調剤を持たない安売り店が、保険調剤へ本格参入する

2021年実施

食品ディスカウントの低コスト物販で伸びたコスモス薬品は、なぜ薬剤師を抱える調剤事業へ踏み込んだか

時期 2021年7月
意思決定者 横山英昭(社長)
論点 事業領域の追加と成長戦略
概要
2021年7月、コスモス薬品は保険調剤事業への本格参入を表明した。食品を軸にした低コストの物販で成長した同社が、圧倒的な集客力を処方箋の受け皿に変えるべく、ドラッグストアへ調剤薬局を併せ持つ路線へ進んだ。2022年5月期は関東を中心に年20〜30店の併設を計画した経営判断。
背景
売上の約6割を一般食品が占め、省力化で販管費率を業界でも低い水準に抑えたモデルは、薬剤師の人件費を抱える調剤とは結びつきにくかった。同社は長く調剤を持たず、市場が熟すのを待つ構えで参入を見送ってきた。
内容
2019年の試行を経て、2021年7月の決算発表に合わせて本格参入を表明した。処方箋がどの薬局へも回る「面分業」の進展を見込み、コロナ禍で薬剤師を確保しやすくなった環境も踏まえた。調剤報酬が下がる先を待って入る時間の読みが根にあった。
含意
拡大はスローペースにとどまり、2025年5月期末で調剤を併設する店は全1,609店のうち53店。処方箋の集まる関東で併設率が高い。低コスト経営と調剤の両立、面分業の進み方が、二本目の柱の育ち方を左右する。
筆者の見解

強みの上に、二本目をどう乗せるか

この判断の性格は、既存のモデルを壊さずに、自社の一番の強みを別の需要へつなぐ点にある。コスモス薬品は創業以来、食品を軸にした低コストの物販で集客を組み立て、薬剤師を抱える保険調剤をあえて持たなかった。その同社が調剤へ入ったのは、業態を作り替えるためではなく、集めた客の流れに処方箋という新しい用を足すためであった。急がず、制度が痩せる先を待って入る時間の読みに、この会社らしい規律がにじむ。

もっとも、調剤は薬剤師の人件費という重い固定費を抱え、販管費を切り詰めてきた同社の体質と摩擦しかねない。全店で調剤を扱うという構想が低コスト経営とどこまで両立するか、面分業がどこまで広がるかは、まだ見えていない。本稿の時点で併設は53店にとどまり、関東に偏っている。自社の強みの上に二本目の柱をどう細く乗せていくか——この判断の成否は、これからの併設網の広がりと採算が答えていく。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

「調剤を持たない安売り店」という選択

コスモス薬品は、食品を安く売って客を集める小商圏メガドラッグストアとして伸びた会社である。売上の約6割を一般食品が占め、医薬品は約14%、化粧品や雑貨がこれに続く。発注の自動化やセルフレジ、細かな人員配置で店舗運営の手間を削り、販管費率を同業のなかでも低い水準に抑えてきた。物販で回すこの仕組みのなかに、処方箋を受ける保険調剤の窓口は長く置かれてこなかった[1]

調剤は、薬剤師の人件費という重い固定費を抱える事業であり、低コストの物販を売りにする同社の像とは結びつきにくかった。食品を強めた小商圏メガドラッグストアの大量出店で伸びてきた同社に、調剤へ本格参入するという姿は薄かった。コスモス薬品自身も参入をあわてず、市場が熟して落ちてくるのを待つ「熟柿」の構えで長く見送ってきた[2]

決断

2019年の試行から、2021年の本格参入へ

2019年、コスモス薬品はドラッグストアに調剤薬局を併せ持つ店を試し始めた。2021年5月期末の併設店は10店にとどまっていたが、同年7月、決算発表に合わせて調剤事業への本格参入を表明する。2022年5月期は、関東を中心に調剤を併せ持つ店を20〜30店開く計画を掲げた。既存店への併設も含む数であった[3][4]

参入の読みは、医薬分業の進み方にあった。特定の病院前に薬局が張り付く「門前」ではなく、患者がどの薬局へも処方箋を出せる「面分業」が広がると見て、圧倒的な集客力を処方箋の受け皿に変えようとした。折しもコロナ禍で薬局が薬剤師の採用を手控え、薬剤師を確保しやすくなった環境も、参入の後押しになった[5]

「低収益になった時こそ」という時間の読み

横山英昭社長は、調剤報酬について長期的には上がらず、むしろ下がっていくと見ていた。それでも参入をためらわなかったのは、報酬が痩せたときこそ「医療費低減化の受け皿」という自社の理念で応えられると考えたためである。高い報酬のうちに果実を取りにいくのではなく、制度が厳しくなる先を待って入る。物販で培った低コストの運営を、収益の細る調剤にあてる読みであった[6]

結果

ゆっくり積み上げる併設網

参入後の拡大は速くない。2024年5月期の調剤店の出店計画は4〜5店にとどまり、2025年5月期末で調剤を併設する店は全1,609店のうち53店であった。処方箋の集まりやすい関東で併設率が高い。一気に量産するのではなく、店ごとの運営や薬剤師の配置のこつを一つずつ確かめながら、併設網を厚くしていく段階にある[7][8]

それでもコスモス薬品は、調剤併設店を中長期の伸びしろと見ている。約7兆円とされる調剤市場を前に、いずれ全店で調剤を扱う姿を思い描く。食品ディスカウントで集めた客の流れに処方箋を重ねられれば、来店の回数と一人あたりの買い物の両方を押し上げられる。物販一本で立ってきた会社が、二本目の柱を細く長く育てようとしている[9]

出典・参考