重要な意思決定
20234月

フィルム製品で大幅減益

背景

全社利益の大半を稼ぐフィルム事業の原料コスト構造

2010年代を通じて、東洋紡のフィルム事業は包装用と工業用を二本柱として全社利益の大半を稼ぐ基幹事業に成長していた。工業用フィルムでは液晶偏光子保護フィルム「コスモシャインSRF」が世界シェア60%を確保し、MLCC向けフィルムとあわせて安定的な収益源となっていた。包装用フィルムは食品包装をはじめとする汎用市場に向けた大量供給型の事業であった。

フィルム事業の原料は石油化学製品であり、国産ナフサ価格の変動が製造コストに直接影響する構造を持つ。原料価格が安定している局面では高い利益率を確保できるが、原料価格が急騰した場合には、最終製品への価格転嫁が追いつかないリスクを内在していた。2022年以降、世界的なエネルギー価格の高騰を受けてナフサ価格が上昇し、フィルム事業の原価構造が圧迫され始めた。

決断

包装用・工業用フィルムの値上げと価格転嫁の実行

2022年10月、東洋紡は包装用フィルム製品の値上げを発表した。しかし原料価格の高騰が想定を上回ったため、翌2023年4月に再度の値上げを決定した。対象は二軸延伸ポリプロピレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、リニアローデンシティ・ポリエチレンフィルム等であり、包装用フィルムを中心とした広範な製品群にわたる値上げであった。

2023年3月期のフィルムセグメントは、前年度の営業利益198億円から16億円へと大幅に減少した。原料価格の高騰に対して最終製品への価格転嫁が間に合わなかったことが直接の要因であり、値上げの実施にもかかわらず転嫁率は約70%にとどまった。全社利益の過半を担ってきた事業の急激な減益は、東洋紡の収益構造全体に影響を及ぼした。

結果

工業用フィルムの回復と包装用フィルムの低迷継続

2024年3月期においては、工業用フィルムの販売が回復し、コスモシャインSRFを中心とする液晶向けフィルムの需要が持ち直した。一方で包装用フィルムの収益は低迷が継続し、原料価格の高止まりと価格転嫁の不十分さが引き続き課題として残った。

フィルムセグメントの急減益は、東洋紡の利益が特定の事業セグメントに集中していたことのリスクを顕在化させた。工業用フィルムと包装用フィルムでは価格転嫁力に差があり、世界シェア1位の製品を持つ工業用と、汎用品が主体の包装用では、原料高騰局面における収益の耐性が異なることが明らかになった。