重要な意思決定
Zoltek Companiesを買収
背景
航空機用途に偏った炭素繊維事業の用途拡大の必要性
2010年代の東レの炭素繊維事業は、航空機向けを中心に高付加価値分野での地位を確立していた。しかし需要の大部分がボーイング向けに集中する構造は、顧客の生産計画に事業の浮沈が左右されるリスクを伴っていた。航空機以外の用途への拡大が経営課題として認識される中、風力発電や自動車といった産業用途が成長分野として注目されていた。
産業用途では、航空機向けほどの高品質は求められない一方、価格競争力と大量供給能力が要求された。東レが従来手掛けてきた高性能炭素繊維とは異なる市場セグメントであり、ラージトウと呼ばれる低コスト型の炭素繊維が適していた。東レ自身はラージトウ分野での量産体制を持っておらず、この市場への参入には技術・設備の両面での対応が必要であった。
決断
風力発電向け炭素繊維のZoltek社を約1000億円で買収
2014年2月、東レは米国Zoltek Companiesを買収した。取得のための支出は913億円、のれんとして232億円を計上した。Zoltekは風力発電翼向けのラージトウ炭素繊維を主力とする企業であり、産業用途での販路と量産技術を有していた。東レとしては、航空機向けの高性能炭素繊維に加え、産業用途の大量供給市場への参入を図る狙いがあった。
しかし、東レの意図に反して風力発電向け需要は期待通りに拡大しなかった。2020年代を通じて風力発電所向けの炭素繊維需要は低迷し、Zoltekの事業は計画を下回る水準で推移した。2024年3月期に東レはZoltek関連ののれん約139億円の全額減損を決定した。約1000億円を投じた買収は、産業用途への拡大という戦略的意図が市場の実態と乖離した結果となった。