エスコーツの子会社化(2021年・クボタの決断)

更新:
論点インドで自社製品の改良か現地大手の取得か
クボタ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
自社製品の改良ではなく、現地4位の取得による低価格帯への参入

何をなぜ決めたか:自社製品の改良ではなく、現地4位の取得による低価格帯への参入

概要

2021年11月18日、クボタはインドのトラクタメーカー、エスコーツLtd.の第三者割当増資を引き受ける契約を締結した。2022年4月11日には現金で株式を追加取得して議決権の44.8%を持ち、役員派遣等を通じて実質的に支配していると判断して連結子会社とした。同社は6月9日にエスコーツクボタLtd.へ社名を変更した。

取得の目的はベーシックトラクタである。機能を絞って価格を抑えながら耐久性を高めたトラクタの市場は、新興国を中心に広がると見込まれていた。クボタはこの市場で、エスコーツの開発・生産ノウハウと自社の品質・生産性のノウハウを融合させる。2022年8月の決算説明会で示した構想は、トラクタ以外の農業機械や建設機械、インドで調達した部品をアジア・日本・米国の拠点へ供給する計画にも及んでいた。

背景

クボタは2008年に現地法人を設立し、インド市場に本格参入した。ところが、稲作市場で培ったトラクタは現地の大多数の農家のニーズに合わなかった。インド向けに開発したMUシリーズを2015年末に発売し、2021年の販売台数は2016年の12倍に達した。それでもクボタの市場シェアは2%前後にとどまった。

提携相手のエスコーツは1944年設立で、インドのトラクタ市場でシェア第4位のメーカーである。両社は2019年に合弁会社Escorts Kubota India Private Limitedを設立し、クボタは2020年にエスコーツへ出資した。2021年末、クボタはエスコーツ株12,257千株を合弁相手との協力関係の維持を目的に保有し、その計上額は36,264百万円だった。

内容

取得対価は195,073百万円(約1,951億円)で、現金123,722百万円と、取得日の直前に保有していた資本持分71,351百万円の合計である。取得した資産と引き受けた負債の公正価値は純額で125,164百万円、非支配持分は69,091百万円とし、差額ののれんは139,000百万円となった。ただし、この金額は取得対価の配分が終わる前の暫定値だった。

取得の資金は借入で賄った。2022年12月期の社債及び借入金の使途には、販売金融・設備投資と並んでエスコーツの連結子会社化が入る。同期の従業員数は前期より7,059人増加して50,352人となり、増加の主因はエスコーツの連結である。エスコーツの経営は創業家出身のNikhil Nanda会長兼社長が引き続き担った。

含意

2023年の第1四半期に取得対価の配分が終わり、のれんは139,000百万円から110,466百万円へ修正された。無形資産72,328百万円などを識別した結果である。エスコーツクボタの売上高は2022年12月期の104,076百万円(4月以降)から2025年12月期には196,565百万円へ、当期利益は2,933百万円から24,584百万円へ伸びた。

一方、譲渡した事業もある。2024年12月期に鉄道部品事業の譲渡を決め、2025年6月1日に譲渡を終えて7,665百万円の譲渡益を計上した。インドの農業機械に配分したのれんは2025年末で104,631百万円(約1,046億円)残る。2024年2月時点で、ベーシック農機の輸出は千数百台にとどまっていた。

いつ何が起きたか12件
当時の取締役9名

当時の取締役(2021年3月株主総会決議)

考察:自社の型では届かない価格帯
考察

考察:自社の型では届かない価格帯

なぜクボタは、自社製品の改良ではなく現地4位の会社の取得を選んだのか。MUシリーズの販売台数は5年で12倍に増加したが、シェアは2%前後から動かなかった。インドで求められるのは、機能を絞って価格を抑えたベーシックトラクタである。クボタの強みは品質と性能にあり、その強みを磨くほど価格は上がる。したがって、低価格帯の開発・生産ノウハウと販売網を持つ会社を取り込むほうが早いと判断したのだろう。合弁と出資で3年かけて相手を見極めた点にも、この判断の慎重さが表れている。

もっとも、取り込んだのは過半に達しない議決権44.8%であった。エスコーツの経営は創業家出身の会長兼社長が続けており、クボタは役員派遣等を通じて実質的に支配する立場にとどまる。取得対価約1,951億円のうち、のれんは暫定で1,390億円と置かれた。のれんは買った会社の将来の稼ぎへの期待であり、相手の経営陣に依存する部分が大きい。主導権を掌握しないまま、期待の大きな額を払った買収とみられる。

到達点は数字に出ている。エスコーツクボタの売上高は1,041億円(4月以降)から2025年12月期に1,966億円へ伸び、当期利益は246億円に達した。一方で鉄道部品事業は譲渡し、インドからの輸出はまだ千数百台の規模にとどまる。この買収の評価は、インド国内の伸びだけでは決まらないと思われる。残る1,046億円ののれんに見合う稼ぎを、輸出を含めて続けられるかで決まる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

クボタ:のれんとインドへの配分額の推移

うちインド(百万円)インド以外ののれん(百万円)

インドへ配分したのれんは2025年末で104,631百万円

クボタ:のれんとインドへの配分額の推移
(百万円)のれんうちインド備考
2021年12月期10,355−増資引受けの契約を締結。値は第133期の前年度欄
2022年12月期162,439−第133期の当期欄。エスコーツ分は暫定値で未配分
2022年12月期134,597107,788第134期の前年度欄。暫定処理の確定を遡及修正した後
2023年12月期145,715115,152取得日ののれんは139,000から110,466へ確定
2024年12月期143,325110,576鉄道部品事業ののれん13,949を売却目的保有へ振替
2025年12月期139,868104,631
出所:クボタ 有価証券報告書 第133〜136期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)
出所:クボタ 有価証券報告書 第133〜136期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)

クボタ:エスコーツクボタの売上高と当期利益

売上高(百万円)当期利益率(%)
クボタ:エスコーツクボタの売上高と当期利益
(百万円)売上高当期利益備考
2022年12月期104,0762,933連結は4月11日から。遡及修正後(暫定時の当期利益は7,046)
2023年12月期152,68113,181
2024年12月期172,34825,708
2025年12月期196,56524,5846月に鉄道部品事業の譲渡が完了
出所:クボタ 有価証券報告書 第134〜136期(重要な非支配持分がある連結子会社の要約財務情報等)
出所:クボタ 有価証券報告書 第134〜136期(重要な非支配持分がある連結子会社の要約財務情報等)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業エスコーツクボタLtd.旧エスコーツLtd.。農業機械及び建設機械等の製造・販売。2022年6月9日に社名を変更
契約の締結2021年11月18日エスコーツLtd.による第三者割当増資の当社引受けに関する契約
企業結合日2022年4月11日2022年12月期の第2四半期連結会計期間から連結子会社としている
取得した議決権比率44.8%現金を対価に株式を追加取得。役員派遣等を通じ実質的に支配していると判断した
取得対価195,073百万円現金123,722と、取得日直前に保有していた資本持分71,351の合計
取得資産及び引受負債125,164百万円公正価値の純額。うち非流動の有形固定資産29,699、棚卸資産13,969
非支配持分69,091百万円識別可能な純資産の公正価値に対する非支配株主の持分割合で測定した
のれん110,466百万円取得時は暫定で139,000。2023年に配分が確定し、無形資産72,328の識別等で28,534減
のれんの発生要因将来の超過収益力今後の事業展開とシナジーにより期待されるものを反映している
のれんの会計処理償却せず毎期の減損テスト取得原価から減損損失累計額を控除して表示。取得関連費用は発生時に費用処理
取得日以降の業績売上高104,076百万円2022年12月期。当期利益は2,933百万円で、暫定処理の確定に伴い遡及修正した後の額
出所:クボタ 有価証券報告書 第132期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】、第133期(2022年12月期)・第134期(2023年12月期)【企業結合】
出所:クボタ 有価証券報告書 第132期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】、第133期(2022年12月期)・第134期(2023年12月期)【企業結合】
当時の取締役9名

当時の取締役(2021年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • クボタ 有価証券報告書 第132期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】
  • クボタ 有価証券報告書 第133期(2022年12月期)【連結財務諸表注記】
  • クボタ 2022年12月期上半期決算説明会 質疑応答(2022年8月4日)
  • クボタ 株主向け報告書「第133期 中間」特集「世界最大の市場に挑む~インド~」(2022年)
  • クボタ 有価証券報告書 第132期(2021年12月期)【株式の保有状況】
  • クボタ 有価証券報告書 第133期(2022年12月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • クボタ 有価証券報告書 第133期(2022年12月期)【従業員の状況】
  • クボタ 2023年12月期決算説明会 質疑応答(2024年2月15日)
  • クボタ 有価証券報告書 第133〜136期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)
  • クボタ 有価証券報告書 第134〜136期(重要な非支配持分がある連結子会社の要約財務情報等)
  • クボタ 決算説明会資料「2022年12月期上半期決算説明会 質疑応答」
  • クボタ 決算説明会資料「2023年12月期決算説明会 質疑応答」
  • クボタ 株主向け報告書「第133期 中間 特集「世界最大の市場に挑む~インド~」」
  • クボタ 有価証券報告書「第132期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】【株式の保有状況】」
  • クボタ 有価証券報告書「第133期(2022年12月期)【連結財務諸表注記】【従業員の状況】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • クボタ 有価証券報告書「第134期(2023年12月期)【連結財務諸表注記】」
  • クボタ 有価証券報告書「第135期(2024年12月期)【連結財務諸表注記】」
  • クボタ 有価証券報告書「第136期(2025年12月期)【連結財務諸表注記】」

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