重要な意思決定
20203月

岩塩から塩ビまでの完全一貫生産体制を構築

背景

原料コストの外部依存という残された課題

シンテックは1974年の操業開始以来、塩ビ樹脂の主要原料である塩ビモノマー(VCM)を米ダウ・ケミカルから長期契約で調達してきた。ダウのプラントは岩塩地帯に位置し、安価な塩素を供給できる。もう一つのモノマー原料であるエチレンも、ナフサより安い天然ガスから製造されたものを外部から購入していた。この安い原料の安定調達がシンテックの競争力の源泉であった。

しかし、原料を外部に依存する構造には限界もあった。エチレンやVCMの市況が変動すれば、シンテックの利益率も影響を受ける。2008年にはルイジアナ州プラケマインで塩の電気分解から塩ビモノマーまでの一貫生産設備を稼働させ、塩素系原料の自給を実現していたが、エチレンは依然として外部調達に依存していた。

決断

エチレンプラントを自社建設、原料の完全自給を実現

2020年三月、シンテックはルイジアナ州でエチレン製造プラントの稼働を開始した。テキサス・ルイジアナの豊富な天然ガスを原料にエチレンを自社製造し、これを塩ビモノマー製造に投入する体制を構築した。これにより、岩塩→電解→塩素→塩ビモノマー→塩ビ樹脂の全工程に加え、エチレンの出発原料である天然ガスからの一貫生産体制が完成した。

この投資は、シンテックの50年にわたる事業展開の集大成であった。原料から最終製品まで、すべての工程を自社グループ内で完結させることで、外部市況の変動による利益率の振れを最小化した。同時に、原料調達における交渉力の制約も解消された。

結果

営業利益率「アップル超え」の収益構造が完成

エチレンの自社製造により、シンテックの原料コスト構造は米国の地の利を最大限に活かしたものとなった。天然ガスは米国で最も安価なエネルギー源であり、岩塩も無尽蔵に近い。この原料優位性に、ノンスケール重合技術による高い生産効率と、無借金経営による低い資本コストが重なり、信越化学グループの営業利益率は2023年3月期に35.5%に達した。日経新聞は「営業利益率アップル超え」と報じた。

2024年末にはプラケマイン工場の拡張が完了し、シンテックの年産能力は364万トンに到達した。1974年の操業開始時(10万トン)から50年で36倍に拡大した。原料調達から製品出荷まで一貫して自社内で完結するこのモデルは、汎用化学品の製造において到達しうる垂直統合の極致といえる。