ナカニシ成長戦略の自力開発から海外M&Aへの転換と、米DCIインターナショナルなど海外企業の子会社化

回転機器一筋で世界2位まで伸びた高収益ニッチ企業は、次の成長をなぜ企業買収に求めたか

時期 2020年10月
意思決定者(推定) 中西英一 社長
論点 成長戦略と事業領域の拡張
概要
2020年代のナカニシが、成長の手立てを創業以来の自力開発から海外企業の買収へと移した経営戦略の転換。2020年に米DCIインターナショナルへ出資して関連会社化し、2022年に独アルフレッド・イエガー、2023年にDCIの完全子会社化と中国Refineの子会社化を相次いで進め、歯科・工業の二本柱にDCI事業を加えた。中西英一社長のもとで数年かけて固めた面的な戦略転換であった。
背景
毎分40万回転の高速回転技術に特化し、内製化率80〜85%・利益率30%超の高収益ニッチを築いたナカニシは、歯科用ハンドピースで世界2位まで伸びた。だが新ブランドへの切り替えが進みにくい保守的な市場と、回転機器という狭い領域には成長の天井があり、連結売上高は2018年12月期を頂に足踏みに転じていた。
内容
2020年10月に米オレゴン州の歯科治療台メーカーDCIインターナショナルの約33%を取得して関連会社化した。2022年12月に独アルフレッド・イエガー(高周波スピンドル)、2023年8月にDCIを全株取得、同年10月には中国の桂林市锐锋医疗器械を子会社化した。買収で得た事業をデンタルとサージカルの両輪に組み込む方針を中期経営計画に据えた。
含意
連結売上高は2020年12月期の331億円から2024年12月期の770億円へ4期で2.33倍となった一方、2025年12月期はDCI事業の減損を含む特別損失で純損失に転じた。自力で削り出した高収益を、買収で広げた事業へどう波及させるかが、2025年発表の中期経営計画「NV2030」の課題として残る。
筆者の見解

買った成長と、築いた高収益

この転換は、自力開発の会社がM&Aに手を出したという一言では捉えきれない。ナカニシが選んだのは、回転機器の一点で世界2位・利益率30%超まで築いた強みを、そのまま別の製品群へ広げる道であった。DCIの歯科治療台も、イエガーの工業用スピンドルも、Refineの低価格帯歯科も、いずれも回転機器の販売網と顧客基盤の上に載せられる隣接領域である。飛び地へ多角化するのではなく、既存の販路に事業を積み増す買収を重ねた点に、この戦略の芯があるとみられる。

もっとも、買って広げた事業は、まだ本体と同じ高収益には届いていない。2025年12月期にはDCI事業の減損損失を含む特別損失を計上して純損失に転じ、規模を買った代償が数字に表れた。自力で削り出した30%超の利益率と、取り込んだ事業の収益性との差を埋められるかは、NV2030のもとでなお残る。買収は成長の速度を買うことはできても、高収益という体質までは買えない。ナカニシが次に示すのは、買った事業を自社の利益率へ引き上げられるかどうかにあるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

回転機器一筋で築いた高収益ニッチと、その成長の天井

ナカニシは1930年に栃木県鹿沼市で創業し、毎分40万回転という高速回転技術に特化して歯科用ハンドピースの世界市場で地歩を築いた。開発・製造・販売を自社で一体に握り、部品の内製化率は80〜85%、経常利益率は30%を超えた。宅配便で送れる小型・高付加価値の消耗品を核に、物流の軽さが高い収益性を支えた。2000年に世界シェア7〜8%で3位だった製品は、2022年には約27%を占める首位企業へ伸びていた[1][2]

もっとも、回転機器という狭い領域には成長の天井があった。歯科治療用の切削器具市場は保守的で、既存ブランドからの切り替えが進みにくく、技術力だけでは大きく伸ばしにくい。ナカニシは海外の販売を代理店方式から自社の直販へ切り替え、更新需要を取り込んで世界2位まで押し上げたが、連結売上高は2018年12月期の365億円を頂に、2019年354億円、2020年331億円と足踏みに転じていた。自力開発と直販の延長だけでは、次の成長の桁を変えにくくなっていた[3][4]

決断

自力開発から海外M&Aへの転換

2020年、ナカニシは長期ビジョン「VISION2030」と中期経営計画「NV2025」を掲げ、成長の手立てを自力開発から企業買収へと広げ始めた。同年10月、米国オレゴン州で歯科治療台を製造するDCIインターナショナルの約33%を取得して関連会社とした。DCIの治療台と自社のハンドピースを開業前の歯科医院へ同時に提案し、北米での販売を伸ばす狙いであった。創業以来の自力開発・直販に、隣接する領域を企業ごと取り込む手立てを本格的に加える転換であった[5][6]

相次ぐ海外買収がこれに続いた。2022年12月、ドイツで高周波スピンドルと高出力電動モーターを手がけるアルフレッド・イエガーを子会社化して工業用の機工事業を厚くし、翌2023年8月にはDCIを全株取得して完全子会社とした。同年10月には中国・桂林で超音波スケーラーなど低価格帯の歯科製品をつくる桂林市锐锋医疗器械(Refine)を子会社化した。歯科と工業の二本柱に、歯科治療台のDCI事業を加え、事業領域を数年で一気に広げた[7][8]

DCI完全子会社化の設計と両輪化

2023年8月、ナカニシは持分法適用会社だったDCIインターナショナルの全株式を取得し、完全子会社とした。従前の49.0%からの追加取得で、対価のうち36億4200万円分は持株会社などにナカニシ株式を割り当て、残りを米子会社が現金で支払う設計をとった。DCIの売上高は218億円、営業利益は26億2000万円で、規模の大きい北米の歯科医院向け事業を、治療台ごと連結に丸ごと取り込む買収であった[9]

買収を束ねたのは、中期経営計画の描く事業構成だった。2022年に打ち出したローリングプラン「NV2025+」は、M&Aによる事業領域の拡張を主軸に据え、買収で得た事業をデンタルとサージカルの両輪に組み込む方針を示した。DCIの治療台、イエガーの工業用スピンドル、Refineの低価格帯歯科は、いずれも回転機器で世界に張った販売網と顧客の上に載せられる隣接領域である。既存の販路に事業を積み増す選び方が、買収先に共通していた[10]

結果

買収がもたらした規模と、収益の振れ

買収は業績の規模をはっきり押し上げた。連結売上高は2020年12月期の331億円から2024年12月期の770億円へ4期で2.33倍となり、営業利益も85億円から146億円へ伸びた。2023年12月期には買収に伴う特別利益117億円を計上して当期純利益が228億円に達し、連結従業員数も2020年12月期の1,184名から2025年12月期の2,204名へ約86%増えた。自力開発で1年に積み増せる売上とは桁の違う成長を、ナカニシは企業買収で手にした[11][12]

一方で、買って広げた事業の収益性はすぐには定まらなかった。2024年12月期は買収に伴う特別損失36億円などで当期純利益が86億円にとどまり、2025年12月期は連結売上高812億円・営業利益141億円と売上こそ伸びたものの、DCI事業の減損損失を含む特別損失138億円を計上して、親会社株主に帰属する当期純損益は約24億円の純損失に転じた。回転機器で稼いできた本体と同じ高収益へ、買収先を立て直せるかが新たな課題となった[13][14]

外科への拡張とNV2030

M&Aを軸とする成長戦略は、その後さらに外科へと広がった。2026年3月、ナカニシは米子会社を通じて、脳神経外科手術用の開頭器具を手がける米Acra Cutと、外科器具の機械加工・成型部品を担う米Intechを子会社化すると発表した。いずれもマサチューセッツ州の小規模なメーカーで、外科事業の成長加速と北米の製造力強化を狙った買収であった。歯科用ハンドピースで培った回転技術を、脳や骨を扱う外科の領域へ差し向ける動きである[15]

2025年8月、ナカニシは新たな中期経営計画「NV2030」を公表した。デンタルとサージカルの世界市場での地位拡大を主軸に据え、M&Aを成長戦略の中核に置いて、2030年12月期に連結売上高1000億円・自己資本利益率12%、海外売上比率約90%を掲げた。回転機器の一点突破で世界2位まで築いた会社にとって、買収で広げた事業をどれだけ本体の高収益へ引き寄せられるかが、この計画のもとでの課題となった[16][17]

出典・参考

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