当は1株20円(前期比2円増配)予想。米国関税措置を織り込んだ業績計画を策定。
FY24

FY24_kessan_setsumei.pdf

政策保有株式の半減方針を新規公表し、売却代金を全額自己株式取得に充当する資本政策を発表。LG Chem との合弁で LG Toray Hungary(バッテリーセパレータ)を設立、欧米風力発電翼用途で減損損失368億円を計上。低収益事業の構造改革を加速。
FY23

FY23_kessan_setsumei.pdf

中計「プロジェクト AP-G 2022」を総括。LG ChemとのHungary合弁設立による投資再評価益を計上した一方、2022年度サステナビリティ目標と整合させたAP-G 2025策定への移行期。SK Chemicalsとの韓国販売提携に言及。
FY22

FY22_kessan_setsumei.pdf

中計「プロジェクト AP-G 2022」の進捗。グリーンイノベーション(GR)とライフイノベーション(LI)プロジェクトを推進、低成長・低収益事業の構造改革を継続。年間配当2円増配の18円予定。トータルコスト競争力強化(NTC)を併走。

アニュアルレポート / 統合報告書

年度経営の振り返り報告資料
FY26

統合報告書

https://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a649.pdf
FY25中計「プロジェクト AP-G 2025」の進捗報告。政策保有株式半減と自己株式取得に充当する資本政策、低収益事業の構造改革を中心軸として整理。サステナビリティイノベーション事業比率の引き上げを長期方向性として提示。

統合報告書

https://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a636.pdf
FY24政策保有株式縮減と自己株式取得の連動を打ち出した資本効率改善策を統合報告書として体系化。中計「AP-G 2025」の3つのプロジェクト(GR・LI・NTC)の進捗を詳述。

統合報告書

https://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a621.pdf
FY23中計「AP-G 2022」総括と次期中計「AP-G 2025」への移行。LG Chemとのバッテリーセパレータ合弁設立など成長分野での合弁・提携を整理。

統合報告書

https://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a595.pdf
FY22中計「プロジェクト AP-G 2022」の進捗。グリーンイノベーション・ライフイノベーション拡大を成長軸に据え、トータルコスト競争力強化と低収益事業の事業構造改革を推進する方針を提示。

統合報告書

https://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a580.pdf

参考文献・出所

有価証券報告書
東レ社史
日経ビジネス 1984/8/6
産業と産業人 1952/1
読売新聞 1953/6/2
ダイヤモンド 1962/2/26
ダイヤモンド 1965/9/6
週刊東洋経済 1975/7/19
日経ビジネス 1991/9/9
ボーイング発表資料
東レIR
Zoltek Companies発表資料
TenCate買収関連開示
週刊東洋経済 2012/4/12
決算説明会 FY25通期
決算説明会 FY26-2Q
東レ プレスリリース Dプロ関連開示
日経ビジネス 2024/10
フロンティア・マネジメント 2025/1
日経ビジネス
フロンティア・マネジメント