重要な意思決定
19809月

PETフィルムに参入

背景

繊維不振下で進められたフィルム事業の選択肢検討

1970年代後半、ユニチカは繊維事業の収益低迷と工場閉鎖を経験し、事業ポートフォリオの再構築が経営課題として認識されていた。一方で社内には、ナイロンフィルムの製造を通じて蓄積された二軸延伸技術と装置運転の知見が存在していた。包装資材市場ではプラスチックフィルムの需要が拡大しており、PETフィルムは耐熱性・寸法安定性・透明性に優れた素材として食品包装や電子部品向けの用途開拓が進んでいた。ユニチカにとってPETフィルムへの参入は、既存のナイロンフィルム設備と延伸技術を転用できる点で追加投資額を抑制しやすい選択肢だった。

繊維中心の事業構成から非繊維分野への転換を図るなかで、技術的連続性のある領域を選ぶことが現実的と判断された。フィルム事業は繊維と比較して製品単価の下落圧力が緩やかであり、一定の利益率を維持しやすい特性を持つと見込まれていた。三和銀行による経営関与のもとで収益改善に資する事業展開が求められていた時期でもあり、完全な新規事業への大型投資よりも、既存技術の延長線上にある隣接領域への参入が選択肢として優先された。

決断

二軸延伸技術の転用によるPETフィルムの量産開始

1980年前後、ユニチカはPETフィルムの本格的な量産に踏み切った。既存のナイロンフィルム製造ラインの改造と二軸延伸技術の転用により、新規設備への投下資本を抑えながら生産体制を構築する方針が採られた。用途は食品包装用フィルムが中心に据えられ、品質の安定性と量産効率の確保が初期段階の経営課題とされた。繊維のように市場全体が縮小傾向にある領域ではなく、需要拡大が見込まれる産業用素材への参入という位置づけだった。

この決断により、ユニチカは繊維依存の事業構成から段階的に離れ、フィルム事業を非繊維領域の中核に位置づける方向に舵を切った。PETフィルムは参入後、食品包装にとどまらず電子材料や産業用途にも展開が広がり、後年の高分子事業拡大の起点となった。繊維事業からの撤退ではなく、収益を生む新領域を加えることで事業構成の重心を移す判断であり、ユニチカが非繊維分野で一定の競争力を持つ数少ない事業の出発点となった。