高級水性樹脂(SAP)の製造を開始
紙おむつへのSAP採用と三洋化成・ユニチャーム陣営の先行
1980年代、紙おむつにおいて高吸水性樹脂(SAP)が採用されたことで市場が急速に拡大した。従来のおむつ原料は木質パルプであったが、SAPの吸収力が段違いであったため、吸水性素材として定着する技術革新が起きた。先鞭をつけたのは三洋化成とユニチャームであり、1978年に三洋化成がSAPの工業化に成功し、1981年にユニチャームがSAP採用の紙おむつ「ムーニー」を発売して市場シェアを拡大した。
この趨勢の中で苦境に立ったのがP&Gであった。国内紙おむつでシェア1位であったP&Gは、SAP採用で先行したユニチャームにトップの座を奪われた。P&Gは対抗策としてSAP採用の紙おむつ開発を急いだが、原料となる高吸水性樹脂の安定調達が課題であった。そこでP&Gは、SAPの原料であるアクリル酸の国内トップメーカーであった日本触媒に対して、SAP製造を要請した。
P&G向けSAP供給と原料一貫生産体制の構築
1985年に日本触媒は姫路工場においてSAPの製造を開始した。日本触媒は1970年にアクリル酸の国産化に成功しており、原料のアクリル酸からSAPまでの一貫生産体制を確立した点が競合との最大の差別化要因であった。設備投資によりSAPの生産能力は従来の1,000トンから30,000トンへと約30倍に増強されたと推定される。
製造したSAPは主にP&Gに供給された。三洋化成がユニチャーム陣営に供給する一方、日本触媒はP&G陣営に供給する構図が形成された。P&Gは世界最大の衛生用品メーカーであり、日本触媒はグローバル規模でのSAP供給を担うこととなった。後発参入ではあったが、世界最大の顧客を確保した上での参入であった。
アクリル酸・SAP一貫生産でシェア1位を獲得
1980年代後半を通じて、日本触媒はP&G向けのSAP供給で業容を急拡大した。P&Gがグローバルにおむつ事業を展開する中で、日本触媒は国内向けに加えて輸出によるSAP供給を拡大し、1986年度に国内SAP生産量1位(20,000トン)およびアクリル酸生産量1位(60,000トン)を達成した。売上高に占めるSAP関連の輸出比率は8割に達した。
アクリル酸からSAPまでの一貫生産は、原料調達の安定性とコスト競争力の双方で優位をもたらした。三洋化成など競合他社はアクリル酸を外部調達する必要があったのに対し、日本触媒は原料を内製することで利益率を高く維持できた。後発参入ながら、原料一貫生産という構造的優位がシェア逆転を可能にした。