旧神崎工場の石綿公表(2005年・クボタの決断)

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論点責任未確定のまま公表と救済に動くか
クボタ:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
疾病の自主公表と、周辺住民への見舞金・救済金の支払い

何をなぜ決めたか:疾病の自主公表と、周辺住民への見舞金・救済金の支払い

概要

2005年6月、クボタが旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民に石綿疾病の患者がいることを公表し、一定の基準に基づく見舞金(弔慰金)の支払いを決めて開始した経営判断。

幡掛大輔社長の下で、因果関係も法的責任も確定しない段階での支払いに踏み切ったことになる。

背景

旧神崎工場では1995年まで、その他の工場でも2001年まで石綿含有製品を製造していた。社内で最初の石綿疾病による死亡者が出たのは1979年2月で、以後は労災申請と会社独自の上積み補償で処理されてきた。

2005年4月、周辺住民のうち何名かが中皮腫を患っているとの知らせが社に入る。その前の期にあたる2005年3月期のアスベスト健康被害関連費用は210百万円、関連の未払金はゼロであった。

内容

見舞金には、旧工場から一定の距離の範囲内に特定の期間居住または勤務し、かつ石綿を扱った職歴がないことという条件を置いた。2006年4月には見舞金制度に代わる救済金制度を創設し、追加的な支払いを決めて開始する。新たに請求する周辺住民にも同じ制度が適用される。

従業員には、労災の療養補償・遺族補償が認定された時点で支払う石綿疾病補償金と石綿遺族補償金、療養費の実費や休業中の給与支援という法定外の補償を続けた。

含意

アスベスト健康被害関連費用は2006年3月期に4,196百万円、2007年3月期に4,035百万円が販売費及び一般管理費に計上された。単体では石綿健康被害救済金等として、それぞれ3,393百万円・2,947百万円が特別損失に立つ。

潜伏期間が長く発症率を推定する情報が得られないため、債務の金額は信頼性をもって見積れないとして引当金は計上されていない。2025年12月期でも関連費用460百万円が発生し、2007年5月以降に提起された71件の訴訟のうち38件が係属中である。

いつ何が起きたか8件
考察:認定を待たずに払うということ
考察

考察:認定を待たずに払うということ

この決断の芯は、公表そのものよりも、補償の枠を労災の外へ広げたところにある。社内で最初の石綿疾病死亡者が出た1979年2月から四半世紀、会社は労災申請と法定外の上積み補償という枠内でこの問題を処理してきた。工場の外に住んでいた人には、その枠が届かない。法的責任も因果関係も確定していない2005年6月に見舞金を決め、1年足らずで最低2,500万円・最高4,600万円の救済金規程へ置き換えたのは、認定の外側にいる人へ払う仕組みを会社が自分で作ったということである。

もっとも、この問題は会社の帳簿の上では今も閉じていない。潜伏期間が長く発症率を推定する情報が得られないため、債務の金額は信頼性をもって見積れないとして引当金は計上されず、費用は請求があった時点で認識され続けている。2025年12月期の関連費用は460百万円で、2007年5月以降に提起された訴訟のうち38件はなお係属中である。終期の見えない負債に対して、見積れるようになるのを待たずに払い始めたことが、この判断の内実だったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る2表

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図と表

クボタ:アスベスト健康被害関連費用と未払金の推移

アスベスト健康被害関連費用(百万円)未払金(百万円)
クボタ:アスベスト健康被害関連費用と未払金の推移
(百万円)アスベスト健康被害関連費用アスベスト関連の未払金備考
2005年3月期2100費用は主に従業員への補償金。関連の未払金はゼロ
2006年3月期4,1963,7262005年6月に公表し見舞金の支払いを開始。単体では特別損失に3,393
2007年3月期4,0351,3592006年4月に救済金制度を創設。特別拠出金735を含む
2008年3月期1,090968
2009年3月期1,155721
2010年3月期503352
2011年3月期1,155390
出所:クボタ 有価証券報告書 第116〜121期(連結・米国会計基準、偶発債務)
出所:クボタ 有価証券報告書 第116〜121期(連結・米国会計基準、偶発債務)

石綿公表の経緯と対応

石綿公表の経緯と対応
科目概要備考
患者の判明2005年4月旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民のうち何名かが中皮腫を患っているとの知らせを受けた
公表と見舞金の決定2005年6月周辺住民へ一定の基準に基づき見舞金(弔慰金)を支払うことを決め、支払いを開始した
見舞金の支払い条件居住・勤務の範囲と期間、職歴旧工場から一定の距離の範囲内に特定の期間居住または勤務し、石綿を扱った職歴がないこと
石綿含有製品の製造旧神崎工場は1995年に中止その他の工場でも2001年までに石綿含有製品の製造を中止した
救済金制度の創設2006年4月見舞金制度に代わる制度を新設し追加的な支払いを開始。新たに請求する住民にも適用される
救済金の額最低2,500万円・最高4,600万円患者・家族・支援団体との協議を経て2006年4月に定めた支払い規程による
従業員への法定外補償石綿疾病補償金・石綿遺族補償金労災の療養補償・遺族補償の認定時に支払う。療養費の実費や休業中の給与支援も行う
石綿健康被害救済法2006年3月27日施行労災補償の対象とならない人を救済する法律。事業者の負担額は2007年度から徴収
特別拠出金735百万円2007年度からの4年間に支払いが見込まれる総額を2006年3月期に計上した
費用の計上区分販売費及び一般管理費従業員への補償金、周辺住民への救済金・見舞金、特別拠出金を含む(連結・米国基準)
単体の特別損失3,393百万円2006年3月期。石綿健康被害救済金等として計上し、2007年3月期は2,947百万円
引当金計上していない潜伏期間が長く発症率を推定できず、債務の金額を信頼性をもって見積れないため
訴訟2007年5月以降に71件2025年12月期末で係属中は38件。建設労働者のべ192名・5,585百万円の請求が続く
出所:クボタ 有価証券報告書 第116期(2006年3月期)〜第136期(2025年12月期)【偶発債務】【特別損失】、ニュースリリース 2006年4月17日「旧神崎工場周辺の石綿疾病患者並びにご家族の皆様に対する救済金支払い規程の骨子について」
出所:クボタ 有価証券報告書 第116期(2006年3月期)〜第136期(2025年12月期)【偶発債務】【特別損失】、ニュースリリース 2006年4月17日「旧神崎工場周辺の石綿疾病患者並びにご家族の皆様に対する救済金支払い規程の骨子について」
参考文献

参考文献

参考
  • クボタ「石綿問題への対応状況について」(2025年12月31日時点)
  • クボタ 有価証券報告書【沿革】
  • クボタ 有価証券報告書(2005年3月期・連結・米国会計基準)
  • クボタ ニュースリリース「旧神崎工場周辺の石綿疾病患者並びにご家族の皆様に対する救済金支払い規程の骨子について」
  • クボタ 有価証券報告書「第116期(2006年3月期)【偶発債務】【特別損失】」
  • クボタ 有価証券報告書「第117期(2007年3月期)【偶発債務】」
  • クボタ 有価証券報告書「第120期(2010年3月期)【訴訟事項】」
  • クボタ 有価証券報告書「第136期(2025年12月期)【偶発債務】」

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