VISAと提携。エポスカードの発行を開始
ハウスカードの「30歳離脱問題」がVISA提携カードへの転換を促した構造的課題
1960年代のクレジットカード発行以来、丸井は来店者に対して赤いハウスカードを発行してきた。店舗での即時発行が可能である一方、利用先は丸井の店舗に限定されるという制約があった。丸井の主要顧客は20代の若者であり、30歳を過ぎるとファッションの嗜好が変化して丸井での買い物が減少し、それに伴いカードの利用頻度も低下するという構造的な課題が存在していた。
この「30歳離脱問題」はハウスカードの仕組みに内在する構造的課題であった。丸井の店舗で買い物をしなくなった顧客を引き留める手段が存在せず、カード会員基盤は常に20代の新規獲得で補充し続けなければ縮小する構造にあった。顧客のライフサイクルに応じてカードの利用先を丸井の外に拡張しなければ、会員の獲得コストが会員から得られる生涯収益を圧迫し続ける状態であった。
丸井はこの課題を解決するため、クレジットカードを外部の加盟店でも利用できる汎用カードとして再設計する方針を決定した。丸井店舗での買い物がなくなっても、日常的なカード決済を通じて加盟店手数料とリボ払い手数料を確保する仕組みへの転換であった。ハウスカードから汎用カードへの移行は、丸井の金融事業のビジネスモデルそのものの再設計を意味していた。
VISAスペシャルライセンシーを取得し店舗即時発行を維持したエポスカードを発行
2005年3月に丸井はVISAからスペシャルライセンシーを取得した。通常のVISA提携カードはカード発行会社がVISAのネットワークを介して処理を行うが、スペシャルライセンシーの取得により丸井自身がカード発行から処理までの独自システムを構築できた。このライセンスの狙いは、ハウスカード時代の強みであった店舗即時発行をVISA提携カードでも実現することにあった。
2006年4月にエポスカードの発行を開始した。VISA加盟店であれば世界中どこでも利用可能なカードでありながら、丸井の店舗で即日発行できるという特徴を兼ね備えた。丸井はエポスカードを通じて、外部加盟店からの手数料収入とショッピングリボ払いによる顧客手数料収入の2つの収益源を確保することを狙った。カードの利用範囲を丸井の外に拡張したことで、30歳以降も日常決済で利用され続けるカードへの転換が図られた。
エポスカードの発行と同時に、既存ハウスカード会員のエポスカードへの切り替えを推進した。5年が経過した2011年度には旧カードの比率が10%未満となり、会員転換をほぼ完了した。ハウスカードからVISA提携カードへの移行は、カード番号の切り替え・加盟店ネットワークへの接続・会員への告知を伴う大規模なオペレーションであり、スペシャルライセンシーによるシステムの自社構築がこの移行を可能にした。
外部加盟店での取扱高拡大によりキャッシングからショッピング手数料への転換が進行
エポスカード導入後、丸井店舗における取扱高は1200億円前後で横ばいが続いた一方、外部加盟店での利用が急速に拡大した。丸井の店舗で入会した顧客が日常のショッピングでエポスカードを使い続ける構造が形成されたことで、丸井の金融収入は店舗の業績に左右されにくい基盤を獲得した。カードの利用範囲が丸井の外に広がったことで、30歳離脱問題は構造的に解消に向かった。
収益面では、ショッピングリボ払いの手数料と加盟店手数料がキャッシングに代わる収益源として成長した。エポスカードの取扱高の増加に伴い、丸井が保有する割賦売掛金は拡大を続け、2016年度には期末残高3491億円に達した。青井浩社長は「エポスカードはちょうど貸金業法改正とほぼ同時にスタートした。キャッシングの利益が減っていく一方で、カードビジネスの手数料が上がってきて、7年後に元の水準まで稼げるようになった」と語っている。
エポスカードの発行が2006年4月であり、改正貸金業法の施行が同年12月であったことは、丸井にとって時機を得た判断であった。キャッシング依存からショッピング手数料ビジネスへの転換がなければ、グレーゾーン金利問題による財務危機はより深刻なものとなっていた可能性がある。エポスカードは丸井の金融事業における業態転換の中核として、ハウスカード時代から続くカード事業の延長線上に位置しつつ、収益構造を根本から作り替える役割を果たした。