英Eidosの完全子会社化(2009年・スクウェア・エニックスHDの決断)

更新:
論点 欧米の開発力は自社育成か買収か
スクウェア・エニックスHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
13年後のEmbracerへの売却

何をなぜ決めたか:13年後のEmbracerへの売却

概要

スクウェア・エニックス・ホールディングスの完全子会社である英国SQEX LTD.は、英国法に基づくスキーム・オブ・アレンジメントにつき英国裁判所の認可を受け、2009年4月22日を効力発生日として英国Eidos plcの全株式を買い付けた。取得した株式数は263,586,730株、議決権比率は100%で、取得原価は84,418,536.85ポンド(12,217百万円)である。支払資金は自己資金によった。

背景

企業結合を行った主な理由を有価証券報告書は「Eidosのヒット商品とスクウェア・エニックスグループの製品が統合されることにより、インタラクティブ・エンタテインメント業界における世界有数のリーダーとしてのスクウェア・エニックスグループの地位を更に強化できると判断したため」と記している。Eidosの傘下には、ゲームを開発するCRYSTAL DYNAMICS INC.(米国カリフォルニア州)、EIDOS INTERACTIVE CORP.(カナダ・ケベック州)、IO INTERACTIVE A/S(デンマーク・コペンハーゲン市)が並んでいた。

内容

企業結合日に受け入れた資産は流動7,786百万円・固定19,543百万円の計27,329百万円、引き受けた負債は流動14,654百万円を含む14,850百万円で、のれんは45,205,785.17ポンド(6,542百万円)が生じた。発生原因は、Eidosがゲーム事業を展開する地域における主要なゲームタイトルによって期待される超過収益力のうち、識別可能な資産として配分されなかったものであり、10年間にわたる均等償却とされた。連結に取り込んだ業績の期間は2009年4月22日から2010年3月31日までである。

含意

10年で償却するはずだったのれんは2期で消えた。2011年3月期に英国ののれん4,841百万円を含む減損損失8,418百万円を計上し、連結貸借対照表ののれん残高はゼロとなる。2013年3月期には親会社株主に帰属する当期純損失13,714百万円を計上。2017年3月期にIO INTERACTIVE A/Sの事業撤退を決議して関係会社整理損4,898百万円を計上し、2022年8月26日にはCRYSTAL DYNAMICS,INC.等4社の全株式を300百万米ドルでEmbracer Group ABへ譲渡した。

いつ何が起きたか 9件
考察:二つの値札のあいだにあったもの
考察

考察:二つの値札のあいだにあったもの

12,217百万円で買い、300百万米ドルで売った取引を、値札だけ並べれば悪くない売買にみえる。ただし、その差額には13年分の運転費用が入っていない。欧米の大型タイトルは1本あたりの開発費も期間も大きく、完全子会社である以上、当たらなかった年の損も本社の連結損益に直接載る。10年で償却するはずだったのれん6,542百万円は2期で消え、2013年3月期の当期純損失13,714百万円と2017年3月期の関係会社整理損4,898百万円が続いた。少数株主に相談せずに動ける代わりに、失敗の全額を自社で持つ——100%取得とは、その二つが一体になった条件である。

買収を決めた和田洋一社長の任期は4年後の交代で終わり、海外拠点の整理を終えたのは後任の松田洋祐社長で、さらに9年を要した。2022年の譲渡で計上した関係会社株式売却益は9,465百万円。手放したのはCRYSTAL DYNAMICS,INC.以下の4社と"TOMB RAIDER""Deus Ex""Thief""Legacy of Kain"のIPで、理由として会社が挙げたのは「事業構造の最適化」であった。二つの値札のあいだに挟まっているのは、13年という時間そのものである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

数字で見る

図と表

スクウェア・エニックスHD:のれんの残高

のれん(百万円)
スクウェア・エニックスHD:のれんの残高
(百万円) のれん 備考
2006年3月期 23,446 タイトーの子会社化で連結調整勘定を計上。20年の均等償却
2007年3月期 20,276
2008年3月期 18,883
2009年3月期 17,771
2010年3月期 10,233 Eidosののれん6,542が発生。タイトーののれんは12,209を特別償却
2011年3月期 0 英国ののれん4,841を含む減損損失8,418と当期償却1,492で残高ゼロ
2012年3月期 0
2013年3月期 0
2014年3月期 0
2015年3月期 0
出所:スクウェア・エニックス 有価証券報告書 第26〜28期(連結貸借対照表) / スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書 第29〜35期(連結貸借対照表・セグメント情報)
出所:スクウェア・エニックス 有価証券報告書 第26〜28期(連結貸借対照表) / スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書 第29〜35期(連結貸借対照表・セグメント情報)

スクウェア・エニックスHD:デジタルエンタテインメント事業の業績(報告セグメント)

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
スクウェア・エニックスHD:デジタルエンタテインメント事業の業績(報告セグメント)
(百万円) 売上高セグメント利益 備考
2010年3月期 120,12029,056 Eidosの連結は2009年4月22日から。のれんの償却額も当セグメントに計上
2011年3月期 64,20411,283
2012年3月期 71,87112,602
2013年3月期 89,48244 連結では親会社株主に帰属する当期純損失13,714を計上
2014年3月期 94,57110,709
2015年3月期 111,92617,276
出所:スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書 第31〜35期(セグメント情報)
出所:スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書 第31〜35期(セグメント情報)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 Eidos plc. ゲーム事業。結合後企業の名称はEidos LTD.
取得の主体 英国SQEX LTD. スクウェア・エニックス・ホールディングスの完全子会社
企業結合の法的形式 株式取得 英国法に基づくスキーム・オブ・アレンジメントにつき英国裁判所の認可を受けた
企業結合日 2009年4月22日 連結財務諸表に含めた業績の期間は同日から2010年3月31日まで
取得した議決権比率 100% 取得した株式数は263,586,730株
取得原価 84,418,536.85ポンド 2009年4月22日の換算レートで12,217百万円。支払資金は自己資金による
受け入れた資産 資産合計27,329百万円 流動7,786百万円・固定19,543百万円。負債は流動14,654百万円を含め14,850百万円
のれん 45,205,785.17ポンド 2009年4月22日の換算レートで6,542百万円。主要なゲームタイトルの超過収益力
償却方法及び期間 10年間にわたる均等償却 2011年3月期に英国ののれん4,841百万円を減損し、期末残高はゼロ
通期換算した影響額 売上高0百万円、経常損失447百万円 開始の日に完了したと仮定した場合の概算額。監査証明を受けていない
譲渡日(2022年) 2022年8月26日 CRYSTAL DYNAMICS,INC.等4社の全株式を譲渡。譲渡価額は300百万米ドル
譲渡の損益 関係会社株式売却益9,465百万円 移転した資産39,969百万円・負債3,596百万円。特別利益に計上
出所:スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書 第29期(2009年3月期)【重要な後発事象】・第30期(2010年3月期)【企業結合等関係】・第43期(2023年3月期)【企業結合等関係】
出所:スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書 第29期(2009年3月期)【重要な後発事象】・第30期(2010年3月期)【企業結合等関係】・第43期(2023年3月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書(第29期・第30期・第31期・第37期・第42期・第43期)
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス ANNUAL REPORT 2022
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第29期(2009年3月期)【重要な後発事象】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第30期(2010年3月期)【企業結合等関係】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第30期(2010年3月期)【財政状態及び経営成績の分析】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第31期(2011年3月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第37期(2017年3月期)【連結損益計算書関係】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第42期(2022年3月期)【重要な後発事象】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書「第43期(2023年3月期)【企業結合等関係】」
  • スクウェア・エニックス・ホールディングス アニュアルレポート「ANNUAL REPORT 2022」

次に読む決断

免責事項およびポリシー