1999年3月、南場智子氏はマッキンゼー[1]のパートナーを辞してディー・エヌ・エーを設立した[2]。南場氏は携帯電話でオークションサイトをやったら面白いのではないかというアイデアを知人に勧めたところ、逆に自分でやればいいと切り返されたことが起業のきっかけだったと後に述懐している。創業事業のオークションサービス『ビッダーズ』[3]は期待を背負って立ち上がったが、ヤフオクが形成したネットワーク効果の壁を突破できず、市場シェアの獲得には至らなかった。当初外注していたシステム開発はコードが1行も書けていない状態に陥り、社内エンジニアの茂岩祐樹氏が数ヶ月のあいだ自宅に帰らず作り直した逸話も残っており、創業期の修羅場ぶりがうかがえる一節である。
2000年3月に13億円、2001年に9.1億円の資金調達を実施し、無借金経営を維持していたことが致命的な財務危機を回避させた。2003年には欠損補填のため資本金・資本準備金の合計23億円を取り崩すこととなったものの、現預金約5億円を残した状態で次の選択肢を検討できたのは、創業期の資金戦略が生んだ余力による。インターネットバブル崩壊という外部環境の急変のなか、事業としては失敗に終わったとはいえ、後年のモバイル転換を可能にする『時間』を買った局面だと評価できる。資金と時間という二つの経営資源を、最低限の水準で確保し続けたことが、次の打ち手に着手する土台を守る結果を生んだ。失敗を速やかに認め、次の方向転換を探り続ける姿勢は、のちにモバイル領域での成功へとつながる機動力の源泉でもあった。
2004年3月、DeNAはガラケー向けオークション『モバオク』を投入し[4]、PC向けサービスで築けなかった競争優位をモバイル領域で築く方針へと変えた。大手事業者が未参入のモバイル市場にいち早くリソースを集中させた判断であり、FY2005/3Qにはモバイル売上がビッターズを上回り、事業の重心が移行した。南場氏は事業拡張の原則について、情報格差が残る限りインターネットビジネスの可能性は尽きないという立場を取り、情報格差を手当てすることを事業の核に据える姿勢が、モバイル市場での先行へとつながった。2005年には東証マザーズに株式を上場[5]するところまでこぎ着け、資金調達のルートを資本市場へと広げた。PC領域での敗北を早期に認め、次の戦場に資源を集中させた意思決定は、以後のDeNAの経営スタイルを特徴づける機動力の原点となった。
同年1月にはKDDIとの提携により、子会社モバオクを通じてau向けOEM供給を開始した[6]。KDDIは3億円の第三者割当増資で出資し、キャリアの公式メニューからの集客力を確保する体制が整った。2006年2月にはSNSサービス『モバゲータウン』を開始[7]し、モバイルコンテンツ企業としての地位を固めた。自社の利益率よりもキャリアとの流通チャネル確保を優先する判断は、当時の業界環境を踏まえた合理的な選択であり、後年のソーシャルゲーム事業の急成長を支える基盤を形作った。キャリアの公式メニュー網を足場にしたことで、ユーザー獲得単価を抑えつつ拡大を進められる構造が生まれ、モバイルコンテンツ事業としての競争力の土台が2006年前後で固まった。
2009年10月、DeNAはアイテム課金を前提としたソーシャルゲーム『怪盗ロワイヤル』をリリースした[8]。短時間での反復利用と他者との関係性を軸に設計し、ユーザー間の競争と協力を課金動機へと変換する仕組みを意図的に組み込んだ。外部決済に依存しない自社プラットフォーム上での収益回収体制を築いたことによって、広告モデルから課金モデルへの転換を果たした。四半期ベースの売上水準は跳ね上がり、2013年3月期にはDeNAは過去最高益を達成[9]するところまで到達した。ゲームを収益の主力に据えた構造は、以後十年以上にわたって会社の業績を支え続け、国内ソーシャルゲーム市場の急拡大を象徴する存在として、同社の名前が業界の内外で広く知られた。
2011年6月、創業期からの社員であった守安功氏が社長に就任し[10]、創業者の南場智子氏は取締役会長となった[11]。同年、横浜ベイスターズの株式66.92%を65億円で取得[12]してスポーツ事業に参入し、球団経営を通じた全国的なブランド露出の獲得に着手した。収益の多くがゲーム事業に集中する構造は、事業ポートフォリオの偏りという論点を投資家の前に浮き彫りにしていき、分散投資の必要性が社内外で意識される時期へと入った。球団取得はそのひとつの答えだったものの、ゲーム事業に匹敵する柱を育てるのは容易ではないという現実が、以後の数年間で次第に明らかになっていく構図となった。
2010年10月、DeNAは米国のモバイルゲーム開発会社ngmocoを約4億ドルで買収した[13]。国内フィーチャーフォン向けのモデルをそのまま持ち出すのは困難と見て、現地企業の取り込みによる即時参入を図った判断である。しかし、日本発の運営型ゲームモデルと米国のプロダクト志向型開発文化のギャップは埋まらず、収益貢献は限定的なものにとどまった。国内で通用した成功パターンを他国にそのまま移植するのは難しく、海外市場で独自の収益モデルを築く難易度の高さが露呈した買収となった。現地拠点の経営は開発文化の違いだけでなく、意思決定のスピード感や品質基準のずれとも向き合う必要があり、統合作業は想定以上に難航した。
2016年にngmocoは解散し、2020年3月期にはゲーム事業で511億円の減損損失を計上した[14]。同時期の2014年にはキュレーションメディア参入のためiemoとペロリを合計37億円で買収し[15]、2016年12月には『WelQ』の信頼性問題が社会的な批判を招いた。第三者委員会は、売上高と利益を上げることが至上命題となっていた組織風土と、『永久ベンチャー』スローガンの免罪符化を厳しく指摘した。守安功社長は当時、会社として生まれ変わる必要性を認め、数字追求だけでなく社会的意義とのバランスの取れた経営への転換を表明し、経営方針の見直しに着手した。成長速度を最優先した経営文化が、品質やガバナンスの歪みとして露呈した局面だった。
2018年、DeNAは新規事業への投資額を80億円に拡大[16]し、ライブ配信(Pococha・SHOWROOM)、[17]オートモーティブ(タクシー配車アプリMOV)、[18]ヘルスケア(SOMPOホールディングスとの提携)という3領域に注力する方針を掲げた。ゲーム事業に匹敵する新たな収益の柱を育てる意図だったが、ライブ配信は市場自体がまだ成長過程にあり、オートモーティブは規制や業界構造の壁に直面し、ヘルスケアもマネタイズに時間を要するという難題に直面した。いずれの領域でも短期的な黒字化は難しく、長い育成期間を見込んだ投資として性格づけ直さざるを得ない状況となった。新規事業に対する社内の期待値を順次調整しつつ、どの領域を中心に据えていくのかという問いかけが、経営会議の中心テーマへと押し上がった。
2019年5月には500億円規模の自社株買いを公表したが[19]、これは成長投資に振り向ける先が見つからなかった状況の裏返しでもあった。2021年8月にライブ配信のIRIAM社を89億円で[20]、2022年10月にヘルスケアのアルム社を247億円で買収[21]したが、いずれも業績不振により減損損失を計上するところとなった。ngmoco(約4億ドル、2016年解散)、IRIAM(89億円)、アルム(247億円)と、買収のたびに減損を重ねていった軌跡は、ゲーム依存からの脱却がいかに困難な課題であるかをそのまま示していた。新規領域で収益を生む事業を築く難しさが、同社の次の十年に重くのしかかる構図が浮かび上がる。買収金額がなるほど回収期待も高まるが、それを支える事業成長のスピードが伴わない状況が続き、投資家向けの説明は慎重なトーンへと変わった。
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|---|---|---|---|---|
| 1999〜2006年オークションからモバイルへの事業転換と東証マザーズ上場 | ディー・エヌ・エー(DeNA)を設立 | ★ | ||
| モバオクのサービス提供を開始 | ★ | |||
| 南場智子 | KDDIと提携 | ★ | ||
| 南場智子 | 東京証券取引所マザーズに株式上場 | ★ | ||
| 南場智子 | 「モバゲータウン」開始 | ★★ | ||
| 2007〜2020年ソーシャルゲームによる急成長と海外展開の挫折に揺れた局面 | 南場智子 | 東京証券取引所一部に指定替え | ★ | |
| 南場智子 | DeNA Global, Inc.を米国に設立 | ★ | ||
| 南場智子 | 怪盗ロワイヤルによる広告依存モデルからアイテム課金への転換 2006年に無料の広告メディアとして始めたモバゲータウンの収益を、DeNAは2009年10月の内製ソーシャルゲーム『怪盗ロワイヤル』で、ゲーム内アイテム課金を柱とするモデルへ切り替えた。この転換を主導した守安功COOのもとで、連結売上高は2年で376億円から1,127億円へ伸びた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 南場智子 | モバゲーオープンプラットフォーム開始 | ★ | ||
| 南場智子 | 米ngmoco社の買収と、世界ソーシャルゲームプラットフォームの構築 2010年10月、携帯電話向けソーシャルゲーム『モバゲー』で急成長したDeNAが、米国シリコンバレーのngmoco社を最大4.03億米ドル(約342億円)で取得し、世界No.1のソーシャルゲームプラットフォームの構築をめざして海外へ進出した経営判断。南場智子社長のもと、守安功COOらが海外構想を進めた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 守安功 | 守安功が代表取締役社長に就任 | ★ | ||
| 守安功 | 横浜ベイスターズの買収とプロ野球への参入 2011年、モバイルゲーム『モバゲー』で急成長したDeNAが、東京放送ホールディングスから横浜ベイスターズの株式を議決権66.92%・65億円で取得し、プロ野球へ参入した経営判断。守安功社長は年間200億円弱の広告宣伝・販促の一部として球団取得を説明し、球団名を『横浜DeNAベイスターズ』とした。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 南場智子 | 「Mobage」へ名称変更 | ★ | ||
| 守安功 | コンプガチャを消費者庁の規制に先んじて自主廃止し、課金上限を導入 2012年5月、DeNAはソーシャルゲームの主要な収益源だったコンプガチャを、消費者庁が景品表示法上の見解を示すより前に自主廃止すると表明した危機対応。守安功社長は5月9日の決算発表会で自社タイトルを5月31日までに終えると示し、青少年の月額課金にも上限を設けた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 守安功 | Cygamesの株式を取得 | ★ | ||
| 守安功 | 任天堂と業務・資本提携を締結し、相互出資でスマートデバイス向けゲームを共同開発 2015年、成長が鈍ったDeNAは任天堂と業務・資本提携を結び、相互に株式を持ち合った。任天堂の知的財産を活用したスマホ向けゲームアプリと、専用機・PC・スマホを統合する新会員サービスを共同開発し、資本では約220億円ずつを持ち合って任天堂がDeNAの第2位株主となった、守安功社長のもとでの経営判断。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 守安功 | キュレーション全10サイトを非公開にし、社外の第三者委員会に事実調査を委ねた危機対応 2016年、DeNAはWELQなどキュレーションの全10サイトの記事を非公開にし、社外の弁護士による第三者委員会に事実調査を委ねた危機対応。守安功社長は謝罪会見に立ち、翌2017年3月の調査報告書は著作権侵害や薬機法違反の可能性と組織風土の問題を指摘した。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 守安功 | ライブ配信「Pococha」開始 | ★ | ||
| 守安功 | 創業者の南場智子氏が経団連副会長に就任 | ★ | ||
| 守安功 | 配車アプリ事業「MOV」を日本交通のJapanTaxiと統合し連結から外した選択と集中 2020年2月4日、DeNAは配車アプリ『MOV』を中心とするオートモーティブ事業を、日本交通ホールディングス傘下のJapanTaxiと統合すると発表した。新会社Mobility TechnologiesへのDeNAの出資比率は38%とし、赤字が続いた配車事業を連結から外した経営判断。翌5日には主力のゲーム事業などで493億円の減損を計上し、上場後初の通期赤字となった。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 守安功 | 最終赤字に転落 | ★ | ||
| 2021〜2023年社長交代をきっかけとした事業再構築と成熟企業への移行 | 岡村信悟 | 社長交代と全社的な固定費削減による経営の作り替え 2021年、上場来初の最終赤字を受け、DeNAは10年務めた守安功氏が社長兼CEOを退き、取締役兼COOの岡村信悟氏が昇格した10年ぶりの社長交代と、全社的な固定費削減に踏み切った判断。創業者の南場智子氏は会長にとどまり、新体制は固定費の圧縮とゲーム事業の再強化、新規事業投資の絞り込みを重点に置いた。 詳細を読む | ★★★ | |
| 岡村信悟 | IRIAM社を買収 | ★ | ||
| 岡村信悟 | アルム社を買収 | ★ | ||
| 岡村信悟 | 最終赤字に転落 | ★ | ||
| 岡村信悟 | 『ポケポケ』を提供開始 | ★ | ||
| 南場智子 | 創業者・南場智子氏の15年ぶり社長復帰とAIを軸にした事業モデルの変革 2026年、DeNAは創業者の南場智子氏が15年ぶりに代表取締役社長兼CEOへ復帰し、岡村信悟氏が代表権を残したまま会長へ移る役割の変更に踏み切った判断である。取締役会は5月12日にこの異動を決議し、6月27日の定時株主総会を経て正式に決めた。南場氏は経営のスピードを上げてAIへ資源を寄せ、事業モデルを組み替える方針を掲げ、時間を区切って創業者が先頭に立ち、三年で組織改革をやり遂げると宣言した。 詳細を読む | ★★★ |
免責事項およびポリシー
事実根拠:出所(DeNA)