東燃ゼネラル石油との統合とJXTGホールディングス発足
民族系JXと外資系東燃ゼネラルはなぜ組み、国内シェア5割の巨人が生まれたのか
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- 概要
- 2015年12月、石油元売首位のJXホールディングスと同3位の東燃ゼネラル石油が経営統合の基本合意を締結し、2017年4月にJXホールディングスが株式交換で東燃ゼネラル石油を完全子会社化してJXTGホールディングスが発足した。国内石油製品の販売シェアが50%を超える巨大元売が誕生した経営判断。
- 背景
- 国内ガソリン需要は年1〜2%ずつ漸減し、製油所は設備過剰にあった。JXは原油価格急落による在庫評価損で2015年3月期・2016年3月期と2期連続赤字に沈み、規模拡大と精製能力削減なしには需要縮小と資源価格変動の二重圧力を吸収できないとの認識が経営陣に共有されていた。
- 内容
- JXが7カ所、東燃ゼネラルが4カ所の製油所を持ち、大阪・神奈川で立地が重なった。統合により製油所統廃合と合理化効果を生みやすくなる一方、売上高10兆円対3兆円の規模差から東燃ゼネラル内部には反発も残った。3年で1000億円のシナジーを目標に掲げた。
- 含意
- 民族系JXと外資系東燃ゼネラルという生まれの異なる2社が一つの持株会社に集約され、出光・昭和シェル陣営と並ぶ国内2強体制が固まった。統合効果の刈り取りは2018年3月期の営業利益4,875億円として現れ、2020年6月のENEOSへの商号変更へつながった。
筆者見解
この統合は、需要が縮む市場で規模を確保する防衛的な再編でありながら、結果として国内石油供給の過半を一つの企業が担う構図を生んだ。中原伸之氏が突いた寡占化の懸念と、経営陣が掲げた合理化・安定供給の論理は、いずれも同じシェア5割という事実の両面を指していたとみることができる。統合の是非は、価格決定力を得た側がそれを需要縮小への備えに振り向けるのか、それとも収益の確保そのものに使うのかによって、評価が分かれる性質のものであった。
「異質な統合」という杉森務社長の言葉は、民族系と外資系という出自の違いを抱え込んだこの再編の難しさと可能性を同時に言い当てていたといえる。1888年創業の日本石油から続く民族系の系譜と、スタンダード・オイル系に連なる外資系の系譜が一つの持株会社に収まったことは、戦前から分散していた元売各社の主要系譜がほぼ集約された節目にあたる。統合が単なる延命ではなく、脱炭素時代のエネルギー企業への転身にどこまで結び付くのかは、なお見届ける段階にあるとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
漸減する需要と設備過剰の構造
国内の石油元売業界は、需要の先細りという構造問題を抱えていた。1994年度に6万カ所あったガソリンスタンドは3万カ所へと半減し、2004年にピークを迎えたガソリン需要はその後、毎年1〜2%ずつ減るとみられていた。加えて、1996年に特定石油製品輸入暫定措置法が廃止されて石油製品の輸入が自由化され、日本の元売各社は韓国やインドの大型製油所を持つ海外勢との競争を迫られた。全国各地に小規模な製油所を構える消費地精製主義の体制が、過剰設備の重荷となっていた[1]。
JXの2期連続赤字
統合を主導する側のJXも、体力を削られていた。2014年以降、原油価格は1バレル100ドル台から40ドル台まで急落し、在庫評価の反転が収益を直撃した。JXホールディングスは2015年3月期に連結売上高10兆8,824億円に対して営業損失2,188億円・当期純損失2,772億円を計上し、2016年3月期も営業損失622億円・当期純損失2,785億円と2期連続の赤字決算となった。石油元売事業そのものが資源価格変動に対して脆弱であるという構造が露呈し、規模を拡大して精製能力を削減しなければ需要縮小と価格変動の二重圧力を吸収できないという認識が、経営陣のなかで固まっていった[2]。
決断
最後の山が動いた統合交渉
2015年11月、首位のJXホールディングスと3位の東燃ゼネラル石油が、年内合意をめざして経営統合の交渉に入った。同年7月には2位の出光興産と5位の昭和シェル石油が統合を表明しており、業界のガリバーであるJXを追い上げる構図が生まれていた。JXは7カ所、東燃ゼネラルは4カ所の製油所を持ち、大阪府ではJXの大阪と東燃ゼネラルの堺が、神奈川県ではJXの根岸と東燃ゼネラルの川崎が地理的に重なっていた。過剰設備の解消を経済産業省が求める折、統合はJXにとって製油所統廃合や精製能力削減で合理化効果を生みやすい一手であった[3]。
もっとも、統合には二つの課題が残っていた。一つは両社を合わせると国内石油製品の販売シェアが2013年度で約51%と過半に達し、公正取引委員会に認められるかが焦点となる点であった。もう一つは、シェアでJXの半分以下、売上高で約3分の1の東燃ゼネラルが、統合すればJXにのみ込まれるという内部の反発であった。両社は「対等の精神での統合」を掲げ、ガソリンスタンドの新ブランドを設けることで基本合意にこぎ着けた。交渉の成否は、東燃ゼネラルの武藤潤社長がどこまで社内を掌握できるかにかかっていた[4]。
寡占化への異論
官主導で進む業界の寡占化には、異論もあった。東亜燃料工業(現東燃ゼネラル石油)の元社長である中原伸之氏は本誌インタビューで、統合でシェアが50%を超えればガソリンや灯油の価格決定力が格段に上がると指摘し、消費者のためにならないと警鐘を鳴らした。売上高10兆円対3兆円という規模差から東燃ゼネラルはのみ込まれるとし、統合を決議した東燃ゼネラルの取締役会はトップの強い働きかけにもかかわらず数票の僅差だったと語った。今後の公正取引委員会の判断は非常に大きな意味を持つ、というのが中原氏の見立てであった[5]。
結果
JXTG発足とシナジーの刈り取り
公正取引委員会は出光・昭和シェルの合併と同時にJXと東燃ゼネラルの統合も承認し、2017年4月、JXホールディングスは株式交換で東燃ゼネラル石油を完全子会社化してJXTGホールディングスへ商号を変更した。同時にJXエネルギーがJXTGエネルギーへ改称し、東燃ゼネラルを吸収合併したことで国内石油元売市場での精製・販売シェアは50%を超えた。統合効果は数字として現れ、2018年3月期の連結売上高は10兆3,010億円、営業利益は4,875億円、親会社株主に帰属する当期純利益は3,619億円と、2期連続赤字からの回復を示した[6]。
JXTGの杉森務社長は、旧JXと旧東燃ゼネラルの統合を、生まれも育ちも正反対の会社同士による「異質な統合」だったと述べ、その分だけ伸びしろも大きいと語った。3年間で1000億円のシナジーを目標に掲げ、初年度は予算の倍ほどの積み上げができたという。四つあったガソリンスタンドのブランドは順次「ENEOS」へ統一する方針を打ち出し、全国のスタンドの二つに一つがENEOSになる規模を得た。旧東燃ゼネラル系列SSの看板をエネオスに統一する作業は2017年9月に始まった[7]。
2強体制と次世代事業への布石
2019年春に出光興産と昭和シェル石油が統合したことで、石油元売はJXTGと出光昭和シェルの2強にコスモエネルギーホールディングスを加えた3社体制となり、JXTGエネルギーの大田勝幸社長はこれを「石油業界の再編という意味では最終形」と位置づけた。同時に大田社長は、脱炭素化と電化により需給両面で「大革命」が起きようとしているとして、2040年をターゲットとした長期ビジョンの策定に着手した。統合による規模の確保は、漸減する石油事業を守りつつ電力や水素といった次世代事業へ資源を振り向ける前提を整える一手でもあった[8]。
- 週刊東洋経済 2015年11月20日号「JX、東燃ゼネが統合か 石油再編は最終章突入」
- 週刊東洋経済 2016年1月29日号「直撃インタビュー 『JXとの統合に反対』 中原・東燃元社長が激白」
- 週刊東洋経済 2018年8月4日号「トップに直撃 JXTGホールディングス 社長 杉森務 Q.ガソリンスタンドはさらに減りますか?」
- 週刊東洋経済 2018年12月29日号「石油 INTERVIEW JXTGエネルギー社長 大田勝幸 業界再編は最終形 『大革命』に備える」
- ENEOSホールディングス 有価証券報告書(2016年3月期・連結)
- ENEOSホールディングス 有価証券報告書(2018年3月期・連結)