買わずに建てる——M&Aを一切挟まない自力出店だけで売上高1兆円へ
2025年実施業界が再編で規模を買うなか、コスモス薬品はなぜ52年間ひとつの買収もせず店を建て続けたのか
- 概要
- 2025年5月期、コスモス薬品は連結売上高1兆113億円に達し、ドラッグストアで売上1兆円を超えた4社目となった。ただ先行3社がいずれもM&Aで規模を積み上げたのに対し、同社は創業以来一度も買収を挟まず、全1,609店を自力出店のみで積み上げて大台に届いた点で異例だった。
- 背景
- 2010年代後半以降、ドラッグストア業界はマツモトキヨシとココカラファイン、ツルハとウエルシアと大型再編が相次ぎ、規模の拡大はM&Aで進むのが常態になっていた。九州発のコスモスは食品ディスカウントとローコスト経営で自力成長を続け、2024年5月期に9,649億円と1兆円を目前にしていた。
- 内容
- 横山英昭社長は規模を買う道を採らず、年100店超の自力出店で1兆円へ届かせる方針を前年から公言していた。人材・立地・物流をすべて自社で組み、店舗フォーマットの均質性と出店速度の両立を、買収では代替できない優位と位置づけた。関東・中部への出店では土地取得の内製化にも踏み込んだ。
- 含意
- 自力出店のみでの1兆円到達はドラッグストアで前例がなく、業界再編とは対照的な成長経路を示した。他方、土地内製化と物流新設で有利子負債は428億円へ膨らみ、規模が大きくなるほど均質性と価格の一貫性をどう保つかという課題を残した。
規模を、買うのではなく建てるという選び方
この判断の核心は、規模そのものよりも、規模の作り方に一貫してこだわった点にある。買収は他社の店と人と文化を一度に取り込み、時間を金で買える半面、同じ型にそろえ直す手間を後年へ残す。コスモスは時間はかかっても、1店ずつ自社の型で建てる道を選び、フォーマットの均質性と低コストを崩さぬまま1兆円まで届かせた。1兆円を通過点と呼ぶこの会社の姿勢には、規模を目的ではなく、均質な店を積み上げた副産物として扱う発想がにじむ。売上1兆円企業の4社目という位置より、そこへ買収なしで至った経路のほうに、この経営の性格がよく表れている。
もっとも、自力の成長にも限界の影は差す。土地の内製化で膨らんだ負債、既存店の伸びの鈍さ、そして規模が大きくなるほど全店を同じ型に保つ難しさは増していく。業界が再編で時間を買うなかで、店を建て続けるという選択がいつまで速度と均質性を両立できるかは、まだ答えの出ていない問いだ。ドラッグ店に不向きな土地を使うホテル事業への参入も含め、買わずに広げるという原則を次の局面でどこまで貫けるか。そこにこの成長戦略の真価が問われていく。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
「再編で規模を買う」時代のなかで
2010年代後半から、ドラッグストア業界は大型再編が続いた。2021年にマツモトキヨシとココカラファインが統合し、ツルハとウエルシアも統合へ動く。規模の拡大は買収で進めるのが常道になり、売上高1兆円の企業もウエルシア、ツルハ、マツキヨココカラ&カンパニーが先に並んだ。いずれもM&Aで店数と地盤を一気に取り込み、大台へ駆け上がった顔ぶれだった[1]。
そのなかでコスモス薬品は、買収を一度も挟まずに店を積み上げてきた。九州・宮崎で確立した小商圏型メガドラッグストアを、食品ディスカウントとローコスト経営を武器に西日本から関東へ地続きで広げ、2024年5月期には過去最多の年間139店を出して連結売上高9,649億円、期末1,490店に達した。1兆円は自力の延長線上に見えていたが、他社が再編で越えた壁を買収なしで越えられるかは、まだ前例のない問いだった[2]。
決断
前年から公言された1兆円のシナリオ
横山英昭社長は、大台到達の1年前からその道筋を公にしていた。2024年夏、2024年5月期に売上高が前期比1,373億円増の9,649億円になったと示したうえで、今期は1兆円突破を計画すると明言する。他社のように再編で規模を買うのではなく、業界屈指の出店ペースを保って三桁の店舗純増を続け、その積み重ねで1兆円へ届かせるという設計だった。ローコスト経営が生む価格競争力と、それがもたらす集客力への自信が、その計画を支えていた[3]。
買わずに建てる、という論理
買収に頼らない選択の裏には、自力で建てることそのものを競争優位とみる論理があった。人材を自社で育て、立地を自社で選び、物流を自社で組む。そうして初めて、全店を同じ型でそろえる均質性と、年100店超という出店速度を両立できる。買収は他社の店と人を一度に取り込む代わりに、型をそろえ直す手間を後年に残す。コスモスは強みとする高密度ドミナントを崩さぬよう、関東でも九州と同じフォーマットを地続きに置いていく道を選び、そのために土地取得の内製化にも踏み込んだ[4]。
結果
4社目、しかし「自力のみ」は異例
2025年7月、コスモス薬品は2025年5月期の連結売上高が1兆113億円になったと発表した。営業利益は前期比28%増の404億円、純利益は27%増の309億円で、いずれも過去最高だった。売上1兆円はドラッグストアで4社目にあたる。ただ先行3社がいずれもM&Aで規模を積み上げたのに対し、コスモスは一度の買収も挟まず、九州26店・関東31店など前期の120店を含む1,609店すべてを自力で出して大台に届いた。再編とは距離を置き、店を建て続けることで越えた1兆円だった[5][6]。
規模を自力で積み増す代償も表に出た。関東・中部への大量出店に合わせ、これまで抑えてきた土地取得を内製化し、物流網の新設も重なって、有利子負債は2025年5月期に428億円へ膨らんだ。食品比率の上昇で粗利率は上場時の22.5%から下がっていたが、物価上昇分の一部を売価へ転嫁して21%まで戻し、販管費率を上場大手で最も低い水準に抑えることで、営業利益率はおよそ4%を保った。安さと均質性を崩さずに規模を伸ばす綱渡りが、負債と粗利率の数字に映っていた[7][8]。