日立の画像診断事業を買収
ソフトウェアに偏った医療機器事業と大型装置ラインアップの不足
2010年代後半、富士フイルムは写真フィルムからの事業転換を進め、医療・ヘルスケアを中核成長分野として位置づけていた。診断画像を管理するPACSや画像解析ソフトウェアでは世界的な実績を持っていたが、MRIやCTといった大型の画像診断装置は自社で十分なラインアップを確保できていなかった。医療機器市場では装置とソフトを一体で提供する能力が競争力に直結しており、ソフトウェア単体では差別化が困難になりつつあった。
こうした中、日立製作所は事業の選択と集中を加速させ、画像診断機器事業の売却を検討していた。日立はMRIやCTなどの装置技術を保有していたが、地域ごとの営業・保守体制の維持に規模が必要であり、単独では収益確保が難しい事業構造となっていた。富士フイルムにとっては2016年の東芝メディカル買収で競り負けた経緯があり、装置事業を一気に補完できる機会として注目された。
日立製作所の画像診断機器事業を1790億円で取得
2019年12月、富士フイルムホールディングスは日立製作所の画像診断機器事業を約1790億円で買収すると発表した。対象はMRI、CT、超音波診断装置などを中心とする事業で、売上高は約1430億円規模であった。この買収により、装置とソフトウェアを一体で開発・提供できる体制の構築が目指された。
富士フイルムはAIによる画像解析や診断支援システムで蓄積した技術を、日立の装置技術と組み合わせることで診断精度の向上や撮影ワークフローの効率化を図る構想であった。CT画像のAI解析による病変の検出支援や撮影条件の自動最適化といった活用が想定されていた。ハードウェアとソフトウェアを統合することで、シーメンスやGEヘルスケアといった欧米の大手医療機器メーカーに対抗する事業基盤を築く判断であった。
ヘルスケア事業の装置領域拡充と統合型医療機器メーカーへの転換
2021年3月に買収が完了し、富士フイルムの医療機器事業は装置からソフトウェアまでを一貫して提供できる体制に移行した。MRIやCTの製品ラインアップが加わったことで、従来の画像管理システムや超音波診断装置との組み合わせによる包括的な提案が可能となった。
この買収は、富山化学の買収(治療領域)、バイオCDMO事業の構築(製造受託)に続く、富士フイルムのヘルスケア戦略における第三の柱として位置づけられる。診断装置の取得によって、予防・診断・治療の各領域にわたる事業基盤が整備され、VISION2030で掲げるヘルスケア中核化の具体的な足場が構築された。