新日本無線の子会社化(2005年・日清紡HDの決断)

更新:
論点 半導体メーカーを公開買付で取得するか
日清紡HD:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
公開買付による株式取得と、連結子会社としての取り込み

何をなぜ決めたか:公開買付による株式取得と、連結子会社としての取り込み

概要

2005年12月、日清紡績が友好的な株式公開買付により新日本無線の株式を追加取得し、連結子会社にした経営判断。2006年3月期末の議決権比率は52.63%で、上場は維持した。同じ月には日本無線から株式を譲り受け、医用電子機器のアロカを持分法適用関連会社としている。

背景

日清紡績は「経営3カ年計画2006の達成」を掲げ、21世紀においても存在感のある企業グループとなることを目指していた。取り巻く事業環境は厳しい国際競争にさらされ、一次産品価格の上昇分を売価へ転嫁することも難しい状況が続くとみていた。新日本無線とアロカはいずれも東京証券取引所第一部に上場する会社で、同社が新規事業として育ててきた「情報・エレクトロニクス」「ライフサイエンス」分野の一翼を担う位置にあった。

内容

新たに連結子会社となった会社の株式の取得価格は17,513百万円、受け入れた現金及び現金同等物を差し引いた取得のための支出は13,907百万円。連結調整勘定4,266百万円が生じ、5年の均等償却とした。買付の資金は投資有価証券を売却して手当てし、特別利益に投資有価証券売却益13,742百万円が立っている。

含意

エレクトロニクス製品事業はこの期に区分を新設され、売上高は2006年3月期の459億円から翌期には761億円へ伸びた。日清紡績は友好的なM&Aも視野に入れて業容の拡大を図る方針を示し、2010年12月には日本無線を子会社化する。新日本無線は2018年9月に株式交換で完全子会社となり、2022年1月にリコー電子デバイスを吸収合併して日清紡マイクロデバイスへ商号を変更した。

いつ何が起きたか 8件
考察:守るための資産から、組み替えるための事業へ
考察

考察:守るための資産から、組み替えるための事業へ

2005年の公開買付が示しているのは、半導体という事業を得た取引であると同時に、資産の使い道を選び直した場面でもあったということである。買付の資金は投資有価証券の売却で手当てされ、特別利益には137億円の売却益が立った。保有していた株式を売り、その代金で稼ぐ事業の経営権を買う——祖業である繊維が厳しい国際競争にさらされ、価格上昇分の売価への転嫁も難しいと自ら記していた会社にとって、含み益を抱えて持ちこたえるのではなく使い切る側へ回る選択だったと思われる。

もっとも、半導体を取り込んで収益がすぐに立ったわけではない。エレクトロニクス事業のセグメント損益は2009年3月期と2010年3月期に赤字へ沈み、その後の主な稼ぎ手は後から加わった無線・通信へ移った。買った事業が思惑どおりに育つとは限らず、育った事業が当初の狙いどおりとも限らない。それでも、売上高の3割を繊維が占めていた会社が10年で繊維1割の姿へ変わった起点はここにある。買収を重ねるほど、次にどれを手放すかという問いが重くなる——その循環の入口が2005年にあった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

数字で見る

図と表

日清紡HD:エレクトロニクス事業の売上高とセグメント損益

売上高(百万円)セグメント損益率(%)
日清紡HD:エレクトロニクス事業の売上高とセグメント損益
(百万円) 売上高セグメント損益 備考
2006年3月期 45,857808 新日本無線は下半期から加わった。区分を新設した最初の期にあたる
2007年3月期 76,0671,041 新日本無線の業績が通期で寄与した最初の期
2008年3月期 76,4741,103
2009年3月期 60,549△3,918
2010年3月期 51,699△2,654
2011年3月期 112,8206,183 2010年12月に子会社とした日本無線・長野日本無線が加わっている
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第163期〜第168期(事業の種類別セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高と利益)
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第163期〜第168期(事業の種類別セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高と利益)

日清紡HD:事業別売上高の推移

日清紡HD:事業別売上高の推移
(百万円) 繊維ブレーキエレクトロニクス 備考
2006年3月期 82,87858,13045,857 売上高の3割を繊維が占め、エレクトロニクスは1割6分にとどまっていた
2007年3月期 82,24361,76476,067
2008年3月期 78,81666,39776,474
2009年3月期 67,59353,26060,549
2010年3月期 56,75541,04551,699
2011年3月期 57,40046,118112,820
2012年3月期 60,96347,450169,906
2013年3月期 50,773118,849175,307 TMD Frictionが通期で加わり、ブレーキが繊維の2倍を超えた
2014年3月期 51,348148,699187,742
2015年3月期 48,165161,886209,115
2016年3月期 60,127165,037205,367 繊維は売上高の1割強。エレクトロニクスとブレーキで8割を占める
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第163期〜第174期(事業の種類別セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高)
出所:日清紡ホールディングス 有価証券報告書 第163期〜第174期(事業の種類別セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
対象会社 新日本無線株式会社 半導体・マイクロ波管の製造販売。東京証券取引所第一部に上場していた
取得の方法 友好的な株式公開買付 2005年12月に実施。連結の範囲には2006年3月期の下半期から算入した
取得後の議決権比率 52.63% 2006年3月期末。2007年3月期末には59.64%へ上がっている
買付価格・買付期間・応募株券数 有価証券報告書に記載なし 決議期の【経営上の重要な契約等】に公開買付の記載が置かれていない
株式の取得価格 17,513百万円 当期に新たに連結子会社となった会社の合計。主たるものは新日本無線
取得のための支出 13,907百万円 取得価格から受け入れた現金及び現金同等物3,606百万円を控除した額
連結調整勘定 4,266百万円 5年間の均等償却。のれんへの科目変更前のため連結調整勘定として計上
受け入れた資産 流動資産36,233百万円 固定資産は26,055百万円
引き受けた負債 流動負債25,814百万円 固定負債は10,078百万円
少数株主持分等 13,149百万円 少数株主持分及び過年度取得親会社持分。上場を維持したため外に残った
買収資金の手当て 投資有価証券の売却 特別利益に投資有価証券売却益13,742百万円を計上した
完全子会社化の日 2018年9月1日 株式交換。新日本無線株1株に日清紡HD株0.65株を割り当てた
完全子会社化の取得原価 11,539百万円 自己株式9,253,440株を充当。資本剰余金が6,334百万円減少している
商号変更 2022年1月 日清紡マイクロデバイス リコー電子デバイスを吸収合併したことに伴う商号変更
出所:日清紡績 有価証券報告書 第163期(2006年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】、日清紡ホールディングス 第176期(2018年12月期)【企業結合等関係】
出所:日清紡績 有価証券報告書 第163期(2006年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】、日清紡ホールディングス 第176期(2018年12月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 日清紡績 有価証券報告書「第163期(2006年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】」
  • 日清紡績 有価証券報告書「第163期(2006年3月期)【業績等の概要】【財政状態及び経営成績の分析】」
  • 日清紡績 有価証券報告書「第164期(2007年3月期)【関係会社の状況】」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第176期(2018年12月期)【企業結合等関係】Ⅲ共通支配下の取引等」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第163期〜第174期(事業の種類別セグメント情報、セグメント情報)」
  • 日清紡ホールディングス 有価証券報告書「第183期(2025年12月期)【沿革】」

次に読む決断

免責事項およびポリシー