重要な意思決定
20156月

アスクルを買収

背景

物流を持たぬECの限界

2000年代を通じてヤフーは「ヤフオク」によるCtoC領域で存在感を示したが、BtoCの物販領域では楽天やアマゾンに後れを取っていた。とりわけアマゾンは自社物流拠点への巨額投資を通じて配送品質を高め、楽天も物流統合構想を掲げるなど、EC競争は「集客力」から「物流力」へと軸足を移しつつあった。ヤフーは1日1億PV超の集客力を有していたものの、商品を安定的かつ迅速に届ける基盤を自社では持たなかった。 2012年に宮坂学氏が社長に就任すると、スマホシフトと並行してEC強化が重点課題に位置付けられた。ただし、ゼロから物流網を構築するには時間と資本が必要であり、上場企業としての収益責任を考慮すれば、単独投資は合理的とは言い難かった。そこでヤフーは、自前主義ではなく既存プレイヤーとの提携によって物流機能を補完する戦略を模索する。 その対象として浮上したのがアスクルであった。アスクルはBtoB通販で築いた全国6拠点の物流網を有し、2012年には日用品EC「LOHACO」を開始していた。ヤフーにとっては、集客と決済基盤を提供する代わりに、アスクルの物流機能と商品調達力を取り込むことで、Amazon型モデルへの対抗軸を構築できる可能性があった。

決断

追加取得で連結子会社化

ヤフーは2012年4月にアスクルへ第三者割当増資を通じて329億円を投じ、議決権ベースで約42%を取得した。これにより業務資本提携を開始し、LOHACO事業の拡大を共同で推進する体制を整えた。当初は持分法適用会社として独立性を維持しつつ、協業によるシナジー創出を図る構図であった。 しかし、EC競争が激化する中で、LOHACOの成長にはより迅速な意思決定と資本投入が必要と判断された。そこで2015年6月、ヤフーは追加出資を実施し、アスクルを連結子会社化する方針を決定した。上場企業を子会社化しつつ上場を維持する「親子上場」の形態を選択し、支配力を高める一方で市場からの資金調達機能は残す構造とした。 この決定は、EC強化を最優先する経営判断であったが、同時にガバナンス上の論点を内包していた。支配株主としてのヤフーが、少数株主の利益とどのように整合を図るのかという問題である。成長投資と企業統治のバランスをどう取るのかが、将来的な焦点となる布石でもあった。

結果

経営対立と統治問題の顕在化

2017年にアスクルの物流拠点で火災が発生し、LOHACO事業は打撃を受けた。競合のAmazonも日用品領域を強化し、価格競争と物流投資競争は一段と激化した。LOHACOは売上を伸ばしながらも営業赤字が続き、連結子会社であるがゆえにヤフーの業績にも影響を及ぼす構造となった。 2018年以降、ヤフーはLOHACO事業の譲渡や再編を提案したが、アスクル経営陣はこれを拒否した。最終的には2019年の株主総会でアスクル社長の再任が否決され、親会社による経営介入が実行される事態となった。この過程で「親子上場のガバナンス」が社会的議論の対象となり、日本取締役協会も意見書を公表するに至った。 結果として、ヤフーはアスクル支配を維持したものの、市場からは統治姿勢に対する疑義が提起された。EC強化を目的とした資本政策は、物流戦略の補完という合理性を持ちながらも、少数株主保護と支配株主責任という論点を顕在化させた。アスクル連結化は、成長戦略とコーポレートガバナンスが交錯した象徴的事例となった。