重要な意思決定
2006

カネボウ化粧品を買収

背景

後発参入した化粧品事業が抱えた専門店チャネルとブランド力の不足

花王は1982年に基礎化粧品「ソフィーナ」を発売し、化粧品事業に参入した。しかし化粧品業界では、資生堂やカネボウ、コーセーといった先発企業が百貨店・専門店チャネルを通じたブランド構築を長期にわたって積み上げており、後発の花王がこの構造に割って入ることは容易ではなかった。花王は日用品分野で量販店やドラッグストアとの取引基盤を持っていたが、化粧品の販売に不可欠な対面カウンセリング型の専門店網をほとんど持っておらず、GMS中心の販路に依存する構造が続いていた。

1980年代後半から1990年代にかけて、ファンケルやオルビスなど新興ブランドが通信販売やセルフ型チャネルを通じて成長を遂げたが、花王の化粧品事業はこうした潮流を十分に取り込むことができなかった。2000年代に入っても売上規模は業界内で4位にとどまり、ブランド認知と販路の両面で上位企業との差が縮まらない状況が続いた。自社開発による有機的成長だけでは化粧品事業の規模拡大が難しいという認識が、花王の経営陣のなかで次第に強まっていた。

決断

債務超過に陥ったカネボウの化粧品事業を4100億円で取得

一方、カネボウは繊維事業の長期低迷と粉飾決算問題により、2003年9月に債務超過に陥った。産業再生機構の支援のもとで再建が進められる中、利益の柱であった化粧品事業の売却が再建資金の確保手段として決定された。カネボウの化粧品事業は国内シェア2位の規模を持ち、専門店網を通じたブランド力を有していたが、母体の財務危機によって事業譲渡の対象となった。花王にとっては、自力では構築が困難だった専門店チャネルとブランド資産を一括で取得する機会が生じた。

花王は後藤卓也社長のもとで買収方針を決定し、4100億円での取得に合意した。買収交渉は2003年内の合意を目指して進められたが、利害関係者の調整に時間を要し、最終的な買収完了は2006年1月となった。買収により、花王は国内化粧品市場で4位から2位に浮上し、シェア約12%を獲得した。花王の日用品分野における量販店チャネルと、カネボウの専門店チャネルを組み合わせることで、販路の補完関係を構築できる点が買収の戦略的合理性として説明された。

結果

PMIの長期化と白斑問題が重なった化粧品事業の低迷

買収後の花王の化粧品事業は、期待された成果を上げることができなかった。花王は買収後も「花王の化粧品事業」と「旧カネボウの化粧品事業」を長期間にわたり分離して管理しており、物流・生産・研究開発・マーケティングの統合は遅々として進まなかった。日用品メーカーとして効率と再現性を重視する花王と、専門店網と感性価値を軸に発展してきたカネボウでは、事業の成り立ちや組織文化が根本的に異なっていたことが統合を困難にした。ブランド事業部の統合には約15年を要し、PMIの遅延が業績への影響を長引かせた。

さらに2013年7月、カネボウ化粧品の美白製品で白斑問題が発生し、FY2013からFY2015にかけて累積476億円の営業赤字を計上する事態に至った。インバウンド需要による一時的な売上回復はあったものの、化粧品事業全体の収益構造は改善されず、売上は長期にわたり伸び悩んだ。買収は規模の獲得という目的に対しては一定の成果を収めたが、異なる歴史と文化を持つ組織の統合を迅速に進められなかったことが、投資回収を遅らせた最大の要因であった。