Bondi Sands Australiaを買収
グローバル・シャープトップ戦略とスキンプロテクション領域の重点化
花王は中期経営計画K27において、「グローバル・シャープトップ」という成長戦略を掲げた。これは世界全体の市場シェアを広く追うのではなく、特定の顧客ニーズに対してエッジの効いたブランドや技術で唯一無二の価値を提供するという考え方であった。国内市場を起点とした海外展開から脱却し、世界全体を市場として捉える姿勢への転換を明確にしたものであり、海外売上比率の引き上げを従来とは異なるアプローチで実現しようとするものであった。
成長領域として重点化されたのがスキンプロテクション領域であった。紫外線や外的環境から肌を守る製品群は、気候変動への意識の高まりとともにグローバルで需要が拡大していた。花王は日本市場においてUVケア技術を長年にわたって磨いてきた実績を持つが、セルフタンニングを含むグローバルなスキンプロテクション市場においては、確立されたブランドを持っておらず、自力での事業構築には相当の時間を要する状況にあった。
オーストラリアのプレミアムブランドBondi Sandsを412億円で取得
2023年7月、花王は子会社を通じてオーストラリアのスキンケアブランドBondi Sands社を約412億円で買収した。同社はセルフタンニングおよび日やけ止め製品を中心に、オーストラリア、英国、米国など32カ国で事業を展開し、とくにオーストラリアのセルフタンニング市場ではナンバーワンのシェアを獲得していた。花王はこの買収により、スキンプロテクション領域においてグローバル市場で即座に競争力を持つブランドを手に入れた。
花王がBondi Sandsに着目した背景には、同社のブランド力と販売網に加え、花王が日本国内で蓄積してきたUVケア技術との補完関係があった。花王の紫外線防御技術とBondi Sandsのブランド認知を組み合わせることで、日やけ止めとセルフタンニングの双方でグローバル展開を加速させる構想が描かれた。この判断は、日本発の技術を海外で展開するという従来のアプローチから、海外で確立されたブランドを軸に世界市場を攻めるという戦略への転換を示すものであった。
日本発技術の輸出からグローバルブランド軸の成長戦略への転換
Bondi Sandsの買収は、花王のグローバル戦略における新たな方法論を具現化したものとして位置づけられる。従来の花王の海外展開は、国内で開発した技術やブランドを各国に輸出するモデルが主流であったが、中国おむつ事業の撤退に見られるように、このモデルには現地市場への適応と競争環境の変化に対する脆弱性が内在していた。Bondi Sandsの取得は、すでに現地で確立されたブランドを起点に成長を図るアプローチへの移行を意味する。
買収後の統合においては、カネボウ化粧品買収時のPMI長期化という過去の教訓がどの程度反映されるかが注目される。Bondi Sandsは花王の既存事業と異なる市場・チャネルで独自のブランド価値を築いてきた企業であり、統合にあたっては花王の技術資産を活用しつつもブランドの独自性を維持する設計が求められる。K27の成長戦略が掲げるグローバル・シャープトップの実現性は、本件の統合成果によって問われることになる。