2002年12月、韓国NEXON Corporation[1](現NXC Corporation)が東京都中央区に株式会社ネクソンジャパンを設立した。当初は日本代理店として設計されたが、2003年1月に既存の日本法人ソリッドネットワークス[2](旧ネクソンジャパン)からオンラインゲーム事業を譲り受け[3]、独立した運営主体として動き出した。韓国本社が開発したタイトルを日本市場で配信するという役割を担いつつ、運営実務は日本法人の裁量で回す形が整えられた。ローカライズ、課金運用、カスタマーサポートを日本で担い、タイトル供給を韓国に依存する関係は、以後20年以上にわたって地域をまたぐ分業の基本形として続いた。開発は韓国、運営は日本という分業の原型がここで生まれ、後年のグループ構造の下地となる設計が固まっている。
転機は2005年10月に訪れた。韓国の親会社がPCオンライン事業を会社分割で新NEXON Corporation(現NEXON Korea)に切り出し、その全株式を日本法人に譲渡した。[4]子会社が親会社の事業中核を逆に飲み込む形となり、日本法人がグループの事業持株会社、韓国法人が開発拠点[5]という現在まで続く構造が定まった。通常の日本企業の海外進出とは逆向きに、韓国発のビジネスを日本の法人格で束ねて国際展開するという設計が、この一手で定まった。以後の上場や買収はすべて、この東京持株・ソウル開発の二極体制の上で動いた。創業家である金正宙の資産管理会社が日本法人の親会社として残り、事業の上位に投資持株、その下に日本の事業持株、さらに下に韓国の開発会社という三層構造が組み上がった[6]。
事業持株会社化の直後、2005年12月にNEXON KoreaがWizet[7] Corporationから『メイプルストーリー』を譲り受け、IPを自社グループに取り込んだ。さらに2006年8月にはMPlay Gamesから『カートライダー』『BnB』を譲受し[8]、無料プレイ+アイテム課金という当時新しかったビジネスモデルを韓国市場で広く展開する基盤を整えた。パッケージ販売が主流だった時代に、月額課金でもなく無料で遊べて課金はアイテム単位という設計は、韓国のブロードバンド普及とネットカフェ文化を前提に成立したものだった。この料金モデルは後年のスマホゲームにも受け継がれる雛形となり、ネクソンは原型を持つ側として運営ノウハウを蓄積した。買収した3タイトルはいずれもライブサービス[9]として継続運営可能な設計であり、長期運営前提のIPを外部からまとめて取り込む動きが集中している。
決定的だったのは2008年8月のNEOPLE INC.買収だった。同社が開発する『アラド戦記』(中国名Dungeon&Fighter)は、後にテンセントが中国でパブリッシングし、ネクソン全体の収益を支える主力IPに育つ。[10]2008年通期の売上402億円から2012年には1,084億円へと2.7倍に拡大し、日本法人ネクソンは東京都中央区にありながら、業績の大半を韓国・中国で稼ぐ会社となった。買収時点では韓国で一定のヒットを持つ一IPの取得だったが、テンセントとの中国パブリッシング契約を経て、グループ収益の重心そのものを中国市場へ引き寄せる結果となり、地理的なねじれは一段と深まる。開発は韓国のネオプル、パブリッシングは中国のテンセント、ロイヤリティの受け皿は日本の上場会社という三カ国構成が、単一IPの周囲に組み上がる構図となった。
2009年4月、株式会社ネクソンジャパン[11]は株式会社ネクソンに商号変更し、グループ事業持株会社としての位置づけを対外的に示した。2011年2月には新NEXON Corporation[12]がNEXON Korea Corporationへ商号を改め、グループ内のブランド体系も整理した。ネクソンという同じ看板を東京の持株会社とソウルの開発会社が分けて掲げる体制へ整え、投資家や取引先から見た法人関係をわかりやすくする意図がうかがえる。商号と資本関係の整理が先行して進み、翌年末の上場に向けた地ならしとしての性格が強い局面だった。日本法人が事業会社としてのネクソンを担い、韓国法人が開発拠点としてのネクソン・コリアを担うという役割分担が、法人名のレベルで外部から読み取れた。
そして2011年12月、ネクソンは東京証券取引所市場第一部に上場した[13]。FY11の売上は876億円、営業利益382億円。地域別では韓国セグメントが631億円・利益337億円と日本の約5倍に達し、日本はわずか130億円・利益22億円にとどまった。上場会社の本籍と稼ぎ頭の地理的不一致は、以降のネクソンを最も特徴づける要素となり、投資家に対しては毎四半期、韓国と中国の数字を日本の開示フォーマットで説明する構図が定着した。通貨・会計基準・言語のいずれも本籍地と主戦場でずれる前提のうえに、上場会社としての透明性を確保する経営方針が、この上場を起点に重要な課題となり続けた。
2014年3月、米国出身のオーウェン・マホニーが代表取締役社長に就任した[14]。1999年にグループへ入社した生え抜きの崔承祐から外部プロ経営者へのバトンタッチであり、グループ全体の戦略言語が変わった。マホニー体制の下で、事業ポートフォリオは少数のライブサービスIPを長く運営する会社という輪郭に寄せられた。
この方針はIFRS適用後のFY13の業績にも表れ、売上1,553億円・営業利益507億円のうち[15]、韓国セグメントが1,064億円・利益562億円とグループ収益の大半を占めた。一方で北米セグメントは赤字のまま推移し、地域別の収益格差はむしろ広がる方向にあった。IPの数を増やすのではなく、既存IPを深く運用する路線が業績と戦略の両面に定着し、新規タイトルのグリーンライト基準もライブサービスとしての継続可能性に寄った。少数IPで稼いだ利益を既存IPの延命と次世代パイプラインに振り向けるサイクルが、制度化された。運営期間10年以上を視野に入れた開発前提の下で、短期的なヒット狙いのタイトルよりも、長期アップデートを前提とした設計のタイトルを優先する判断が日常化した。
FY15に売上1,902億円・営業利益622億円・純利益551億円とそれまでの過去最高を更新したが、翌FY16は売上1,831億円・営業利益406億円・純利益201億円へ後退した。韓国セグメントは引き続き1,531億円・利益745億円と堅調だったが、北米セグメントは48億円の赤字に拡大し、グローバル展開の難しさが業績面で表面化した。韓国・中国の主力IPが稼ぐ利益を北米・欧州のタイトル開発に投じても、同地域の市場で収益化まで結びつかないというパターンが、セグメント別の数字に浮かび上がる。地理的偏在は上場当初からの課題として残り続けた。業績のピークと踊り場が1年おきに入れ替わる振れ幅の大きさは、少数IPへの集中と表裏一体の現象として、繰り返し顔を出すようになる。
その後はNEOPLEを中核とする中国『アラド戦記』の成長を取り込み、FY18には売上2,537億円・営業利益983億円・純利益1,076億円と一段高い水準に到達した。FY19も売上2,485億円・営業利益945億円・純利益1,156億円と高水準を維持し、コロナ禍に入ったFY20には売上2,930億円・営業利益1,114億円で過去最高を更新した。収益の柱は少数のフランチャイズに寄り、フランチャイズ外タイトルの比率は相対的に下がった。
2018年6月、NEXON KoreaがNAT GAMES(現NEXON Games)の株式を追加取得して子会社化し[16]、開発スタジオ体制を内製化した。2019年7月には、ストックホルムを拠点とするEmbark Studios ABの株式を追加取得して子会社化した。後に『THE FINALS』『ARC Raiders』を手掛けるEmbarkは、欧米市場向けシューターという、ネクソンが得意としてこなかった領域への人材取得という性格が強い買収だった。[17]既存3大フランチャイズの運営で稼ぐ体制とは別に、欧米発の新規IPを仕込むための開発機能をグループ内に置く構図が、この一連の買収で形づくられた。韓国とスウェーデンという地理的に離れた開発拠点を同時に抱える体制は、既存IPの深耕と新市場向けの仕込みを並行で回すための設計として動き出した。運営で稼いだ原資を欧米の開発機能に振り向ける構造が、組織図の上にも明示された。
2022年2月には、3年間で総額1,000億円を上限[18]とする自己株式取得方針を公表し、同年4月の東証プライム市場移行後は[19]ガバナンスと還元の枠組みが整った。FY22の売上は3,537億円・営業利益1,036億円・純利益1,003億円。3大フランチャイズへの集中で稼ぎ、その利益を新作開発と株主還元に振り向けるサイクルが形になった一方、収益の地理的偏在は変わらず、グループ全体としては中国・韓国に依存したまま規模を拡大していた。マホニー体制の10年は、IPの選別・既存IPの深耕・開発力の補強・還元強化という4つの軸を並行して回す期間であり、その骨格を引き継ぐ形で次の経営体制が発足した。
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|---|---|---|---|---|
| 2002〜2012年韓国IPの日本上陸と親子逆転と事業基盤の拡充 | ネクソンジャパンを設立 | ★ | ||
| ソリッドネットワークスから日本におけるオンラインゲーム事業を譲受 | ★★ | |||
| 中国・Lexian Software Developmentを設立 | ★ | |||
| 子会社が親会社の事業中核を逆に取り込んだ「親子逆転」再編 2005年10月、韓国の親会社NEXON CorporationがPCオンライン事業を会社分割で新会社(現NEXON Korea)に切り出し、その全株式を東京の子会社ネクソンジャパンへ譲渡した経営判断である。子会社が親会社の事業中核を逆に取り込む『親子逆転』再編で、東京を事業持株会社、ソウルを開発拠点とする二極構造がこの一手で定まった。 詳細を読む | ★★★ | |||
| NEXON Koreaが『メイプルストーリー』をWizetから譲受 | ★★ | |||
| NEXON Koreaが『カートライダー』『BnB』をMPlay Gamesから譲受 | ★ | |||
| NEXON KoreaがNEOPLE INC.を買収し子会社化 | ★★ | |||
| 崔承祐 | ネクソンに商号変更 | ★ | ||
| 崔承祐 | NEXON COMMUNICATIONSを設立 | ★ | ||
| 崔承祐 | 韓国発祥のオンラインゲーム会社が選んだ東京証券取引所への上場 2011年12月、韓国発祥のオンラインゲーム会社ネクソンが東京証券取引所市場第一部に上場した経営判断である。調達額は約980億円でその年最大級の新規株式公開となり、韓国取引所や香港証券取引所、米ナスダック市場ではなく東京を選んだ点が注目された。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 2013〜2022年マホニー時代とIP集中路線と事業基盤の拡充 | オーウェン・マホニー | オーウェン・マホニーが代表取締役社長に就任 | ★ | |
| オーウェン・マホニー | NEXON TAIWANを設立 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | N Media Platformを子会社化 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | 営業利益が前年比35%減の406億円に減少 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | 営業利益983億円・当期純利益1,076億円で過去最高水準を記録 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | 本社を移転 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | NEXON KoreaがNAT GAMESを子会社化 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | Embark Studios AB(スウェーデン)を子会社化 | ★★ | ||
| オーウェン・マホニー | 売上収益2,930億円・営業利益1,114億円で過去最高を更新 | ★ | ||
| オーウェン・マホニー | Nexon Filmed Entertainmentを設立 | ★ | ||
| 2023〜2024年新経営体制とFY27経営目標と事業基盤の拡充 | 李政憲 | 売上収益4,462億円で過去最高を更新 | ★ | |
| 李政憲 | イ・ジョンホンが代表取締役社長に就任 | ★ | ||
| 李政憲 | 『アラド戦記モバイル』を配信開始 | ★ | ||
| 李政憲 | 新規IP『The First Descendant』を配信開始 | ★ | ||
| 李政憲 | 『マビノギモバイル』を配信開始 | ★ |
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事実根拠:出所(ネクソン)