重要な意思決定
20156月

光記録メディア事業からの完全撤退

背景

HDDとクラウドによる光記録メディア市場の急縮小

太陽誘電が1988年にCD-Rを世界初商品化して以来、光記録メディアは電子部品に次ぐ事業の柱であった。DVD-R、追記型ブルーレイディスクと技術を進化させ、That'sブランドは消費者に広く認知されていた。しかし2000年代後半からHDDの大容量化とクラウドストレージの普及が進み、光記録メディアの需要は急速に縮小した。デジタルカメラの記録媒体はSDカードに移行し、音楽・映像の流通はストリーミングに切り替わりつつあった。

太陽誘電は2011年3月期に記録メディア事業で70.3億円の減損を計上し、翌2012年3月には希望退職330名を募集して構造改革費用42億円を特別損失に計上した。当時の綿貫英治社長の下で記録メディアの構造改革が進められたが、市場縮小の速度は「想像を超える」ものであった。光記録メディアの世界出荷量はピークから急落し、構造改革を重ねても収益改善の見通しは立たなくなっていた。

決断

That'sブランド終了と電子部品への経営資源集中

2015年6月11日、太陽誘電は光記録メディア事業からの撤退を発表した。CD-R、DVD-R、ブルーレイディスクの全製品を対象とし、同年12月末でThat'sブランドの販売を終了するとした。プレスリリースでは「収益改善は困難と判断」と記され、事業継続の選択肢が消滅したことが示された。CD-R世界初商品化から27年、That'sブランド立ち上げからは33年を経ての撤退であった。

撤退決定の背景には、市場縮小だけでなく、構造改革を重ねても収益が改善しない状況があった。2011年の70億円減損と2012年の330名希望退職を経てなお赤字が続いた。一方、電子部品事業は車載向けやスマートフォン向けMLCCの需要拡大で成長余地があり、経営資源をMLCCのスーパーハイエンド製品に集中することで企業価値の最大化を図る方針が固まった。記録メディア事業の売却や他社への移管ではなく、完全撤退という判断が下された。

結果

MLCC中心の事業構造への転換と増産投資の布石

光記録メディアからの撤退により、太陽誘電は受動部品以外の事業を持たない純粋な電子部品専業メーカーとなった。経営資源の集中は設備投資に反映され、2023年には玉村工場・八幡原工場を中心にコンデンサの増産投資を決定(年間投資予定額240億円)。同年10月にはユーロ円建て転換社債で500億円を調達し、全額をMLCC増産に充当した。記録メディア撤退の判断が、その後の大型投資を可能にする前提条件となった。

撤退後の太陽誘電は「まねできない技術」(佐瀬克也社長)を掲げ、車載・AIサーバー向けの高付加価値MLCCに注力している。2025年8月にはAIサーバー向け基板内蔵対応MLCC 1005サイズ22μFを世界初商品化した。一方、中期経営計画2025の売上高4,000億円目標に対し2025年3月期実績は3,414億円にとどまる。記録メディア撤退が電子部品への集中を可能にしたことは確かだが、市況変動という受動部品専業メーカーの構造的課題は残されたままである。