重要な意思決定
20082月

富山化学を買収

背景

画像診断に偏った医療事業と治療領域への拡張の必要性

2000年代後半、富士フイルムは写真フィルム事業の構造的縮小を受け、メディカル・ライフサイエンス事業を次の成長軸として位置づけていた。X線画像診断システムFCRや画像管理システムPACSなど画像診断分野では一定の事業規模を確立していたが、医療領域全体で見れば診断に偏った事業構成であった。予防・診断・治療を一体で提供できる体制を構築することが中長期の課題として意識されていた。

一方、富山化学は抗ウイルス薬や中枢神経系薬を中心に有力な創薬パイプラインを保有していたが、研究開発費の増大やグローバル展開への対応が経営を圧迫していた。2007年度には最終赤字を計上しており、中堅製薬企業として単独での事業継続には資本面・経営面の制約が強まっていた。異業種からの資本参加によって研究開発投資を維持する選択肢が現実的な解として浮上していた。

決断

第三者割当増資とTOBを組み合わせた富山化学の子会社化

2008年2月、富士フイルムホールディングスは富山化学を事実上買収すると発表した。富山化学が約300億円の第三者割当増資を実施し、富士フイルムが株式公開買い付けを行って子会社化する枠組みであった。最終的に富士フイルムが66%、大正製薬が34%を保有する体制が示された。異業種メーカーによる製薬企業の買収は当時としては珍しく、事業領域の非連続な拡張を意図した判断であった。

富士フイルムはこの買収を通じて、診断中心だった医療事業を治療領域へ拡張する方針を明確にした。富山化学が保有する抗インフルエンザ薬T-705(後のアビガン)などのパイプラインに研究開発資金を投下し、創薬の継続を支援する構想であった。画像診断で蓄積した画像処理技術や写真フィルムで培った乳化分散技術を創薬プロセスに応用する点も狙いとして提示されていた。

結果

医薬品事業の足場構築とヘルスケア戦略の方向性の確定

富山化学の買収により、富士フイルムは医薬品の研究開発・製造・販売を担う事業基盤を獲得した。2014年にはT-705が条件付きで承認を取得し(商品名アビガン)、新型インフルエンザ対策の備蓄薬として政府に採用された。創薬パイプラインの一部が承認に至ったことで、写真フィルムメーカーが医薬品事業に参入するという非連続な事業拡張が一定の実績を伴って進展した。

より広い文脈では、富山化学の買収は富士フイルムのヘルスケア戦略の方向性を確定させた判断であった。診断から治療へと事業領域を広げたことで、その後のバイオCDMO参入や日立画像診断事業の買収といった一連のヘルスケア投資の起点となった。医薬品事業単体の収益規模は限定的であったが、ヘルスケアを全社の成長軸に据える経営判断の実質的な出発点として機能した。