TMD Frictionの買収(2011年・日清紡HDの決断)

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論点 欧州の摩擦材大手を全株取得するか
日清紡HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
欧州のブレーキ摩擦材大手の全株式取得と、その完全な傘下入り

何をなぜ決めたか:欧州のブレーキ摩擦材大手の全株式取得と、その完全な傘下入り

概要

2011年11月29日に企業結合日を迎えた、ルクセンブルクに本拠を置くTMD FRICTION GROUP S.A.の全株式取得。現金を対価に議決権の100.00%を取得し、取得原価は46,164百万円。これにより日清紡ホールディングスは自動車ブレーキ用摩擦材で世界シェア15%超(自社調べ)を持つトップメーカーとなった。

背景

ブレーキ製品事業はタイ・米国・インドネシア・韓国と自前の拠点を築いてきたが、欧州には生産・販売の足場がなかった。日清紡ホールディングスは「グローバル戦略の深耕」を掲げ、既存ビジネスや新規事業の育成・強化に加えて積極的なM&Aを進めていた。

内容

企業結合を行った主な理由として、自動車ブレーキ用摩擦材のグローバルリーダーシップの獲得、技術補完による業容拡大、コストシナジー、グローバル人材・組織体制の獲得が挙げられている。資産・負債の時価評価により9,352百万円をノウハウ等の無形固定資産に、23,056百万円をのれんに計上し、のれんは5年の均等償却とした。

含意

ブレーキ事業の売上高は2012年3月期の474億円から2013年3月期には1,188億円へ拡大したが、セグメント損益は同期から5期続けて赤字となった。2023年11月30日に全株式と貸付債権をAEQUITA傘下へ譲渡し、事業整理損8,723百万円と、譲渡の決定に伴う減損損失28,919百万円を計上している。

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考察:シェアは買えても、収益は買えるのか
考察

考察:シェアは買えても、収益は買えるのか

この買収が問うているのは、世界首位という位置に何を期待していたかである。摩擦材は自動車メーカーの地域ごとの調達に沿って売られる部品であり、欧州の顧客に届くには欧州の工場と商流が要る。それを一から建てれば十年単位の時間がかかる以上、稼働している会社を丸ごと買う判断には理屈が通っていたとみられる。シェアは自社調べで15%超へ届き、ブレーキ事業の売上も1年で2.5倍になった。買った時点で得られるはずのものは、おおむね手に入っている。

手に入らなかったのは利益であった。買収の翌期から5期続けてセグメント損益は赤字で、その後も黒字と赤字を往復している。日清紡ホールディングスは譲渡の理由として、Euro7への対応をはじめ自動車業界が新たな課題に直面するなかでTMDが競争力を維持するには事業体制の抜本的かつ継続的な改革が必要だと判断し、自動車業界での経験と事業改革のノウハウを持つAEQUITAの傘下に入ることが最適だと結論づけたと述べている。規模を買って首位に立つのか、業界をリードする銅フリー摩擦材という狭くとも競争優位に立てる領域に絞るのか——同じ会社が12年をかけて逆向きの答えを出した経緯は、多角化した事業を抱える経営に繰り返し現れる問いと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

日清紡HD:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
日清紡HD:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2007年3月期 3,2355,726472,670
2008年3月期 4383,407424,705
2009年3月期 3283,139366,858
2010年3月期 6164,435358,109
2011年3月期 1,2245,278479,852
2012年3月期 25,34147,068534,583 TMDの取得でのれん23,056、ノウハウ等の無形固定資産9,352が加わった
2013年3月期 23,00244,762551,933
2014年3月期 23,37846,146611,310
2015年3月期 16,01335,914678,486
2016年3月期 14,60730,636651,793
2017年3月期 8,07720,670646,288 TMDののれんは5年均等償却のため2017年3月期でおおむね償却し終えた
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第165期〜第175期(連結貸借対照表)
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第165期〜第175期(連結貸借対照表)

日清紡HD:ブレーキ事業の売上高とセグメント損益

売上高(百万円)セグメント損益率(%)
日清紡HD:ブレーキ事業の売上高とセグメント損益
(百万円) 売上高セグメント損益 備考
2007年3月期 61,7647,009
2008年3月期 66,3978,871
2009年3月期 53,2603,309
2010年3月期 41,0453,879
2011年3月期 46,1185,090
2012年3月期 47,4504,254 TMDは決算日が異なり、この期の連結損益計算書には業績が含まれない
2013年3月期 118,849△4,301 TMDが通期で加わり売上は2.5倍。セグメント損益は赤字に転じた
2014年3月期 148,699△1,813
2015年3月期 161,886△2,068
2016年3月期 165,037△886
2017年3月期 146,061△7
2018年3月期 154,2046,119
2018年12月期 135,007△813 決算期変更により2018年4月から12月までの9か月決算
2019年12月期 131,338△3,340
2020年12月期 114,826△2,289
2021年12月期 138,2953,558
2022年12月期 153,643△4,664
2023年12月期 178,5414,682 11月30日にTMDを譲渡。減損損失28,919と事業整理損8,723は特別損失に計上
2024年12月期 58,1882,333 TMD譲渡後。国内と韓国・中国・インド・タイ・米国の拠点による売上
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第165期〜第182期(セグメント情報、外部顧客への売上高とセグメント利益又は損失)
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第165期〜第182期(セグメント情報、外部顧客への売上高とセグメント利益又は損失)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 TMD FRICTION GROUP S.A. ブレーキ用摩擦材・部品の製造・販売。ルクセンブルクに本拠を置く
企業結合日 2011年11月29日 みなし取得日は2011年12月31日。決算日が異なり当期の損益には含まれない
企業結合の法的形式 現金を対価とした株式の取得 取得企業を決定するに至った根拠も、現金を対価に議決権を100%取得したこと
取得した議決権比率 100.00% 企業結合日直前に所有していた議決権比率は0.00%
取得原価 46,164百万円 株式取得費用45,446百万円と、アドバイザリー費用等718百万円の合計
のれん 23,056百万円 228,938千ユーロ。期待される将来の収益力に対応し、5年間の均等償却
のれん以外の無形固定資産 9,352百万円 ノウハウ4,841・顧客基盤3,158・商標権1,352百万円。償却は6年から26年
受け入れた資産合計 62,059百万円 流動資産25,537百万円、固定資産36,522百万円
引き受けた負債合計 39,930百万円 流動負債13,179百万円、固定負債26,751百万円
通期換算した売上高 75,981百万円 期首に結合したと仮定した場合の概算額。監査証明を受けていない
通期換算した営業損益 △6,600百万円 同じ概算で経常損失7,563百万円、当期純損失7,839百万円
結合を行った主な理由 グローバルリーダーシップの獲得 技術補完による業容拡大、コストシナジー、グローバル人材・組織体制の獲得
譲渡日 2023年11月30日 みなし事業分離日は2023年12月31日。AEQUITA傘下のAEQH27 S.A.R.L.へ
譲渡に伴う事業整理損 8,723百万円 株式・貸付債権の譲渡対価と連結上の帳簿価額との差額等を特別損失に計上
譲渡の決定に伴う減損損失 28,919百万円 2023年12月期のブレーキセグメントの減損損失は29,071百万円
譲渡した事業の売上高 121,813百万円 2023年12月期の連結損益計算書に含まれる分離事業の概算。営業利益2,772百万円
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第169期(2012年3月期)【企業結合等関係】、第181期(2023年12月期)【企業結合等関係】
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第169期(2012年3月期)【企業結合等関係】、第181期(2023年12月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第169期(2012年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第181期(2023年12月期)【企業結合等関係】2事業分離」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第165期〜第182期(連結貸借対照表、セグメント情報)」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第169期(2012年3月期)【業績等の概要】【対処すべき課題】」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第183期(2025年12月期)【沿革】」

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