サッポロビール スティールへの買収防衛策 買付提案への大規模買付ルールの適用と、株主総会の承認による対応方針の発効

更新:

時期 2007年3月
当時の社長 村上隆男
論点 敵対的買収への対応と資本政策
何をなぜ決めたか
概要

2007年2月15日、筆頭株主のスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンドから「貴社株式の友好的取得について」と題する買付提案が届いた。同ファンドは2005年12月末に15.96%、2006年12月末に17.52%を握る第1位の株主で、恵比寿ガーデンプレイスに象徴される不動産の含み益と低い資本効率を突いていた。

村上隆男社長のもとで会社が採ったのは、提案そのものを拒むことではなく、前年に取締役会決議で導入していた大規模買付ルールを適用し、必要情報の提供を求めて評価期間を置くことだった。3月29日の第83回定時株主総会では、株主の承認を条件とする新しい対応方針が可決され、旧方針は同総会の終結をもって廃止された。

背景

恵比寿ガーデンプレイスの賃貸収益がビール本業の薄利を覆う構造は、多くの資産を抱えながら利益と資本効率が伸びない姿を残していた。2006年12月期の連結売上高4,350億円に対し、営業利益は86億円、当期純利益は23億円にとどまる。

スティールの保有は2005年8月26日の大量保有(変更)報告書で16.40%と示され、同年末の株主名簿では15.96%で第1位に立った。会社は2006年2月17日、取締役会決議で大規模買付行為への対応方針を導入する。買付提案が届いたのは、その1年後である。

内容

対応方針が定めたのは、特定株主グループの議決権割合が20%以上となる買付を大規模買付行為とし、買付者に必要情報の提供と取締役会評価期間の経過を求める手続きである。評価期間は情報提供の完了後60日以内とし、独立委員会の勧告を最大限尊重して最大90日まで延ばせる。ルールを守らない買付には、580,000,000株を上限とする新株予約権の無償割当で対抗する。

協議は長引いた。3月1日に必要情報リストを交付してから3回のやり取りを重ね、評価期間が始まったのは12月6日である。2008年2月26日に取締役会の意見を通知すると、3月10日に修正提案が返ってきた。会社は話し合いの継続を申し入れ、面談と意見交換が1年近く続いた。

含意

2009年2月17日、スティールは修正提案を撤回する書簡を送ってきた。所有株式数は2007年12月末から2009年12月末まで69,150千株・17.55%で動かず、2010年中に大株主上位10名から消える。対応方針は毎年の定時株主総会で承認を重ね、2011年3月30日の第87回総会で有効期間が1年から3年へ延び、2023年3月の第99回総会の終結をもって廃止された。

守りの裏側で資本政策も動いた。1株当たり配当額は2003年12月期から5円で据え置かれていたが、2008年12月期に7円へ上がる。一方、株主総会決議または取締役会決議による自己株式の取得は、2011年12月期まで一度もない。

いつ何が起きたか 14件
筆者の見解
筆者の見解

守り抜いた構造と、残された課題

この対応は、買収を拒む装置というより、時間を買う装置だったとみられる。会社が使ったのは新株予約権ではなく手続きである。必要情報の提供を求め、やり取りを重ね、評価期間を置く。買付提案を受け取ってから撤回の書簡が届くまで、2年が過ぎた。その間にサッポロは恵比寿ガーデンプレイスの共有持分15%を500億円で手放してモルガン・スタンレーと組み、株主還元も引き上げている。対抗措置を一度も発動しないまま、買い手が退くのを待ち切った判断であった。

もっとも、防衛が成ったことと、突かれた弱点が消えたことは別である。スティールが問うたのは、都心の一等地を抱えながら資本効率が上がらない構造そのものであり、それは撤退後も残った。対応方針はその後も株主総会で承認を重ね、有効期間を3年に延ばしながら2023年まで生き続ける。守りの仕組みだけが16年残り、問われた構造の見直しは先送りされた。同じ問いを3Dインベストメント・パートナーズが改めて突きつけたとき、サッポロが選んだのは防衛ではなく不動産事業の切り離しだった。ここに、この判断が残した宿題がにじんでいるように思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収防衛策と買付提案への対応の条件

買収防衛策と買付提案への対応の条件

科目 概要 備考
提案株主 スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド 正式名称は末尾に「(オフショア),エル・ピー」が付く投資ファンド。所在はケイマン諸島
提案時の所有比率 17.52%(66,500千株) 2006年12月31日現在の株主名簿で第1位。2007年12月31日には69,150千株・17.55%
買付提案 「貴社株式の友好的取得について」 2007年2月15日に受領。2008年3月10日に修正提案、2009年2月17日に撤回の書簡を受領
買付価格 会社の公表資料に記載なし 提案の詳細は会社ホームページを参照先として示されているが、当該ページは現存しない
旧対応方針の導入決議日 2006年2月17日 取締役会決議で導入。買付提案への対応にはこの旧方針を継続して適用した
対応方針の株主総会承認 2007年3月29日 第83回定時株主総会 同日の総会終結の時をもって旧方針を廃止し、新たな対応方針が発効した
議案別の賛成率 会社の公表資料に記載なし 議案別賛成率を載せる臨時報告書の制度は2010年に始まり、第83回・第84回総会は対象外
発動の要件 特定株主グループの議決権割合20%以上 20%以上を目的とする買付か、結果として20%以上となる買付。取締役会が同意した者は除く
取締役会評価期間 最長90日 必要情報の提供完了後60日以内。独立委員会の勧告を最大限尊重して最大90日まで延長できる
対抗措置 新株予約権の無償割当 目的となる株式の総数は580,000,000株を上限とする。発動の判断は独立委員会に諮問する
独立委員会 委員3名以上 社外取締役・社外監査役・社外有識者から選任。武藤春光氏・大浦溥氏・中谷巌氏の3名
有効期間 1年(第84回定時株主総会の終結の時まで) 2011年3月30日の第87回総会から3年へ延長。2023年3月の第99回総会の終結で廃止
会社の応答(株主還元) 1株当たり配当額を5円から7円へ 2008年12月期から。自己株式の取得は株主総会決議・取締役会決議いずれにもよるものがない
会社の応答(不動産) 恵比寿ガーデンプレイスの共有持分15%を500億円で譲渡 2007年10月30日にモルガン・スタンレーと基本合意。2012年3月1日に提携を解消
提携先による当社株式の取得 議決権比率で約5%を目標 2007年12月末までに5,801,000株以上、2008年6月末までに19,336,000株まで増やす努力目標

出所:サッポロホールディングス 有価証券報告書 第83期(2006年12月期)・第84期(2007年12月期)・第85期(2008年12月期)【会社の支配に関する基本方針】【経営上の重要な契約等】

スティール・パートナーズの所有株式数の推移

サッポロビール:スティール・パートナーズの所有株式数の推移

(千株) 所有株式数 備考
2005年12月期 58,500 15.96%で第1位。8月26日の大量保有(変更)報告書では16.40%
2006年12月期 66,500 17.52%で第1位。2月17日に旧対応方針を取締役会決議で導入
2007年12月期 69,150 17.55%で第1位。2月15日に買付提案を受領し、3月29日に対応方針を承認
2008年12月期 69,150 17.55%で第1位。3月10日に修正提案を受領
2009年12月期 69,150 17.55%で第1位。2月17日に修正提案の撤回を受領

出所:サッポロホールディングス 有価証券報告書 第82期〜第89期(2005年12月期〜2012年12月期)【大株主の状況】

対応方針の株主総会決議と有効期間

サッポロビール:対応方針の株主総会決議と有効期間

(年) 有効期間 備考
第83回定時株主総会(2007年3月29日) 1 対応方針を承認。旧方針は同総会の終結の時をもって廃止
第84回定時株主総会(2008年3月28日) 1 継続を承認。3月10日に修正提案を受領した直後の総会
第85回定時株主総会(2009年3月27日) 1 継続を承認。2月17日に修正提案の撤回を受領
第86回定時株主総会(2010年3月30日) 1 継続を承認
第87回定時株主総会(2011年3月30日) 3 継続を承認し、有効期間を1年から3年へ延長
第90回定時株主総会(2014年3月28日) 3 継続を承認
第93回定時株主総会(2017年3月30日) 3 継続を承認
第96回定時株主総会(2020年3月27日) 3 継続を承認。有効期間は第99回定時株主総会の終結の時まで

出所:サッポロホールディングス 有価証券報告書 第83期〜第102期【会社の支配に関する基本方針】

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

同意なき買収への対応2008年電源開発外為法の中止命令と株主提案の否決による海外ファンドの排除重要インフラ企業への外資関与と株主提案への対応
2011年パルコ大株主連合による経営支配要求の拒否と、平野秀一社長の退任株主提案と経営の独立性
2001年サイバーエージェント物言う株主の接近に晒された局面での経営権の維持と防衛株主との対峙と支配権
2026年倉敷紡績継続議案の賛成率の低下を突いた2件の株主提案と、22.37%・38.38%で退けた第218回総会買収への対応方針の存廃と、その決定権の所在
2026年牧野フライス製作所公開買付けの不実施で閉ざされた出口に、当初買付価格での自己株式取得を求めた提案とその拒絶同意なき買収の頓挫後に残された株主の出口と株主還元
株主提案への対応2007年ブルドックソースTOBに対する新株予約権無償割当の実施と、経営権を守る姿勢の明示敵対的買収防衛と資本政策
2009年TBSホールディングス異業種からの経営関与を退けたうえでの認定放送持株会社への移行支配権の防衛と資本構造の組み替え
2005年フジ・メディア・ホールディングスライブドア・パートナーズの買収と、逆立ちした資本関係の解消資本構造と経営支配権
2021年サンケン電気投資ファンドの支配的株主への台頭と、経営の主導権の移り変わり資本政策と支配権
2023年コスモエネルギーホールディングス大量取得に対する有事型の対抗措置とMoM決議、岩谷産業を迎えての決着買収防衛策の設計とアクティビスト対応
参考文献
出典・参考
  • サッポロホールディングス 有価証券報告書「第83期(2006年12月期)【会社の支配に関する基本方針】」
  • サッポロホールディングス 有価証券報告書「第84期(2007年12月期)【経営上の重要な契約等】」
  • サッポロホールディングス 有価証券報告書「第85期(2008年12月期)【会社の支配に関する基本方針】」
  • サッポロホールディングス 有価証券報告書「第82期〜第89期(2005年12月期〜2012年12月期)【大株主の状況】」
  • サッポロホールディングス 有価証券報告書「第89期(2012年12月期)【経営上の重要な契約等】」
  • サッポロホールディングス 有価証券報告書「第102期(2025年12月期)【会社の支配に関する基本方針】」

免責事項およびポリシー