重要な意思決定
20054月

富士フイルム九州株式会社を設立

背景

フィルム需要の構造的縮小と液晶部材市場への成長軸の転換

2000年前後、デジタルカメラの普及により写真フィルムの需要低迷が現実のものとなり、富士フイルムは構造的な売上減少に直面していた。2001年の富士ゼロックス連結化によって連結売上高の下支えは実現したものの、自律的な成長事業の確立という点では課題が残っていた。写真フィルムに代わる大型事業をどの分野に設定するかが、経営の最重要論点となっていた。

この局面で注目されたのが液晶ディスプレイ向け部材市場であった。2004年前後、世界的にブラウン管テレビから液晶テレビへの移行が加速し、液晶パネルの生産量が急拡大していた。富士フイルムは液晶ディスプレイが次世代テレビの主流となる方向に投資判断を置き、その中核部材である偏光板保護フィルム(TACフィルム)を次の成長事業として位置づけた。TACフィルムは写真フィルムで培った精密塗布技術を直接活用できる製品であり、同社は当時世界シェア約80%を確保していた。

決断

熊本に量産拠点を新設し累計3000億円の集中投資を実行

2005年4月、富士フイルムは偏光板保護フィルムの量産拠点として富士フイルム九州株式会社を設立し、熊本県菊陽町に工場を新設した。液晶ディスプレイメーカーからの大量供給要請を背景に、1ラインあたり約400億円規模の設備投資が前提とされた。2006年の第1ライン稼働から2013年の第8ライン稼働まで、累計約3000億円が投下される大規模な量産体制の構築が進められた。

この投資判断の背景には、TACフィルムが液晶パネルの不可欠な部材であり、代替材料が容易には登場しないという技術的優位への確信があった。富士フイルムの精密塗布技術は参入障壁として機能しており、世界シェア80%という独占的な地位を維持しながら需要拡大に対応する体制を整える判断であった。写真フィルムの製造設備と人員を液晶部材に転用できる点も、投資効率を高める要因となっていた。

結果

液晶部材事業の急成長から需要一巡を経た成熟局面への移行

液晶テレビ需要の急拡大に伴いFPD部材事業は売上を伸ばし、FY2010には2185億円と過去最高水準に達した。写真フィルム事業の売上減少を部分的に補完する役割を果たし、富士フイルムの事業ポートフォリオにおいて一時的に中核的な成長事業としての地位を確立した。

一方、FY2011以降は液晶パネル需要の一巡と代替材料の台頭により売上は減少に転じ、現在は1000億円前後で推移している。ライン増設は2013年を最後に停止しており、事業は成熟局面に移行した。写真フィルムの技術資産を活用した成長投資として一定の成果を上げたが、市場の成熟化に伴い、富士フイルムは再び次の成長軸の探索を迫られることになった。