重要な意思決定
20146月

WUTHELAM HDに対して第三者割当増資を実施

背景

グローバル塗料再編の加速と日本ペイントの海外展開における出遅れ

2010年代を通じて塗料業界ではグローバルな再編が進行した。リーマンショックにより先進国における自動車向け塗料の成長が鈍化し、塗料大手各社は新興国向けの建築用塗料に注力するために買収を積極化させた。オランダのAkzo Nobel、米国のPPG IndustriesやSherwin-Williamsといったグローバル大手が相次いで大型買収を実施し、業界の寡占化が加速した。

日本ペイントはこのグローバル再編において海外企業の買収に出遅れており、世界の塗料市場におけるシェアは約4%にとどまった。NIPSEA事業を通じたアジア市場の基盤は有していたものの、合弁構造ゆえに利益の取り込みが制約されており、グローバルな規模拡大競争において劣位に立たされていた。

再編が加速する業界環境のもと、2013年3月にアジア事業の合弁パートナーであり日本ペイントの大株主でもあるウットラム社(保有比率14.5%)から買収提案が寄せられた。ウットラム社は日本ペイントの株式45%の取得を望み、取得額は720億円規模と想定された。

決断

ウットラムの株式取得を容認し関係会社化を受け入れる転換点

買収提案を受け入れれば日本ペイントはウットラムの関係会社となり、経営における独立性を実質的に失うことを意味した。日本ペイントの経営陣は当初この提案に難色を示し、2013年時点では買収提案を退ける判断を下した。しかし提案から約1年後、日本ペイントはウットラムの出資比率引き上げを容認する決定に転じた。

この判断を実質的に主導したのは酒井健二氏(当時会長)であり、将来的なウットラムによる経営関与を見据えた分岐点となった。グローバル再編において単独での成長に限界があるとの認識が、独立性を譲歩する判断の背景にあったと推察される。

2014年6月に日本ペイントはウットラム社に対する第三者割当増資を実施して1023億円を調達し、ウットラム社の保有比率は39%に達した。日本ペイントは東京証券取引所への上場を維持したまま、ウットラムの関係会社となった。

結果

取締役派遣にとどめた穏当な関与が段階的な経営支配の起点に

ウットラムは日本ペイントに対する経営関与を強めるべく取締役2名の派遣を決定したが、既存の経営陣は続投する体制とした。即座に経営を掌握するのではなく取締役の派遣から着手するという段階的なアプローチは、50年以上にわたる合弁パートナーとしての関係を踏まえた配慮と推察される。

しかしこの穏当に見える関与は、2018年の独立社外取締役5名体制、2020年の指名委員会等設置会社への移行、2021年の第三者割当増資による保有比率58.7%への引き上げへと連なる経営支配の起点であった。

2014年の増資は、ウットラムが日本ペイントの経営権を段階的に獲得していく過程における最初の転換点として位置づけられる。50年の合弁関係を経て資本パートナーから経営支配者へと立場を変えたウットラムの参入は、日本ペイントの経営史における決定的な分岐を画した。