住友重機械工業独デマーグを皮切りとする欧州機械メーカー5社の連続取得

造船・建機の景気変動から逃れるための拡張は、なぜ十数年後に一斉の構造改革を招いたか

時期 2008年3月
意思決定者(推定) 中村伸 社長
論点 事業ポートフォリオの拡張と造船依存からの脱却
概要
住友重機械工業は2008年3月のドイツ・デマーグ買収を皮切りに、2011年ベルギーのHansen、2017年オランダのFW Energie、2018年イタリアのLafert、2019年英国Invertek Drivesと、欧州の機械メーカー5社を相次いで取得した。造船・建設機械への依存を下げ、ギヤ・プラスチック機械・エネルギー・電機駆動の各分野で欧州拠点を揃える事業拡張であった。
背景
1969年の浦賀重工業との合併で造船を抱えた同社は、1987年と2002年の二度にわたり1,000名規模の人員削減を経験していた。景気変動の大きい造船・建機に収益を委ねる体質から脱するため、2000年代後半に海外M&Aによる事業拡張へ手法を変えた。
内容
2008年のデマーグ・エルゴテック(売上305億円)取得でプラスチック射出成形機の欧州拠点を確保し、以後Hansen(産業用ギヤボックス、約86億円)、FW Energie(循環流動層ボイラ)、Lafert(産業用モータ)、Invertek Drives(インバータ)を取得した。新興国を含む販売網とブランドを取り込む狙いであった。
含意
5社の取得で非造船分野の事業構成は広がったが、買収から5〜16年を経た2024年12月期にLafert・DEMAG・SHI FWの3社が同時に赤字へ陥った。2025年2月に人員削減を含む構造改革のロードマップが示され、欧州事業の建て直しが中期経営計画26の課題として残った。
筆者の見解

変動から逃れた先の、別の変動

欧州5社の取得を、海外M&Aの見込み違いという言葉だけで片づけるのは、事の順序を見落とす。住友重機械が欧州勢を買い集めたのは、造船と建機の景気変動に二度の大量整理で痛めつけられた記憶があったからで、変動の小さい機械分野へ収益源を移すための拡張であった。ところが取り込んだギヤやプラスチック機械、ボイラもまた欧州の需要変動とエネルギーコストに揺れ、造船から逃れた先で別の循環に直面した。分散したはずの事業構成が、もう一つの景気の波を抱え込んだとみることができる。

もっとも、拡張が誤りだったと言い切れるのは、2024年に主要3社が同時に赤字へ落ちた姿を先に知っているからにすぎない。デマーグの取得から十六年、Lafertからでも六年のあいだ、欧州拠点は造船と建機に偏っていた事業の幅を確かに広げてはいた。買収そのものより、買った事業を景気の谷でどう畳み直すかに経営の質が表れる——欧州勢を買い集めてから十数年を経た住友重機械のいまは、その一例として読むことができる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

造船・建機に翻弄された重工業ポートフォリオ

住友重機械工業は1969年に浦賀重工業と合併し、鉱山機械を出自とする会社が造船という重工業を抱え込んだ。景気変動の大きい造船と建設機械に収益を委ねる体質は重く、1985年のプラザ合意後の造船不況では1987年に約1,000名の希望退職を募った。2001年の赤字を受けた2002年にも1,000名の削減と年収15%カットに踏み切っている。二度の大規模な人員整理は、経営陣の世代を越えて引き継がれる原体験となった[1]

二度の危機を経た同社は、2000年代後半に事業拡張の手法を海外M&Aへ変えた。国内の造船・建機への依存を下げ、成長する機械分野で欧州の拠点とブランドを取り込む狙いであった。最初の一手を打った2008年3月期は連結売上高6,607億円、営業利益778億円と業績が高水準にあり、金融危機の直前という好況のなかで対外的な事業拡張へ動いたことになる[2][3]

決断

欧州機械メーカー5社の連続取得

2008年、住友重機械はドイツのデマーグ・エルゴテックと、米国の販売会社バン・ドーン・デマーグを取得した。両社はドイツのMPMホールディングズ傘下にあり、デマーグ・エルゴテックは1922年設立、売上高305億円のプラスチック射出成形機メーカーである。3月3日に株式の取得を終え、欧州と東欧・ロシアの成長市場に販売網を持つ拠点を、住友重機械はプラスチック機械事業の欧州の足がかりとして手に入れた[4][5]

欧州勢の取得はここから続いた。2011年3月にはベルギーの産業用ギヤボックスメーカーHansen Industrial Transmissionsを約86億円で完全子会社化し、南アフリカや豪州の販売網を取り込んだ。さらに2017年6月にオランダのFW Energie(循環流動層ボイラ、現SHI FW)、2018年6月にイタリアのLafert(産業用モータ)、2019年11月に英国のInvertek Drives(インバータ)を相次いで取得し、ギヤ・プラスチック機械・エネルギー・電機駆動の各分野で欧州拠点を揃えた[6][7]

結果

買収から十数年後の一斉構造改革

買収した事業群は、長い時間を経て一斉に重荷へ転じた。2024年2月に公表した中期経営計画26のもとで欧州M&A事業群の構造改革が本格化し、Lafert、プラスチック機械のDEMAG、CFBボイラのSHI FWの3社は2024年12月期に赤字へ陥った。2025年2月の決算説明会では、人員削減と生産能力の圧縮を柱とする構造改革のロードマップが示された。欧州の需要急減とエネルギーコストの上昇が重なった結果であった[8]

渡部敏朗CFOは、Lafertでは200億円を超えるのれんの減損が生じたと決算説明会で認め、その償却負担の軽減を2025年以降の計画に織り込むと説明した。買収時に見込んだ収益は届かず、中計26で掲げた株主還元計画800億円は700億円へ下方修正された。2024年12月期の親会社株主に帰属する当期純利益は77億円と、前年の327億円から落ち込み、欧州事業の建て直しが中計26を通じた課題として残った[9][10]

出典・参考

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