中国EMS向けロボドリルの増産を決定。年間457億円の設備投資
iPhone生産拡大に伴うロボドリル需要の急増
2010年頃、AppleのiPhoneの生産台数が急増し、アルミニウム製筐体を切削加工するための小型工作機械「ロボドリル」への需要が拡大した。iPhoneの筐体はアルミの塊から精密に削り出す工法で製造されており、生産を担う中国・鴻海精密工業のEMS拠点では、iPhoneの増産に比例してロボドリルの調達が急務となっていた。ファナックにとって、NC装置やロボットに次ぐ成長ドライバーが出現した局面であった。
スマートフォン市場の拡大はiPhoneに限らず、韓国サムスン電子のスマートフォン生産でも同様のロボドリル需要が発生していた。ファナックはサムスンとの取引を拡大し、FY2014にはサムスン向け販売高が939億円に達した。スマートフォンの世界的な普及という構造的な需要変化が、ファナックの事業ポートフォリオに大きな影響を及ぼし始めていた。
年間457億円の設備投資によるロボドリル量産体制の構築
2011年頃、ファナックはロボドリルの量産投資を決定した。茨城県の筑波工場においてロボドリルの生産ラインを増強し、中国のEMSメーカー向けの出荷体制を構築した。FY2011におけるファナックの設備投資額は457億円に及び、その主な内訳は本社工場におけるロボット工場の新設と、筑波工場におけるロボドリルの増産体制の整備であった。NC装置という部品供給に加え、ロボドリルという最終製品の量産に大規模投資を振り向けた判断であった。
この投資の結果、2010年代を通じてファナックはアジア(主に中国・韓国)向けの売上高を大きく拡大した。ただし、ロボドリルは特定顧客の特定製品に需要が集中する性格を持ち、iPhoneの生産サイクルやモデルチェンジに業績が左右される構造が形成された。実際、2019年にはiPhone向けロボドリルの需要が減退し、ファナックは6割の減益を記録することになる。