御幸HDを買収(御幸毛織)
高収益メーカーから不動産依存へと変質した御幸毛織の経営
御幸毛織は紳士服の製造と販売を手がける毛織物メーカーであり、1979年4月期には売上高経常利益率38%を達成するなど、高級紳士服への特化戦略で高い収益性を実現していた。国産の高級紳士服という差別化された事業モデルにより、繊維業界のなかでも異色の高収益企業として知られていた。
ところが1990年代以降、洋服の青山をはじめとする安価な輸入紳士服販売チェーンが台頭し、御幸毛織の主力市場である紳士服領域の価格帯が大幅に下がった。国内生産に依存した御幸毛織は価格競争力を失い、繊維事業の収益性が悪化した。2009年3月期には繊維事業が赤字に転落し、名古屋市内の工場跡地を活用した不動産賃貸事業の利益で経営を維持する状態に陥っていた。
関連会社の救済買収と負ののれん41億円の計上
東洋紡は1942年から御幸毛織に出資しており、約41%を保有する筆頭株主として半世紀超にわたり関係を維持していた。御幸毛織は2003年に持株会社体制へ移行し、御幸ホールディングスとして東証一部に上場していたが、繊維事業の不振から経営の立て直しが困難な状況にあった。
2009年5月、東洋紡は株式交換により御幸ホールディングスを完全子会社化した。取得原価は66億円。御幸HDの純資産が取得原価を上回っていたため、東洋紡は「負ののれん」として41億円を計上し、5年間にわたる均等償却を実施した。長年の関連会社に対する救済的な買収であり、繊維事業の再建というよりも、経営難に陥った出資先の処理という側面が強い判断であった。
毛織物事業と名古屋市内の不動産資産の取得
買収により、東洋紡は御幸毛織の紳士服向け毛織物事業と不動産事業を取得した。特に名古屋市内の一等地に所在する商業施設は、東洋紡の不動産ポートフォリオに新たな収益源を加えるものであった。繊維事業そのものの競争力回復よりも、不動産資産を含む総合的な資産取得が買収の実質的な内容であった。
東洋紡にとって御幸HDの買収は、約41%の出資を通じて長年関与してきた関連会社の経営悪化を放置できないという判断に基づいていた。負ののれん41億円が発生する取得条件は、買収価格が御幸HDの資産価値を下回ったことを意味し、繊維事業としての将来価値が市場から低く評価されていたことを反映していた。