重要な意思決定
200910月

怪盗ロワイヤルをリリース

背景

国内SNS市場の収益化困難局面

2000年代後半、日本のインターネット業界では、SNSやコミュニティサービスの利用者数は拡大していたものの、広告モデルだけで安定的な収益を確保することは難しい状況にあった。DeNAもオークション事業やポータル運営を通じて一定の売上を確保していたが、ユーザー数の成長と収益成長が必ずしも連動しない構造に直面していた。国内市場では、検索連動型広告やディスプレイ広告において先行企業が優位を確立しており、新規参入者が同じ手法で規模拡大を図る余地は限定的であった。

一方、携帯電話の高機能化と定額通信の普及により、モバイル向けコンテンツの利用時間は急速に増加していた。従来のWebサービスとは異なり、モバイル領域では利用頻度が高く、かつ個人単位での課金が成立しやすい特性が見え始めていた。DeNA内部でも、広告収益に依存しないモデルを構築しなければ、事業規模の拡大と収益性の両立は難しいという認識が共有されつつあり、新たな収益源の探索が現実的な経営課題として浮上していた。

決断

課金前提のソーシャルゲーム投入

DeNAは、モバイル領域におけるユーザー行動の変化を踏まえ、アイテム課金を前提としたソーシャルゲームの開発と提供に踏み切った。その象徴的な施策が、2009年にリリースされた「怪盗ロワイヤル」である。このタイトルでは、従来のゲーム機向け作品のような完成度や操作性よりも、短時間での反復利用と他者との関係性を軸に設計が行われた。ゲーム内での競争や協力を通じて、ユーザー同士の行動がコンテンツ消費を促進する構造が意図的に組み込まれていた。

また、課金要素はゲーム進行を直接的に左右する位置付けとされ、無課金でも参加は可能だが、時間短縮や優位性を得るためには支払いが発生する設計が採用された。DeNAはこの仕組みを自社プラットフォーム上で展開し、外部決済に依存しない形で収益を回収できる体制を整えた。広告モデルからの転換は一時的な試行ではなく、事業の中核を移す判断として位置付けられており、人的資源や開発体制もソーシャルゲーム向けに再配分された。

結果

高頻度課金モデルによる収益急拡大

怪盗ロワイヤルの提供開始後、DeNAの売上構成は短期間で大きく変化した。従来は広告収入や取引手数料が中心であったが、ゲーム内アイテム課金が主要な収益源として台頭し、四半期ベースでの売上水準を押し上げた。ユーザー一人当たりの課金額は限定的であっても、利用頻度の高さとユーザー数の増加によって、総額としての収益規模が拡大する構造が形成された。

この結果、DeNAはモバイルソーシャルゲームを軸とする事業モデルを確立し、後続タイトルの投入や外部パートナーとの連携を進める基盤を得た。一方で、収益の多くが特定ジャンルに集中する構造も同時に生まれ、事業ポートフォリオの偏りという新たな論点も顕在化した。怪盗ロワイヤルのリリースは、単一タイトルの成功にとどまらず、DeNAの収益構造そのものを転換させる契機として位置付けられることになった。