ユーヤンサンの取得(2024年・ロート製薬の決断)

論点 内服・食品をアジアの買収で補うか
ロート製薬:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
三井物産と組んでのシンガポール漢方薬企業の取り込み

何をなぜ決めたか:三井物産と組んでのシンガポール漢方薬企業の取り込み

概要

2024年6月3日、ロート製薬が三井物産と共同で、シンガポールの漢方薬製造販売企業ユーヤンサン・インターナショナル社の議決権85.91%を取得し、連結子会社とした経営判断。取得原価は694.5百万シンガポールドル、円貨で808億4千万円。取得関連費用は2億9百万円で、企業結合日に受け入れた資産は329億7千5百万円、負債は164億9千万円であった。

背景

製品及びサービス別売上でスキンケアが65%を占める一方、内服・食品は相対的に薄く、地域別売上高で約30%を担うアジアの成長を受け止める品揃えも限られていた。事業領域ビジョン2030は一般用医薬品・スキンケア・食品の拡大を掲げていたが、アジアの現地法人はアイケアとスキンケアが中心で、内服の担い手を域内に持たない。その品揃えを外から調える必要があった。

内容

三井物産と共同で出資会社ソアー・アールツーエム社を設け、ライチャス・クレーン・ホールディングスから85.91%を買い取った。ソアー社への出資比率は三井物産と創業家を割当先とする第三者割当を経て60.00%となり、うち40.80%は間接所有である。

残る株式には1株1.8184シンガポールドルで公開買付を行い、応募しなかった株主にはシンガポール会社法215条1項の売渡請求権を行使して、2024年8月29日に完全子会社とした。追加取得の対価は113.8百万シンガポールドル、円貨で135億5百万円。

含意

1879年創業の漢方薬ブランドと、香港・シンガポール・マレーシアに広がる170を超える直販店が加わった。のれんは当初447億9千2百万円と暫定計上され、取得原価の配分が確定した2026年3月期に商標権265億2千7百万円が識別されて322億5千8百万円へ減った。償却は20年の均等償却で続く。アジアの外部顧客への売上高は2024年3月期の787億5千1百万円から2026年3月期には1,253億2千7百万円へ伸びた。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:経営権は掌握し、負担は分担する
考察

考察:経営権は掌握し、負担は分担する

808億4千万円を、ロート製薬が単独で背負ったわけではない。三井物産と創業家の出資が316億2千万円を担い、ロート製薬は共同出資会社の議決権の60.00%を握った。これだけの額を投じながら、経営権は握り、資金の負担は分ける。単独で買い切る力を誇示するより、170を超える直販店という異質な資産を保有し運営する難度を見積もった配分なのだろう。

もっとも、初年度の数字は楽観を許さない。期首に完了していたと仮定した通期換算では、経常利益は8億4千6百万円の損失であった。取得原価の配分が確定してのれんは322億5千8百万円まで下がったが、代わりに識別された商標権265億2千7百万円が償却の対象として残る。負担の名が変わっただけで、量が消えたわけではない。アジアのセグメント利益が伸びたことは追い風だが、直販店とサプリメントの利益率をメンソレータム社の販路に載せられるかどうかで、第三の柱になるかが決まる。

数字で見る 3表

数字で見る

図と表

ロート製薬:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
ロート製薬:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2020年3月期 2,4455,130215,644
2021年3月期 3,3047,894226,149
2022年3月期 2,9549,541274,876
2023年3月期 2,5649,561309,677
2024年3月期 2,2859,217346,175 決議は2024年4月4日で、この期の末日時点ではまだ後発事象であった
2025年3月期 47,49456,069421,875 ユーヤンサン社分44,792を暫定計上。オーストリアのモノ社分1,715を含む
2026年3月期 34,24283,899485,771 取得原価の配分が確定し、のれん12,533が商標権26,527などへ振り替わった
出所:ロート製薬 有価証券報告書 第84期〜第90期(連結貸借対照表)
出所:ロート製薬 有価証券報告書 第84期〜第90期(連結貸借対照表)

ロート製薬:アジアセグメントの推移

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
ロート製薬:アジアセグメントの推移
(百万円) 売上高セグメント利益セグメント資産 備考
2020年3月期 52,9717,22064,329
2021年3月期 48,0566,92664,885
2022年3月期 55,9888,36574,789
2023年3月期 70,77310,39290,097
2024年3月期 78,75112,028102,107 域内はアイケアとスキンケアが中心で、内服の担い手を持たなかった
2025年3月期 100,33612,289159,877 連結は7月から12月までの6か月分。ユーヤンサン社の売上寄与は165億円
2026年3月期 125,32715,048189,201 通期で連結。売上高は前期比24.9%増、セグメント利益は同29.8%増
出所:ロート製薬 有価証券報告書 第84期〜第90期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高・利益・資産)
出所:ロート製薬 有価証券報告書 第84期〜第90期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高・利益・資産)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 ユーヤンサン・インターナショナル社 漢方薬・食品等の製造及び販売。1993年設立で創業は1879年、本社はシンガポール
取得の法的形式 現金を対価とする株式取得 子会社ソアー・アールツーエム社がライチャス・クレーン・ホールディングスから取得
企業結合日 2024年6月3日 みなし取得日は2024年6月30日。連結には2024年7月から12月までの業績を含む
取得した議決権比率 85.91% 2024年4月4日の取締役会で取得を決議し、6月3日に株式の取得を完了した
取得原価と対価 694.5百万シンガポールドル 円貨で80,840百万円。対価は現金で、社外の専門家による事業価値評価にもとづく
取得資金の借入 13,200百万円と130百万シンガポールドル 前者は取引先銀行5行から1か月、後者は2行から2年でロート製薬と三井物産が保証
取得関連費用 209百万円 アドバイザリー費用等。決議した2024年3月期の時点では確定していなかった
受け入れた資産・負債 資産32,975百万円・負債16,490百万円 資産は流動16,360・固定16,614、負債は流動10,833・固定5,656
のれん 32,258百万円 取得時は暫定で44,792百万円。2026年3月期の確定で12,533百万円減少した
のれんの発生原因 今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力
のれんの償却 20年にわたる均等償却
確定で識別した無形資産 商標権26,527百万円 仕掛品93・商品及び製品465・無形固定資産のその他884もあわせて増加した
通期換算した影響額 売上高18,502百万円・営業利益1,702百万円 経常利益は846百万円の損失。2025年3月期の期首に完了と仮定した概算額
公開買付の価格 1株1.8184シンガポールドル 期間は2024年6月10日から7月8日。買付予定62,623,348株、代金約113百万シンガポールドル
完全子会社化 2024年8月29日 公開買付で段階的に追加取得し、シンガポール会社法215条1項の売渡請求権を行使
追加取得の額 113.8百万シンガポールドル 円貨で13,505百万円。非支配株主との取引として資本剰余金が8,763百万円減少
ソアー・アールツーエム社への出資比率 60.00% 三井物産と創業家への第三者割当で66.67%から低下。うち間接所有は40.80%
出所:ロート製薬 有価証券報告書 第88期(2024年3月期)【重要な後発事象】・第89期(2025年3月期)【企業結合等関係】・第90期(2026年3月期)【企業結合等関係】
出所:ロート製薬 有価証券報告書 第88期(2024年3月期)【重要な後発事象】・第89期(2025年3月期)【企業結合等関係】・第90期(2026年3月期)【企業結合等関係】
当時の取締役 11名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

次に読む決断

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