独BKギウリニの取得(2015年・栗田工業の決断)

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論点海外事業を親会社の資金で買収するか
栗田工業:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
欧州の水処理薬品事業の全面的な譲り受けと、続く北米買収による海外事業の拡大

何をなぜ決めたか:欧州の水処理薬品事業の全面的な譲り受けと、続く北米買収による海外事業の拡大

概要

栗田工業は2015年1月31日、独BK Giulini GmbHおよびその関係会社から水処理薬品・紙プロセス薬品・アルミナ化合物の3事業を、現金を対価とする事業の譲受けによって取得原価323億17百万円で譲り受けた。取得した議決権比率は100%で、結合後の企業はクリタ・ヨーロッパAPW GmbH、栗田水処理新材料(江陰)有限公司ほか7社となった。

以後、2017年1月に米フレモント・インダストリーズを47億60百万円、2019年3月に米U.S.ウォーター・サービスの持株会社を303億69百万円、同年5月に米英のアビスタ・テクノロジーズ3社を相次いで取得し、欧州と北米に水処理薬品の事業基盤を構築した。

背景

同社は国内電子産業向けの超純水で高いシェアを持つ一方、2015年3月期の連結売上高1,894億円のうち日本が1,502億91百万円を占め、EMEAは15億57百万円にすぎなかった。国内の半導体・液晶向け需要が縮小するなかで、海外の収益源をどう確保するかが数年来の課題として残っていた。

企業結合を行った理由に挙げたのは、日本とアジアで高いプレゼンスを持つ自社の事業基盤に対象事業の欧州での幅広い顧客基盤が加わることで海外事業の拡大を大きく前進させること、そして技術と商品ラインナップの補完性が高く、その融合によって新たな製品・サービスの開発が可能になることであった。

内容

企業結合日に受け入れた資産は158億80百万円、引き受けた負債は23億88百万円で、差額に対して188億25百万円ののれんを暫定計上した。翌2016年3月期に取得原価の配分が確定し、たな卸資産6億26百万円・有形固定資産9億87百万円・その他の無形固定資産17億60百万円が増加した分だけのれんは減少して174億75百万円となり、15年間の均等償却とした。取得関連費用はアドバイザーへの報酬・手数料等15億36百万円である。

北米では2019年3月の持株会社取得について、IFRS初度適用後に暫定処理が確定し、支払対価306億30百万円に対するのれんは232億95百万円となった。

含意

EMEAの売上高は2015年3月期の15億57百万円から翌期には206億98百万円になり、北アメリカは2019年3月期の55億89百万円から2020年3月期に288億26百万円へ伸びた。水処理薬品事業のセグメント売上高は599億99百万円から1,136億32百万円へ、連結ののれんは174億75百万円から470億33百万円へ積み上がっている。

2023年3月期には、クリタ・アメリカの水処理薬品事業についてのれんの減損損失76億46百万円を計上した。事業計画の下方修正と、米国の政策金利引き上げに伴う割引率の上昇により、回収可能価額が簿価を下回ったことによる。

いつ何が起きたか8件
考察:買収できたもの、できなかったもの
考察

考察:買収できたもの、できなかったもの

一連の買収を水ビジネスの世界化に沿った当然の動きと括ると、この判断の性質を取り逃がす。栗田工業が長く守ってきたのは、海外子会社が自ら稼いだ範囲で投資するという慎ましい海外政策であり、323億17百万円を一度に払って欧州の事業と人と拠点をすべて引き取る買い方は、その正反対にあたる。国内の顧客の工場に入り込んで技術を磨いてきた会社が、密着すべき相手をまず資本で確保する方法へ乗り換えたところに、この判断の芯があるだろう。

もっとも、資本で買えたのは顧客基盤と製造拠点までであった。欧州の薬品を日本で売る話は評価試験と法規制の調査で滞り、北米では買収後の統合が想定どおりに運ばず、2023年3月期にはクリタ・アメリカの水処理薬品事業ののれん76億46百万円を落としている。買い集めた事業を一つの会社として動かす仕事は、欧米統括組織の課題として後に残った。時間を買う買収でも、統合に必要な時間までは買えなかったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る4表

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図と表

栗田工業:のれんと総資産の推移

のれん(百万円)のれん率(%)
栗田工業:のれんと総資産の推移
(百万円)のれん総資産備考
2011年3月期−253,298
2012年3月期−271,141
2013年3月期−263,580
2014年3月期−274,925
2015年3月期17,475294,492BK Giulini取得。のれん・総資産とも翌期の暫定処理の確定を反映した値
2016年3月期15,114298,107
2017年3月期15,049299,249フレモント取得でのれん2,096百万円が加わった
2018年3月期20,362323,046
2019年3月期43,758350,828IFRS初度適用に伴う遡及値。日本基準ののれんは36,301百万円
2020年3月期47,033367,633IFRSではのれんを償却せず、毎期減損テストを行う
出所:栗田工業 有価証券報告書 第75〜84期(連結貸借対照表・連結財政状態計算書)
出所:栗田工業 有価証券報告書 第75〜84期(連結貸借対照表・連結財政状態計算書)

栗田工業:地域別売上高の推移

EMEA(百万円)北アメリカ(百万円)
栗田工業:地域別売上高の推移
(百万円)日本アジア北アメリカEMEA備考
2015年3月期150,29132,0612,0281,557貸借対照表のみの連結で、譲受事業の売上は含まれない
2016年3月期150,49537,7782,43120,698欧州事業の通期寄与でEMEAが20,698百万円に立ち上がった
2017年3月期149,98839,8991,88519,774
2018年3月期158,23248,9115,17821,350
2019年3月期163,29766,5135,58921,297
2020年3月期161,69952,50928,82619,132米国3社の通期寄与で北アメリカが28,826百万円になった
出所:栗田工業 有価証券報告書 第79〜84期(セグメント情報・地域ごとの情報)
出所:栗田工業 有価証券報告書 第79〜84期(セグメント情報・地域ごとの情報)

栗田工業:水処理薬品事業の推移

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
栗田工業:水処理薬品事業の推移
(百万円)売上高セグメント利益セグメント資産備考
2015年3月期59,9997,87779,790
2016年3月期83,6806,46779,365売上は23,681百万円増加したが、取得原価の当初配分額の見直しで利益は減少した
2017年3月期81,8837,23180,120
2018年3月期90,3617,18095,589
2019年3月期102,1264,258115,017
2020年3月期113,63210,127119,960
出所:栗田工業 有価証券報告書 第79〜84期(セグメント情報)
出所:栗田工業 有価証券報告書 第79〜84期(セグメント情報)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業BK Giulini GmbH及びその関係会社水処理薬品、紙プロセス薬品及びアルミナ化合物の製造・販売及び研究開発に関する事業
譲受け契約の締結2014年10月27日BK Giulini GmbHと親会社Israel Chemicals Limitedとの間で締結した
企業結合日2015年1月31日
企業結合の法的形式現金を対価とする事業の譲受け結合後の企業はクリタ・ヨーロッパAPW GmbH、栗田水処理新材料(江陰)有限公司ほか7社
取得した議決権比率100%
取得原価32,317百万円対価はすべて現金
取得関連費用1,536百万円アドバイザーに支払った報酬・手数料等
のれん17,475百万円取得時の暫定額は18,825百万円。確定により19,391百万円から1,916百万円減少した
のれんの償却15年間にわたる均等償却発生原因は期待される将来の超過収益力
受け入れた資産15,880百万円流動資産5,124百万円・固定資産10,756百万円。暫定的な会計処理による額
引き受けた負債2,388百万円流動負債1,191百万円・固定負債1,196百万円
後続の買収:フレモント・インダストリーズ取得原価4,760百万円2017年1月3日に事業を譲受。のれん2,096百万円を15年で均等償却。取得関連費用は123百万円
後続の買収:U.S.ウォーター・サービス取得原価30,369百万円2019年3月25日に持株会社の株式を取得。のれんは確定後23,295百万円、取得関連費用958百万円
後続の買収:アビスタ・テクノロジーズ支払対価7,615百万円2019年5月15日に株式を取得。英アビスタへ別途1,889百万円。のれんは4,355百万円
出所:栗田工業 有価証券報告書 第79期(2015年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第80期(2016年3月期)・第81期(2017年3月期)・第83期(2019年3月期)・第84期(2020年3月期)
出所:栗田工業 有価証券報告書 第79期(2015年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第80期(2016年3月期)・第81期(2017年3月期)・第83期(2019年3月期)・第84期(2020年3月期)
参考文献

参考文献

参考

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