Biogen Denmarkを買収
バイオCDMO事業における大型案件対応力の不足と生産規模の制約
2010年代後半、医薬品産業ではバイオ医薬品の比重が一段と高まり、開発と製造を分離する水平分業が定着していた。製薬企業は研究開発に経営資源を集中させ、製造工程はCDMOへの外部委託を常態化させていた。商業生産段階に入ったバイオ医薬品では大容量培養タンクを備えた生産能力が取引の前提条件となり、大型設備を持たないCDMOは受注可能な案件規模に上限が生じていた。
富士フイルムのCDMO事業は2011年の参入以降、小中規模タンクを中心とした設備構成で臨床段階や限定的な生産量の案件を主に受託していた。大型商業生産薬への対応力が制約となり、売上成長に上限が生じつつあった。CDMO市場では設備規模が競争力を規定する構造が明確化しており、大型培養設備の確保が次の成長条件として浮上していた。
バイオジェン製造子会社の買収による大型生産設備の一括取得
2019年、富士フイルムは米バイオジェンの製造子会社であるバイオジェン・デンマーク・マニュファクチャリングを約8億9千万ドルで買収した。これにより1万5千リットル級の大型培養タンク6基を含む生産設備、約800人の人員、複数の製薬企業との供給契約を同時に取得した。設備新設ではなく稼働中の商業生産拠点を取得することで、投下資本の回収開始を前倒しする判断であった。
買収により培養能力は合計約15万リットルへ拡張され、従来対応できなかった大型商業生産案件への参入が可能となった。CDMO売上は2018年度の約400億円から約700億円規模へ拡大し、量産対応を前提とした事業展開へ移行した。設備と契約を同時に取得する手法は、売上の立ち上がりを待たずに収益貢献を開始できる構造をもたらした。
CDMO事業の規模転換とヘルスケア領域における投資の連続性
バイオジェン子会社の買収は、富士フイルムのCDMO事業を臨床段階中心の受託から大型商業生産対応へと転換させた。デンマーク拠点は欧州市場へのアクセスと供給安定性の確保において戦略的な位置づけを持ち、グローバルな多拠点体制の中核となった。
この買収は2011年の参入から始まったCDMO事業の設備投資の連鎖における中間点に位置する。製造能力の規模拡大がそのまま受注可能な案件の拡大に直結するCDMO事業の特性は、段階的な大型投資を正当化する構造を持っていた。富士フイルムはこの買収を経て、ヘルスケア分野における投資の連続性を一層明確にした。