尾上縫氏は、興銀にとって料亭を営む個人である前に、2900億円のワリコーを持つ大口の顧客であった。金融債を大量に買ってくれる相手は、興銀にとって資金の出し手である。その金融債を担保に借りてくれるなら、同じ相手が資金の受け手にもなる。出し手と受け手が一人に重なるとき、審査の目は鈍りやすい。企業の銀行離れで貸出先が減少していた時期に、この相手を切り離す判断は取りにくかったと推察される。
日本銀行が1990年夏に行った貸出先調査には、すでに"恵川4000億円"という記載があった。外から見える形で異常は現れており、そのまま1年以上が過ぎた。頭取が料亭へあいさつに出向くほどの関係も、審査とは別の力学で作られている。破産管財人が10年かけて170億円を取り戻した事実は、貸した側の責任が法の場で認められたことを示している。企業の銀行離れという構造で説明のつく話であっても、2400億円という額を決めたのは興銀である。