資金調達
戦後の日本に、設備資金を株式市場から調達する余地は乏しかった。個人の貯蓄は預金に集まり、それを産業へ配分する役割は銀行が担った。銀行の資金は、重点産業の設備投資へ優先して配分された。日本長期信用銀行は電力・鉄鋼・海運・石炭へ貸出の5割を振り向け、川崎製鉄は千葉製鉄所を建設して銑鋼一貫メーカーへ転じている。
主力銀行との関係は融資にとどまらなかった。銀行が決済口座を預かり、株式を保有し、企業が銀行から役員を受け入れる場合もあった。銀行は企業の資金繰りを日々把握しているため、事業計画と担保の審査は社内の管理に近かった。借入で拡大する会社にとって、資金の出し手は主力銀行であり、経営を説明すべき相手も主力銀行だった。自己資本が薄くても、担保となる土地と設備があれば追加の借入ができた。株式は取引先と相互に保有し合っていたため、増資を重ねて外部の投資家を招く必要もなかった。
ただし、担保に依存した借入の仕組みは、担保の価値が上がり続けるかぎりでしか機能しない。資産価格が下落すれば、担保と自己資本が同時に減少し、銀行も不良債権を抱えて新規融資ができなくなる。このとき起きたのは、物価ではなく企業の貸借対照表に生じたデフレである。住友銀行は8,000億円の不良債権を償却し、伊藤忠商事は丹羽宇一郎氏のもとで約3,950億円を特別損失に計上した。損失が自己資本を超えれば自力では補えず、りそなHDは預金保険法102条の初適用で約1兆9,600億円の公的資金を受け入れている。1990年代末の財務は、借入を返済し資産を圧縮する縮小の作業になった。
銀行の融資が縮小すると、株式市場が調達の場になった。NTTはドコモの上場で主力事業を資金化し、ANAHDはコロナ禍で公募増資に踏み切った。同時に、調達した資本の使途を測る指標が外部から持ち込まれた。資本効率とキャッシュフローの指標は、投じた資本がどれだけ利益とキャッシュを生んだかで企業を比較する。事業に投じられていない資本は、株主へ返還すべきものとして表面化する。リクルートHDは自己株式取得の枠を6,000億円へ拡大した。
借入であれば、返済の相手も期日も契約に定められている。しかし株式に期日はない。いつ、いくら返還するかを会社が自ら決め、その判断の説明責任を毎年負う。
財務諸表のどこを見るか
キャッシュ・フロー計算書の財務活動による区分を、長期借入れ・社債の発行・株式の発行・自己株式の取得・配当金の支払に分けて年次で並べる。どの年に外から入れ、どの年から外へ出す立場に転じたかが一目で分かる。次に有利子負債と自己資本比率、附属明細表の社債の償還予定額と平均利率で、調達の値段と期限を確かめる。転換社債型新株予約権付社債を出していれば、潜在株式調整後1株当たり当期純利益との差が希薄化の幅を示す。