メガブランドに集中投資
約100ブランドへの分散投資がもたらしたROI低下と売上鈍化
2000年代初頭の資生堂は、約100に及ぶブランドを保有していた。ドラッグストアやコンビニといった新興チャネルの拡大に対し、チェインストア中心の販売網は対応が遅れた。各ブランドへの広告宣伝費は分散し、1ブランドあたりの投下資本は限定的となっていた。マーケティング部門は短期的な需要対応を優先して新ブランド投入を繰り返したが、売上成長は鈍化しROIは低下した。
売上目標未達が常態化する中で、事業ポートフォリオは複雑化していた。売れ行き不振を補うための新商品投入が開発費・販促費をさらに押し上げる循環が生じ、投下資本の回収効率は悪化していた。こうした状況下で2005年に前田新造が社長に就任し、経営企画責任者として関与してきた3カ年計画の実行を主導する立場となった。
ブランド数を圧縮しメガブランドへの集中投資に方針転換
前田は、成長と利益率の同時回復にはブランドへの集中投資が不可欠と判断し、「メガブランド戦略」を掲げた。多数のブランドを整理し、限られた基軸ブランドに広告宣伝と販売促進を集中投下する方針が示された。スキンケア・ボディ・ヘアの3分野を対象領域とし、トイレタリーと化粧品の融合を意図した展開が設計された。
同時に、ブランドマネージャー制を導入し、商品企画から宣伝、営業連携までを一人の責任者が一元管理する体制を構築した。これはヘアケア分野で競合するP&Gやユニリーバを意識した運営手法と推定される。2005年以降、事業撤退と統合を進めブランド数は段階的に圧縮された。投下資本の向け先を絞ることで、1ブランドあたりの広告宣伝費を引き上げる設計であった。
TSUBAKIのヘアケアシェア首位達成とマーケティング効率の改善
2005年8月に「MAQUILLAGE」「UNO」、2006年に「AQUA LABEL」「TSUBAKI」が順次展開された。とくに「TSUBAKI」では女優12名とSMAPを起用したテレビCMに推定50億円規模の広告宣伝費が投下された。大規模な認知獲得投資により、TSUBAKIは発売から短期間で市場に浸透し、2008年には国内ヘアケア市場でシェア首位に到達した。
メガブランド群は国内化粧品売上の8割超を占めるまでに拡大し、マーケティング投下資本の効率は改善した。ブランド集約と集中投資により、事業ポートフォリオの整理と売上成長の回復が同時に進行した。前田は「七つのブランドを足しても長年トップ3にすら入れなかったヘアケアで、TSUBAKIただ一つでトップシェアを頂いた」と振り返っており、集中投資の効果を端的に示す結果となった。