米CSP HDを買収
自動車軽量化需要と素材メーカーの成長戦略
2010年代半ば、自動車産業では環境規制の強化を背景に、車体軽量化への要求が高まっていた。燃費規制や電動化の進展により、金属代替素材として複合材料の活用が注目されていた。ガラス繊維や炭素繊維を用いた部材は、構造部品や内外装用途での採用拡大が見込まれていた。 帝人は炭素繊維を中核素材としつつも、自動車分野では素材供給にとどまり、完成部品レベルでの顧客接点が限定的だった。自動車メーカーとの直接取引や量産対応力を持つ部品メーカーを取り込むことで、素材から部品までを一体で展開する構想が整理されていた。自動車向けマテリアルは、次の成長領域として位置付けられていた。
CSPおよびBrink HDの買収による部品事業参入
2017年1月、帝人は米国の自動車部品メーカーであるContinental Structural Plastics社を約850億円で買収し、全株式を取得した。CSP社は北米の自動車メーカーを主要顧客とし、ガラス繊維複合材を用いた構造部品を量産していた。帝人は同社の販路を活用し、自社の炭素繊維材料を展開することで売上拡大を狙った。 続いて2018年には、ドイツの自動車内装材メーカーであるBrink HD社を約95億円で買収した。吸音材など内装部品を手掛ける同社の取得により、帝人は米国と欧州に自動車部品の製造拠点を持つことになった。素材から部品までをカバーする体制を構築し、自動車向けマテリアル事業への集中投資を進める判断であった。
想定以上の追加投資と減損計上
買収後、帝人は自動車部品事業を統合し、2021年に海外マテリアル事業をTeijin Automotive Technologiesに集約した。管理体制とブランドの統一を進め、自動車メーカー向け事業の拡大を図った。しかし、米国拠点を中心に工場の生産性低下や労働力確保の難航が顕在化した。 とくに、買収時点で想定していた以上に、設備更新や工程改善への投資が必要となった点が収益を圧迫した。既存設備の老朽化や運営面の課題は、買収後に本格的な投下資本を要する局面となり、当初のROI想定との乖離を生んだ。結果として、2023年3月期には米国マテリアル事業で153億円の減損損失を計上した。自動車向け材料市場は拡大したものの、部品事業の維持・強化に必要な投資負担を十分に織り込めていなかったことが、収益課題として残る結果となった。