富士ソフトKKR傘下FK株式会社による公開買付けへの賛同と、東証プライム市場からの上場廃止

上場のまま中期経営計画を実行するか、非公開化して株主構成を整えるか——独立社外取締役6名が2年かけて比べたもの

時期 2024年8月
意思決定者(推定) 取締役会・今井光 社外取締役・特別委員会 委員長
論点 株主構成の整備と非公開化の是非
概要
2024年8月8日、富士ソフトの取締役会が、KKR傘下のFK株式会社による1株8,800円の公開買付けに賛同し、株主へ応募を推奨すると決議した経営判断。非公開化の提案は会社が募ったものではなく、筆頭株主の3D Investment Partnersが投資家を集めて回したプロセスから届いた。
背景
富士ソフトは2022年8月に企業価値向上委員会と5つのワーキンググループを置き、経営上の選択肢を洗い直していた。そこへ2023年7月、3D Investment Partnersが非公開化提案を募るプロセスの実施を通告し、会社は独立社外取締役6名の特別委員会に検討を委ねた。
内容
KKRの提示価格は2023年8月の1株6,400円から6,800〜7,200円、7,800〜8,100円と上がり、2024年6月14日に法的拘束力のある8,800円へ達した。8月8日、FK株式会社は3D Investment Partnersと所有割合23.46%、Farallonと同9.22%の応募契約を結んだ。
含意
ベインキャピタルの対抗提案を受けてKKRは買付予定数の下限を撤廃し、公開買付けを2回に割った。買い付け価格は最終的に1株9,850円まで上がり、富士ソフト株は2025年5月16日に上場廃止となった。
筆者の見解

誰が決める場を握るか

富士ソフトの取締役会が最後まで扱いかねたのは価格ではなく、非公開化を検討する場が外から持ち込まれた事実であった。提案は会社が募ったものではない。筆頭株主の3D Investment Partnersが集めた投資家から届いた。それでも門前払いはせず、独立社外取締役6名の特別委員会に委ね、8,800円を上回る後発の提案まで俎上に載せて退けた。株主構成を整えるのが最重要という2024年7月の結論は、非公開化が統治の課題として選ばれたことを示している。

ただ、その選択は上場企業に残された幅を自ら狭めた。3D Investment PartnersとFarallonが合わせて32%超を先に売ると約束した時点で、後から高値を掲げる者の勝ち目は薄かった。一方で、6,400円から9,850円まで動いた価格は、外から来たプロセスが少数株主の取り分を押し上げた面も併せ持つ。自社ビルを工場と同じ資産と見る経営が資本効率の物差しで割り引かれたとき、その物差しごと拒む余地は、すでに残っていなかったのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

5つの検証ワーキンググループと外部アドバイザー

富士ソフトは2022年8月5日、企業価値向上委員会を設立した。配下には企業統治検証・株主投資家対応・事業検証・企業グループ検証・不動産検証の5つのワーキンググループを置き、経営上の選択肢を洗い直す作業に入った。前月の7月上旬には企業価値向上策の外部アドバイザーとして株式会社QuestHubを選び、その助言のもとで検討を進めた[1]

委員会が動き出した直後の2022年10月下旬から、富士ソフトはKKRを含む複数のPEファンドと企業価値向上策を議論した。同年12月4日の臨時株主総会で辻孝夫氏・仁科秀隆氏・今井光氏・清水雄也氏・石丸慎太郎氏の5名が社外取締役に加わり、非公開化も選択肢から外さずに検討を続ける取締役体制ができた。2023年6月上旬にはSMBC日興証券と森・濱田松本法律事務所を助言者に据えた[2]

株主が募った入札と、独立社外取締役だけの検討体制

2023年7月3日、富士ソフトは3D Investment Partnersから書簡を受け取った。同社が主導して非公開化による企業価値向上策を潜在的な投資家から募り、そのプロセスを通過した候補者に、3D Investment Partnersが持つ富士ソフト株の資本政策に関する優先交渉権を与えるという内容である。KKRは後の開示で、筆頭株主によるプロセスが対象会社の同意を得ずに実施されるのは極めて異例と記した[3]

富士ソフトは2023年7月25日の取締役会で、独立社外取締役のみで構成する独立取締役ワーキンググループを設置した。8月には複数のPEファンドへ情報提供を要請し、下旬には3D Investment Partnersの依頼に応じたファンドから非公開化の提案が書面で届いた。会社が求めた提案ではなかったが、経済産業省が2023年8月31日に公表した「企業買収における行動指針」を踏まえ、9月12日の取締役会で独立社外取締役6名の特別委員会を設けた[4][5]

決断

6,400円から8,800円へ、10カ月の価格の階段

KKRが最初に価格を示したのは2023年8月18日で、3D Investment Partners宛の法的拘束力のない提案書に1株6,400円と書いた。前営業日の終値4,520円に41.59%のプレミアムが乗る水準である。デュー・ディリジェンスを終えた同年9月8日には富士ソフトへ6,800〜7,200円を示し、2024年2月29日、特別委員会宛の提案書で7,800〜8,100円まで上げた[6]

2024年6月14日、KKRは1株8,800円とする法的拘束力のある最終提案書を出した。富士ソフトは同年6月上旬から下旬にかけて、法的拘束力のある意向表明書を2社から、拘束力のないものを1社から受け取った。7月5日にKKRへ独占交渉権を与え、7月中旬には、経営推進上の課題である株主構成を整えることが最重要であり、その手段としてPEファンドの提案を受け入れるのが最善だという結論に達した[7]

8,800円を上回る提案を退けた特別委員会

2024年7月26日、PEファンド1社が8,800円を超える価格を示した法的拘束力のない提案書を富士ソフトへ提出した。特別委員会はKKRと当該第三者の双方に面談し、会社を通じて3D Investment Partnersの意向も確かめたうえで、8月4日付の意見書で、6月28日に出した意見を変更するに足る事情はないと答えた。拘束力がなく、3D Investment Partnersの応募同意を得られる確度も不透明という判断である[8]

2024年8月7日、富士ソフトとKKRは1株8,800円で合意し、翌8日の取締役会が賛同と応募推奨を決議した。同じ日、KKR側のFK株式会社は3D Investment Partnersと14,834,000株、Farallonと5,833,670株の応募契約を結んだ。所有割合にして23.46%と9.22%。買付予定数の下限は42,142,900株、割合では66.64%で、株式併合に要する議決権の3分の2を公開買付けの段階で押さえる設計であった[9]

結果

下限を撤廃し、公開買付けを2回に割る

ベインキャピタルが対抗提案を明かすと、KKRは買収の組み立てを作り直した。2024年9月19日、第1回公開買付けの買付予定数の下限を撤廃し、第1回で所有割合53.40%に当たる33,658,500株を取得できなければ第2回を実施する2段階の構成へ切り替えた。富士ソフトの取締役会は10月18日、第1回への賛同と応募推奨を維持しつつ、株主がベインキャピタルの提案の帰趨を見て第2回に応募する選択も合理的だと付け加えた[10][11]

下限を外せた根拠は、株主構成の推計にあった。KKR側は、公開買付けには応募しない一方で株式併合の議案には賛成するとみられるパッシブ・インデックス運用ファンド等が少なくとも8.2%程度を保有すると試算し、直近3事業年度の議決権行使率の最大値92.16%から、特別決議の可決に要する水準を約61.44%と見積もった。53.22%さえ握れば臨時株主総会を通せると読んだ[12]

1株9,850円と、2025年5月16日の上場廃止

第1回公開買付けに応じたのは22,131,902株、所有割合で35.11%にとどまり、想定した53.40%には届かなかった。決済が終わった2024年11月12日の時点で、FK株式会社の持ち分は33.97%にとどまった。株価が8,800円を超えて推移していたことから、KKRは11月15日に第2回の価格を9,451円へ引き上げ、下限を12,133,398株、割合にして19.25%に置いた。買い付け価格は最終的に1株9,850円まで上がった[13][14]

創業家が一転して賛同したことで手続きは速まり、2025年4月25日の臨時株主総会に株式併合の議案がかかった。富士ソフト株は5月16日に上場廃止となった。2011年10月の就任から売上高を2.3倍、純利益を12.4倍にした坂下智保元社長は後年、自社で持つオフィスは工場のような資産で、賃貸より費用を抑えられることは競争力を高める戦略だったと説明している。不動産が大きなテーマだったことは事実だと認めつつ、保有に固執していたわけではないとも述べた[15][16]

出典・参考

この決断を下した社長 坂下智保

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