アルパインとの経営統合とオアシスとの委任状争奪戦
CASE時代への対応と親子上場の構造的矛盾
2017年、自動車産業はCASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)という大きな技術転換の入口に立っていた。車載部品メーカーにとっては、個別の部品を供給するだけでなく、コネクテッドカーに必要な統合的なプラットフォームを提案する能力が求められ始めていた。アルプス電気の電子部品(スイッチ、センサー等)とアルパインの車載情報機器(ナビゲーション、オーディオ等)を一体化すれば、こうしたプラットフォーム型の提案が可能になるという構想があった。
しかし経営統合にはもう一つの構造的な背景があった。アルプス電気はアルパイン株式の約40%を保有する親会社であり、アルパインは東証一部の独立上場企業でもあった。親子上場という構造は、親会社と少数株主の利益が相反する局面を構造的に孕んでいる。アルパインが独自の経営判断で30年間にわたり上場企業として成長し、北米市場でプレミアムブランドとしての地位を築いてきた一方で、親会社の戦略的判断が少数株主の経済的利益を毀損しうるという根本的な緊張関係が存在していた。
株式交換比率1:0.68でアルパインを完全子会社化
2017年7月、アルプス電気はアルパインとの経営統合を発表した。アルプス電気1株に対しアルパイン0.68株という株式交換比率が提示された。統合の目的は、電子部品と車載情報機器の一体化によるCASE対応プラットフォームの構築であった。この発表に対し、アルパインの少数株主であった香港のアクティビストファンド・オアシス・マネジメントが、株式交換比率はアルパイン株主に不利であるとして反対の声を上げ、統合議案の採否をめぐって委任状争奪戦に発展した。
2018年6月のアルパイン定時株主総会ではオアシスが特別配当と取締役再選反対の株主提案を行い、同年12月5日の臨時株主総会で経営統合議案の採否が問われた。結果は賛成73.3%で特別決議の要件を満たして可決されたが、親会社アルプス電気の保有分を除くと、一般株主の間では賛成32.38%に対し反対26.70%という僅差であった。30年間にわたり独立上場企業として蓄積してきた企業価値を、株式交換比率1:0.68で確定させることへの異議は根深いものがあった。
アルプスアルパイン誕生とガバナンスの教訓
2019年1月、アルパインを完全子会社化し、社名をアルプスアルパイン株式会社に変更した。1967年のモトローラとの合弁設立から52年、1988年のアルパイン東証上場から31年を経て、部品メーカーと完成品メーカーの「親子並走」は終わりを告げた。2020年4月にはアルパインから全事業(商標権・子会社管理を除く)を会社分割により継承し、組織統合が完了した。両社の長い歴史に一つの区切りがつけられたが、統合の真価は今後の収益で問われることになる。
しかし統合後の収益面では課題が残った。旧アルパイン領域を含むモジュール・システム事業は、2024年3月期に売上高5,543億円と全体の約57%を占めながら、セグメント利益は11億円の赤字であった。部品と完成品の一体化によるCASE対応プラットフォームの構築という統合の理念が、収益構造の改善にどう結びつくかは引き続き問われている。一方で臨時株主総会での僅差の可決は、親子上場の解消における少数株主保護のあり方について、日本の資本市場に一つの教訓を残した。