資生堂ジャパンで早期退職者を募集
インバウンド特需の消失と事業売却後に残った固定費構造
2019年まで資生堂の日本事業は、インバウンド需要と高価格帯スキンケアの拡大により高い利益水準を維持していた。しかし新型感染症の拡大により訪日客需要は急減し、中国人観光客による購買も縮小した。回復局面に入った後も消費行動は変化し、一人あたりの購入単価は低下した。中国市場では価格競争が進行し、高価格帯ブランドの収益性は圧迫された。
加えて、2021年に「TSUBAKI」「UNO」などを含むパーソナルケア事業を売却したことで、日本事業は販売回転の速い安定収益源を失った。固定費の高い事業構成のまま、限界利益の小さい中・高価格帯化粧品への依存が高まり、2022年度にはコア営業利益が赤字に転落した。収益回復には事業規模に見合った固定費の削減が不可避な状況となっていた。
資生堂ジャパン従業員の1割超にあたる1500名の早期退職を実施
2024年2月、藤原憲太郎(資生堂社長COO)は日本事業改革の一環として大規模な早期退職募集を発表した。対象は資生堂ジャパンの社員約1,500名で、日本事業従業員の1割超に相当した。45歳以上かつ勤続20年以上を条件とし、特別加算金を上乗せする内容で、構造改革費用の大半を人件費削減に充てた。
同時に「人財変革」を掲げ、国内EC比率の引き上げや営業拠点の再編を進める方針が示された。2026年にも追加の希望退職を実施し、国内外で人員削減を継続した。人員構成の再定義と固定費圧縮を並行させることで、インバウンド特需に依存していた日本事業の収益構造を再設計する判断であった。
人員削減と事業構造の再設計が問う高価格帯集中戦略の持続性
早期退職の実施により、人件費を中心とした固定費の圧縮が進められた。しかし売上の回復が伴わない中での費用削減は、事業規模の縮小を意味する側面もあった。日本事業はインバウンド需要と中国市場の変動に左右されやすい構造が残っており、固定費削減だけでは収益の安定化に限界がある状況であった。
一連の構造改革は、2021年のパーソナルケア事業売却、2022年の日本事業赤字転落、2024年の大規模人員削減という因果の連鎖として整理される。高価格帯への集中と事業売却によって投下資本効率の改善を目指した戦略は、同時に収益の緩衝材を剥がす結果をもたらした。資生堂が掲げる2030中期経営戦略のコア営業利益率10%以上の達成には、人員削減の先にある売上成長の回復が条件として問われている。