ニッケル電極大容量MLCCの世界初商品化
MLCCの内部電極材料に起因するコスト構造の課題
積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、セラミックス誘電体と内部電極を数十から数百層積み重ねた構造を持つ。1970年代から1980年代にかけて電子機器の小型化・高密度化に伴いMLCCの需要は急速に拡大していたが、内部電極に貴金属であるパラジウム(Pd)を使用していたため、材料コストが製造原価の大きな部分を占めていた。パラジウムの価格は国際市況に左右され、MLCCメーカーにとってコスト管理と価格競争力の両面で構造的な課題となっていた。
太陽誘電は創業以来「素材の開発から出発して製品化を行う」ことを信条とし、誘電体セラミックスの材料開発を自社で手がけてきた。MLCCの性能は誘電体材料の組成と内部電極の整合性によって決まるため、材料の組み合わせを根本から見直すことができるのは、材料技術を持つメーカーに限られた。太陽誘電はパラジウムに代わる安価な金属を内部電極に用いる技術の開発に取り組み、候補として浮上したのがニッケルであった。
安価なニッケルを電極材料に用いたMLCCの開発
1984年7月、太陽誘電はニッケルを内部電極に用いた大容量MLCCを世界初商品化した。ニッケルはパラジウムに比べてはるかに安価であるが、焼成時に酸化しやすいという技術的な障壁があった。セラミックス誘電体は通常、酸化雰囲気で焼成するため、ニッケル電極は焼成中に酸化して導電性を失うリスクがあった。太陽誘電は還元雰囲気でも安定する誘電体セラミックスの組成を開発し、ニッケル電極との整合性を確保することでこの課題を解決した。
この技術革新は、材料設計の根本から取り組まなければ実現できないものであった。誘電体の組成を変えることは焼成条件、電気特性、信頼性のすべてに影響するため、材料の粒子レベルから制御する能力が必要とされた。外部から材料を調達して組み立てるタイプのメーカーには模倣が容易ではなく、太陽誘電の垂直統合型の開発体制が技術的優位の源泉となった。材料から製品までを一貫して開発するという創業以来の方針が、具体的な競争優位として結実した局面である。
MLCC普及の加速と世界シェア3位の基盤形成
ニッケル電極MLCCの商品化は、MLCCのコスト構造を根本的に変えた。貴金属であるパラジウムを安価なニッケルに置き換えたことで材料コストが大幅に低下し、MLCCの価格競争力が飛躍的に向上した。この技術はその後MLCC業界全体に普及し、現在では大部分のMLCCがニッケル電極を採用している。太陽誘電は業界標準となる技術を最初に商品化することで、MLCCメーカーとしての技術的評価を確立した。
ニッケル電極MLCCの開発は、太陽誘電が現在MLCC世界シェア約10〜12%(3位)を占める基盤を形成した。材料レベルの革新を通じて製品コストを下げるという手法は、その後のスーパーハイエンドMLCC(超小型・超大容量)の開発にも通じる方法論である。太陽誘電が掲げる「まねできない技術」(佐瀬克也社長)による高付加価値化戦略は、1984年のニッケル電極開発に原型がある。材料を握ることが製品競争力を握ることだという企業哲学は、40年後の現在も変わっていない。