この買収は、首位企業が自らの強みの裏側に生まれた死角をどう埋めるか、という問いを映している。東レは炭素繊維そのもので世界首位に立ちながら、熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維基材では先頭にいなかった。TCACはその領域で航空宇宙向けの採用実績を積み上げており、東レの説明も、自社の炭素繊維技術とポリマー技術をTCACの製品群に投入して相乗効果を出し、両社の商流を融合して品揃えを拡大する、という補完の論理で組み立てられている。取得原価117,117百万円は、前年12月期の売上高が197百万ユーロの会社への値付けとしては重い。その重さは、顧客関連資産と技術関連資産68,978百万円、のれん65,783百万円という形で帳簿に残った。
同じ炭素繊維複合材料事業で買った2社は、10年後に正反対の姿になった。産業用のラージトウを担うはずだったゾルテックは、2024年3月期にのれんの全額が減損で消えた。一方TCACに配分したのれんは、コロナ禍で航空機需要が減少し生産設備の側で24,968百万円の減損を出した期も減損されず、円安も加わって2024年3月末には82,480百万円へ膨らんでいる。ただし2023年3月期には回収可能価額が帳簿価額を上回る幅が20,936百万円まで縮み、割引率が1.1%上がれば両者が並ぶと会社自身が開示した。技術の穴を買って埋める判断の成否は、航空機需要の戻り方に委ねられたままだといえる。