重要な意思決定
19902月

ABCマート1号店を開業・小売業に参入

背景

卸売業者が自ら小売に参入する必然性と矛盾

1990年にITCは連結子会社「有限会社エービーシー・マート」を設立し、小売業に参入した。卸売業が主軸だったITCが小売業に踏み出した背景には、卸売では小売店の販売力に依存せざるを得ないという構造的制約があった。自ら小売を手掛ければ、販売現場でのブランド訴求や顧客接点を自社で管理できる。

ただし、卸売業者が小売に参入することは、卸売の顧客である他の小売店と直接競合する行為であった。通常であれば顧客との関係が悪化するリスクを伴うが、ITCはホーキンスなどの独占販売権を持っていたため、他の小売店はITCから仕入れざるを得ない立場にあった。この独占販売権が、卸売業者でありながら小売に参入できる例外的な条件を構成していた。

小売業への参入にあたり、ITCとABCマートは別法人として運営する体制をとった。ITCが引き続き卸売業を担い、子会社のABCマートが小売業を展開する二社体制により、既存の卸売事業への影響を最小限に抑える設計であった。

決断

上野アメ横・渋谷へのドミナント出店による若者向け小売の確立

1990年2月にABCマートは「本店(上野アメ横)」「1号店(上野アメ横)」「GALLOP上野店」「GALLOP渋谷店」の4店舗を同時開業した。上野アメ横は若者のショッピング地区として知名度があり、ABCマートもメンズの若者をターゲットに据えた。1998年度の時点でアメ横地区4店舗で合計18億円の売上を確保した。

アメ横に続いて注力したのが渋谷であった。1991年に本店比較で10倍の営業面積を持つ渋谷店(373㎡)を開業し、1993年に東急本店通り・センター街店、1999年にスペイン坂店を開業するなど、渋谷地区に集中出店した。渋谷地区3店舗で合計14億円の売上を確保し、同一地区に複数のABCマートが競合する異例の出店政策を採用した。

全国展開については慎重な姿勢をとり、2000年7月時点の直営店舗数は25店にとどまった。1999年までは東京都心部(渋谷・新宿・池袋・上野)への集中出店を基本路線とし、ドミナントによる知名度向上を優先した。年間数店舗の出店ペースで売上を着実に拡大した。

結果

営業利益率7.2%の高収益小売として事業基盤を確立

1996年度のABCマートの売上高は43億円・営業利益3.1億円(営業利益率7.2%)を確保し、小売業としては高収益な状態を実現した。ドミナント展開による知名度向上と、商品の高回転による在庫最小化が収益性を支えていた。

1998年度にはABCマートの売上高は80億円に達した。アメ横4店舗(18億円)と渋谷3店舗(14億円)で全体の40%を占める集中度の高い構成であった。都心部の路面店で若者向けシューズの販売実績を積み上げたことが、次のフェーズであるショッピングセンターへの積極出店の土台となった。

ABCマートの小売業としての成功は、ITCの卸売業からの業態転換を後押しする要因ともなった。卸売業の成長が鈍化する中で小売業が成長軌道に乗ったことで、2002年の事業統合と小売業特化の意思決定が構造的に導かれることとなった。