沿革年表 1926〜2026年における重要度別の出来事(合計36件)
| 年月 | 区分 | 社長/CEO | 出来事 | 年度 | 売上高 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|---|---|
重要事項 | 東洋レーヨンを設立 歴史的意義yutaka sugiura 東洋レーヨンの設立は、三井物産が第一次大戦後の利益を化学繊維に投じた事業判断に端を発する。帝人が先行する市場に後発で参入しながら国内首位に至った要因は、技術の先進性よりも、量産体制の構築速度と三井物産の販路活用にあった。自社の技術者育成を優先し、工程を外部に依存しない体制を整えた点は、後の合成繊維や先端材料への展開を可能にした組織的な技術基盤の原型でもある。 | 1926 1-12月 | ||||
レーヨンで国内シェア確保 | 1931 1-12月 | |||||
瀬田工場を新設 化学繊維レーヨンの紡織に参入するため、滋賀県内に瀬田工場を新設 | 1938 1-12月 | |||||
国内2社を合併 戦時下における企業統合により、庄内川レーヨンおよび東洋絹織を買収 | 1941 1-12月 | |||||
東京証券取引所に株式上場 | FY50 1950/3 | |||||
業務提携 | 米デュポンとナイロンの技術提携契約を締結 歴史的意義yutaka sugiura 資本金7.5億円に対して10.8億円の技術導入費を投じた判断は、通常の投資評価では正当化しにくい。この意思決定を支えたのは、レーヨン事業で確保した収益基盤と、三井グループの資本的な支援体制であった。不確実な市場に先行投資できた条件は技術的先見性ではなく、失敗しても事業継続が可能な財務的余地の存在にあった。この構造は、後に炭素繊維で長期赤字を許容した判断にも通底している。 | FY52 1952/3 | 売上高 161億円 | 当期純利益 32億円 | ||
FY53 1953/3 | 売上高 149億円 | 当期純利益 11.1億円 | ||||
FY54 1954/3 | 売上高 240億円 | 当期純利益 29.1億円 | ||||
FY55 1955/3 | 売上高 297億円 | 当期純利益 26.4億円 | ||||
FY56 1956/3 | 売上高 410億円 | 当期純利益 36.2億円 | ||||
英国ICI社ポリエステルに関する技術提携契約を締結 | FY57 1957/3 | 売上高 538億円 | 当期純利益 54億円 | |||
FY58 1958/3 | 売上高 595億円 | 当期純利益 47.1億円 | ||||
設備投資 | 三島工場完成、ポリエステル繊維「テトロン」生産開始 三島工場が完成し、ポリエステル繊維「東レテトロン」の生産を開始した。1957年のICI技術導入を受けたポリエステル事業立ち上げの本拠地となり、ナイロン後の主力繊維へと育つ起点となった。 | FY59 1959/3 | 売上高 590億円 | 当期純利益 35.1億円 | ||
設備投資研究開発 | ポリエステルフィルム「ルミラー」本格生産開始 ポリエステルフィルム「ルミラー」の本格生産を開始した。すなわち繊維で開発したポリエステル技術をフィルム分野へ転用し、後の磁気テープ・電子部材向け基盤事業へ拡大する起点となった。 | FY60 1960/3 | 売上高 812億円 | 当期純利益 81.7億円 | ||
FY61 1961/3 | 売上高 954億円 | 当期純利益 100億円 | ||||
PNC法でプロラクタムの生産開始 ナイロン原料であるカプロラクタムの内製を開始 | FY62 1962/3 | 売上高 1,148億円 | 当期純利益 112億円 | |||
基礎研究所を新設 | FY63 1963/3 | 売上高 1,297億円 | 当期純利益 123億円 | |||
FY64 1964/3 | 売上高 1,602億円 | 当期純利益 122億円 | ||||
FY65 1965/3 | 売上高 1,739億円 | 当期純利益 65億円 | ||||
FY66 1966/3 | 売上高 1,792億円 | 当期純利益 37.9億円 | ||||
FY67 1967/3 | 売上高 2,080億円 | 当期純利益 75.9億円 | ||||
FY68 1968/3 | 売上高 2,268億円 | 当期純利益 133億円 | ||||
FY69 1969/3 | 売上高 2,405億円 | 当期純利益 149億円 | ||||
商号を東レ株式会社に変更 非繊維事業を拡大するために、商号を東洋レーヨンから東レに変更 | FY70 1970/3 | 売上高 2,888億円 | 当期純利益 177億円 | |||
樹脂とフィルムに設備投資 歴史的意義yutaka sugiura 東レの樹脂・フィルム事業への展開は、高分子技術の転用という技術的合理性に基づいていた。繊維で培った合成・成形技術を工業材料に応用することで開発リスクを抑制し、成長市場の需要を取り込んだ。一方で、磁気テープ用途のように市場構造の変化によって需要が消失するリスクも内包しており、技術的に参入可能な市場が長期的に収益を生む市場と一致するとは限らないことを示す事例でもある。 | ||||||
FY71 1971/3 | 売上高 3,070億円 | 当期純利益 144億円 | ||||
炭素繊維の生産開始 歴史的意義yutaka sugiura 炭素繊維事業は発売から40年近く赤字が続いたが、東レはこの間、撤退を選択しなかった。この判断を支えたのは、技術開発を事業成果で即時に評価しないという意思決定構造であった。繊維事業の安定収益が赤字事業への資金供給を可能にし、ナイロン投資で培われた「技術で先行する」という企業文化が撤退判断を遠ざけた。技術の蓄積と市場の立ち上がりが一致する保証はなかったが、技術を止めなかったことが結果として競争優位を生んだ。 | FY72 1972/3 | 売上高 2,984億円 | 当期純利益 61.9億円 | |||
設備投資 | 炭素繊維「トレカ」の生産開始 炭素繊維「トレカ」の生産を本格化した。アクリル繊維からの発展で生まれた素材で、40年に及ぶ赤字を経たうえで航空機用途として収益化される長期投資の起点となった。 | |||||
FY73 1973/3 | 売上高 3,000億円 | 当期純利益 77.9億円 | ||||
FY74 1974/3 | 売上高 3,625億円 | 当期純利益 187億円 | ||||
石川工場を新設 ポリエステル繊維の生産拠点として新設 | FY75 1975/3 | 売上高 3,509億円 | 当期純利益 83.9億円 | |||
経営陣が脱繊維を否定 歴史的意義yutaka sugiura 1970年代に業界各社が繊維から離れる判断を下す中、東レは繊維に残ることを選んだ。この判断は繊維事業への固執ではなく、繊維技術を起点とした多角化の方が技術的蓄積を活かせるという認識に基づいていた。脱繊維を選んだ企業が繊維技術の知見を手放したのに対し、東レは繊維の延長線上で炭素繊維や先端材料への展開を深めた。事業構造の転換において、何を残すかという判断が将来の選択肢を規定した事例である。 | FY76 1976/3 | 売上高 3,742.82億円 | 当期純利益 16.09億円 | |||
FY77 1977/3 | 売上高 4,189.82億円 | 当期純利益 41.02億円 | ||||
FY78 1978/3 | 売上高 4,074.8億円 | 当期純利益 9.47億円 | ||||
FY79 1979/3 | 売上高 4,038.08億円 | 当期純利益 84.41億円 | ||||
FY80 1980/3 | 売上高 4,809.76億円 | 当期純利益 139.13億円 | ||||
FY81 1981/3 | 売上高 5,307.08億円 | 当期純利益 123.21億円 | ||||
FY82 1982/3 | 売上高 5,568.14億円 | 当期純利益 107.35億円 | ||||
FY83 1983/3 | 売上高 5,654.98億円 | 当期純利益 140.07億円 | ||||
FY84 1984/3 | 売上高 6,126.05億円 | 当期純利益 156.18億円 | ||||
インターフェロン-β製剤の製造承認を取得 | FY85 1985/3 | 売上高 6,269.19億円 | 当期純利益 150.1億円 | |||
繊維部門の人員配置転換 | FY86 1986/3 | |||||
前田勝之助氏が社長就任 | FY87 1987/3 | |||||
B777向け炭素繊維を納入 歴史的意義yutaka sugiura 東レの航空機向け炭素繊維事業は、B767での限定的な採用からB777での本格採用へと段階的に拡大した。この過程で蓄積された品質データ、認証対応、工程管理の経験は他社が短期間で模倣しにくい参入障壁となった。設計段階から材料が組み込まれる航空機用途では、取引実績そのものが競争優位の源泉となる構造がある。一方で、主要顧客がボーイングに集中する事業構造は、顧客の開発計画に事業の浮沈が左右されるリスクを同時に内包していた。 | FY91 1991/3 | |||||
長期経営ビジョンAP-G2000を策定 | FY92 1992/3 | 売上高 9,767億円 | 当期純利益 277億円 | |||
FY93 1993/3 | 売上高 9,705億円 | 当期純利益 269億円 | ||||
カラーフィルターの量産開始 液晶(TFT)向けのカラーフィルターの量産を瀬田工場で開始。1999年までにLM-1からLM-4までの4ラインを稼働して拡大する液晶需要に対応したが、2002年ごろから価格競争により収益性が悪化。 | FY94 1994/3 | 売上高 8,841億円 | 当期純利益 143億円 | |||
中国での現地生産開始 通称「南通プロジェクト」を開始。江蘇省で100万平方メートルの土地を取得して、繊維の現地生産を意図した。 | ||||||
FY95 1995/3 | 売上高 9,005億円 | 当期純利益 100億円 | ||||
FY96 1996/3 | 売上高 9,413億円 | 当期純利益 182億円 | ||||
FY97 1997/3 | 売上高 10,468億円 | 当期純利益 233億円 | ||||
長期経営ビジョンNew AP-G2000を策定 | FY98 1998/3 | 売上高 10,877億円 | 当期純利益 247億円 | |||
FY99 1999/3 | 売上高 10,011億円 | 当期純利益 81億円 | ||||
最終赤字に転落 退職給付債務および販売用不動産の再評価により、FY1999に特別損失1373億円を計上。巨額投資(2000億円を投下)した海外事業の不振、磁気テープの需要減少(ポリエステルフィルム事業の苦戦)もあって営業利益が伸び悩み、2000年3月期に東レは最終赤字657億円に転落した。 | FY00 2000/3 | 売上高 9,905億円 | 当期純利益 -657億円 | |||
| 榊原定征 | FY01 2001/3 | 売上高 10,754億円 | 当期純利益 169億円 | |||
| 榊原定征 | FY02 2002/3 | 売上高 10,157億円 | 当期純利益 38億円 | |||
| 榊原定征 | 中期経営課題NT21を策定 | FY03 2003/3 | 売上高 10,329億円 | 当期純利益 57.9億円 | ||
| 榊原定征 | FY04 2004/3 | 売上高 10,885億円 | 当期純利益 209億円 | |||
企業買収 | 榊原定征 | 蝶理を子会社化 繊維商社の蝶理を子会社化した。すなわち繊維事業のグローバル販売網を取り込み、東レ本体の繊維部門と商社機能を一体化する再編となった。 | FY05 2005/3 | 売上高 12,986億円 | 当期純利益 343億円 | |
| 榊原定征 | B787向け炭素繊維を納入 歴史的意義yutaka sugiura B787への全面採用は、40年近く赤字を許容した技術投資が報われた帰結であった。16年間1兆円規模の独占供給契約は、長期的な技術蓄積と供給実績が参入障壁として機能した結果である。一方で、収益の大部分がボーイングという単一顧客に依存する構造は、顧客側の生産計画や経営判断に事業が左右されるリスクを内包していた。技術投資の回収と顧客集中リスクが表裏一体で生じた点に、この事業の構造的な特性がある。 | FY06 2006/3 | 売上高 14,274億円 | 当期純利益 474億円 | ||
| 榊原定征 | FY07 2007/3 | 売上高 15,464億円 | 当期純利益 585億円 | |||
| 榊原定征 | FY08 2008/3 | 売上高 16,496億円 | 当期純利益 480億円 | |||
| 日覺昭廣 | FY09 2009/3 | 売上高 14,715億円 | 当期純利益 -163億円 | |||
| 日覺昭廣 | 2期連続の最終赤字に転落 | FY10 2010/3 | 売上高 13,596億円 | 当期純利益 -141億円 | ||
| 日覺昭廣 | FY11 2011/3 | 売上高 15,396億円 | 当期純利益 579億円 | |||
| 日覺昭廣 | FY12 2012/3 | 売上高 15,886億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 642億円 | |||
| 日覺昭廣 | FY13 2013/3 | 売上高 15,922億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 484億円 | |||
重要事項企業買収 | 日覺昭廣 | Zoltek Companiesを買収 歴史的意義yutaka sugiura Zoltek買収は航空機偏重の炭素繊維事業を産業用途に広げる意図で実行された。風力発電市場の成長を前提とした約1000億円の投資判断であったが、需要の拡大は想定通りには進まず、のれんの全額減損に至った。技術的な参入障壁が高い航空機用途での強みが、産業用途では価格競争力と市場規模の予測精度に置き換わるという事業特性の違いを、東レは結果として見誤った形となった。 | FY14 2014/3 | 売上高 18,377億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 596億円 | |
| 日覺昭廣 | FY15 2015/3 | 売上高 20,107億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 710億円 | |||
| 日覺昭廣 | FY16 2016/3 | 売上高 21,044億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 901億円 | |||
| 日覺昭廣 | FY17 2017/3 | 売上高 20,264億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 994億円 | |||
| 日覺昭廣 | FY18 2018/3 | 売上高 22,048億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 959億円 | |||
重要事項企業買収 | 日覺昭廣 | TCACを買収 歴史的意義yutaka sugiura TCAC買収は炭素繊維を原料供給から複合材料事業へと拡張する戦略的意図に基づいていた。中間材料の技術を取り込むことで用途別の設計対応力が強化された一方、Zoltekと合わせて約2000億円の投下資本が積み上がった。事業領域の拡張と投下資本の回収は常にトレードオフの関係にあり、買収によって技術基盤は厚くなったが、それが投下資本に見合う収益として回収されるかは市場環境に依存する構造となった。 | FY19 2019/3 | 売上高 23,888億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 793億円 | |
| 日覺昭廣 | FY20 2020/3 | 売上高 22,146億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 557億円 | |||
| 日覺昭廣 | 米国で人員解雇 ボーイング向けの炭素繊維部材の販売低迷を受けて、東レの米国子会社において25%の人員削減を決定。 | FY21 2021/3 | 売上高 18,836億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 391億円 | ||
| 大矢光雄 | FY22 2022/3 | 売上高 22,285億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 842億円 | |||
| 大矢光雄 | FY23 2023/3 | 売上高 24,893億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 728億円 | |||
| 大矢光雄 | 中期経営課題PJ「AP-2025」を開始 2023年に東レは3カ年の中期経営課題プロジェクト「AP-2025」を策定。成長領域として「繊維・機能化成品」を選定し、自動車市場(人工皮革・エアバッグ)・電子材料向けへの部材供給に注力する方針を打ち出した。なお、炭素繊維複合材料については、低迷していた航空機向け需要の取り込みを課題に掲げた。 | FY24 2024/3 | 売上高 24,645億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 218億円 | ||
重要事項 | 構造改革「Dプロ」の開始 歴史的意義yutaka sugiura Dプロは低収益事業を一律に切り離すのではなく、ROICの成立条件を事業単位で検証する装置として設計された。成長投資と構造改革を同一の評価基準に置くことで、従来は規模維持が優先されてきた事業に対して、投下資本に見合う利益を求める判断の根拠が整備された。実効性は個別事業での判断の徹底にかかるが、過去の意思決定を数値で相対化する仕組みを持ったこと自体が、東レの経営において構造的な変化である。 | |||||
政策保有株式の順次売却を公表 | ||||||
| 大矢光雄 | FY25 2025/3 | 売上高 25,632億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 779億円 | |||
FY26 2026/3 | 売上高 25,851億円 | 親会社株主に帰属する当期純利益 795億円 |
- 東洋レーヨンを設立東洋レーヨンの設立は、三井物産が第一次大戦後の利益を化学繊維に投じた事業判断に端を発する。帝人が先行する市場に後発で参入しながら国内首位に至った要因は、技術の先進性よりも、量産体制の構築速度と三井物産の販路活用にあった。自社の技術者育成を優先し、工程を外部に依存しない体制を整えた点は、後の合成繊維や先端材料への展開を可能にした組織的な技術基盤の原型でもある。
- レーヨンで国内シェア確保
- 瀬田工場を新設
化学繊維レーヨンの紡織に参入するため、滋賀県内に瀬田工場を新設
- 国内2社を合併
戦時下における企業統合により、庄内川レーヨンおよび東洋絹織を買収
- 東京証券取引所に株式上場
- 米デュポンとナイロンの技術提携契約を締結資本金7.5億円に対して10.8億円の技術導入費を投じた判断は、通常の投資評価では正当化しにくい。この意思決定を支えたのは、レーヨン事業で確保した収益基盤と、三井グループの資本的な支援体制であった。不確実な市場に先行投資できた条件は技術的先見性ではなく、失敗しても事業継続が可能な財務的余地の存在にあった。この構造は、後に炭素繊維で長期赤字を許容した判断にも通底している。
- 英国ICI社ポリエステルに関する技術提携契約を締結
- 三島工場完成、ポリエステル繊維「テトロン」生産開始
三島工場が完成し、ポリエステル繊維「東レテトロン」の生産を開始した。1957年のICI技術導入を受けたポリエステル事業立ち上げの本拠地となり、ナイロン後の主力繊維へと育つ起点となった。
- ポリエステルフィルム「ルミラー」本格生産開始
ポリエステルフィルム「ルミラー」の本格生産を開始した。すなわち繊維で開発したポリエステル技術をフィルム分野へ転用し、後の磁気テープ・電子部材向け基盤事業へ拡大する起点となった。
- PNC法でプロラクタムの生産開始
ナイロン原料であるカプロラクタムの内製を開始
- 基礎研究所を新設
- 商号を東レ株式会社に変更
非繊維事業を拡大するために、商号を東洋レーヨンから東レに変更
- 樹脂とフィルムに設備投資東レの樹脂・フィルム事業への展開は、高分子技術の転用という技術的合理性に基づいていた。繊維で培った合成・成形技術を工業材料に応用することで開発リスクを抑制し、成長市場の需要を取り込んだ。一方で、磁気テープ用途のように市場構造の変化によって需要が消失するリスクも内包しており、技術的に参入可能な市場が長期的に収益を生む市場と一致するとは限らないことを示す事例でもある。
- 炭素繊維の生産開始炭素繊維事業は発売から40年近く赤字が続いたが、東レはこの間、撤退を選択しなかった。この判断を支えたのは、技術開発を事業成果で即時に評価しないという意思決定構造であった。繊維事業の安定収益が赤字事業への資金供給を可能にし、ナイロン投資で培われた「技術で先行する」という企業文化が撤退判断を遠ざけた。技術の蓄積と市場の立ち上がりが一致する保証はなかったが、技術を止めなかったことが結果として競争優位を生んだ。
- 炭素繊維「トレカ」の生産開始
炭素繊維「トレカ」の生産を本格化した。アクリル繊維からの発展で生まれた素材で、40年に及ぶ赤字を経たうえで航空機用途として収益化される長期投資の起点となった。
- 石川工場を新設
ポリエステル繊維の生産拠点として新設
- 経営陣が脱繊維を否定1970年代に業界各社が繊維から離れる判断を下す中、東レは繊維に残ることを選んだ。この判断は繊維事業への固執ではなく、繊維技術を起点とした多角化の方が技術的蓄積を活かせるという認識に基づいていた。脱繊維を選んだ企業が繊維技術の知見を手放したのに対し、東レは繊維の延長線上で炭素繊維や先端材料への展開を深めた。事業構造の転換において、何を残すかという判断が将来の選択肢を規定した事例である。
- インターフェロン-β製剤の製造承認を取得
- 繊維部門の人員配置転換
- 前田勝之助氏が社長就任
- B777向け炭素繊維を納入東レの航空機向け炭素繊維事業は、B767での限定的な採用からB777での本格採用へと段階的に拡大した。この過程で蓄積された品質データ、認証対応、工程管理の経験は他社が短期間で模倣しにくい参入障壁となった。設計段階から材料が組み込まれる航空機用途では、取引実績そのものが競争優位の源泉となる構造がある。一方で、主要顧客がボーイングに集中する事業構造は、顧客の開発計画に事業の浮沈が左右されるリスクを同時に内包していた。
- 長期経営ビジョンAP-G2000を策定
- カラーフィルターの量産開始
液晶(TFT)向けのカラーフィルターの量産を瀬田工場で開始。1999年までにLM-1からLM-4までの4ラインを稼働して拡大する液晶需要に対応したが、2002年ごろから価格競争により収益性が悪化。
- 中国での現地生産開始
通称「南通プロジェクト」を開始。江蘇省で100万平方メートルの土地を取得して、繊維の現地生産を意図した。
- 長期経営ビジョンNew AP-G2000を策定
- 最終赤字に転落
退職給付債務および販売用不動産の再評価により、FY1999に特別損失1373億円を計上。巨額投資(2000億円を投下)した海外事業の不振、磁気テープの需要減少(ポリエステルフィルム事業の苦戦)もあって営業利益が伸び悩み、2000年3月期に東レは最終赤字657億円に転落した。
- 中期経営課題NT21を策定
- 蝶理を子会社化
繊維商社の蝶理を子会社化した。すなわち繊維事業のグローバル販売網を取り込み、東レ本体の繊維部門と商社機能を一体化する再編となった。
- B787向け炭素繊維を納入B787への全面採用は、40年近く赤字を許容した技術投資が報われた帰結であった。16年間1兆円規模の独占供給契約は、長期的な技術蓄積と供給実績が参入障壁として機能した結果である。一方で、収益の大部分がボーイングという単一顧客に依存する構造は、顧客側の生産計画や経営判断に事業が左右されるリスクを内包していた。技術投資の回収と顧客集中リスクが表裏一体で生じた点に、この事業の構造的な特性がある。
- 2期連続の最終赤字に転落
- 米国で人員解雇
ボーイング向けの炭素繊維部材の販売低迷を受けて、東レの米国子会社において25%の人員削減を決定。
- 中期経営課題PJ「AP-2025」を開始
2023年に東レは3カ年の中期経営課題プロジェクト「AP-2025」を策定。成長領域として「繊維・機能化成品」を選定し、自動車市場(人工皮革・エアバッグ)・電子材料向けへの部材供給に注力する方針を打ち出した。なお、炭素繊維複合材料については、低迷していた航空機向け需要の取り込みを課題に掲げた。
- 構造改革「Dプロ」の開始Dプロは低収益事業を一律に切り離すのではなく、ROICの成立条件を事業単位で検証する装置として設計された。成長投資と構造改革を同一の評価基準に置くことで、従来は規模維持が優先されてきた事業に対して、投下資本に見合う利益を求める判断の根拠が整備された。実効性は個別事業での判断の徹底にかかるが、過去の意思決定を数値で相対化する仕組みを持ったこと自体が、東レの経営において構造的な変化である。
- 政策保有株式の順次売却を公表