ロート製薬 ADR-001の開発 他家脂肪由来の幹細胞製剤を手がける再生医療への参入

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時期 2013年
当時の社長 山田邦雄
論点 事業多角化と先端医療への長期投資
何をなぜ決めたか
概要

2013年、ロート製薬が再生医療研究企画部を新設し、ヒト脂肪由来幹細胞を用いる再生医療へ参入した経営判断。目薬やスキンケアを主力としてきた大衆薬メーカーが、創業家の山田邦雄氏のもとで、薬でなく細胞を治療に用いる先端医療へ研究資源を投じた。

参入した2013年3月期の研究開発費は4,062百万円。5期後の2018年3月期には6,578百万円へと6割増え、設備投資額を上回る水準になった。

背景

国内では医薬品も化粧品も市場が成熟し、目薬や胃腸薬という祖業の延長だけでは長期の成長を描きにくくなっていた。2001年に肌ラボでスキンケアへ越境した経験が、製薬で培った知見を隣接領域へ広げる素地となっていた。研究開発費は2008年3月期から2012年3月期まで37億円前後で動かず、投じ先を欠いたまま横ばいが続いていた。

内容

2013年に再生医療研究企画部を新設して脂肪由来幹細胞に的を絞り、2016年11月にはロートリサーチビレッジ京都内のロート幹細胞加工センターで特定細胞加工物製造許可を取得して、細胞を自ら作る足場を整えた。

2017年に新潟大学とともに肝硬変を対象とする治験を日本で初めて開始し、2018年9月には開発及び販売のライセンス契約を塩野義製薬と結んだ。ADR-001は肝硬変のほか腎疾患・重症下肢虚血・肺線維症へも適応を広げている。

含意

2021年3月にオリンパスRMSを1,622百万円で取得して整形外科領域を加え、2023年にはロートセルファクトリー東京をグループへ入れて細胞製剤の供給体制を固めた。参入から10年を超えてなお、肝硬変を対象とするADR-001は第Ⅱ相を終えた段階にあり、承認申請には至っていない。

製薬本流でない中堅が薬から細胞へ越境した長期投資であり、2001年の肌ラボによるスキンケア参入に続く"製薬出自の越境"の系譜に連なる。外部資本に縛られない同族企業であればこそ取り得た息の長い賭けとみられる。

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筆者の見解
筆者の見解

薬から細胞へ、製薬会社の越境

この参入の核心は、目薬や化粧水で稼ぐ会社が、棚に並ぶ商品とは時間軸も不確実性もまるで異なる細胞治療へ、あえて資源を割いた点にあったと推察される。参入前の研究開発費は5期にわたり37億円前後で動かず、投じ先を欠いたまま横ばいが続いていた。それが参入後の5期で6,578百万円まで積み上がり、設備投資額を上回る。四半期の利益を強く問われる立場であれば、承認まで十年を超えて費用だけが出ていく領域に、これだけの額を張り続けるのは選びにくい。創業家が経営を主導し、外部資本の短期的な圧力から距離を置けたロートであればこそ、成否を読み切れないものに賭けられたという面は否めない。

2001年の肌ラボが製薬の処方を化粧品へ広げた越境であったとすれば、2013年の再生医療参入は、薬そのものの外側にある細胞という領域への、より遠い越境であった。目薬から化粧品、化粧品から食・農、そして細胞へと、ロートは祖業の輪郭を少しずつ描き替えてきた。もっとも、参入から10年を超えた2025年5月の時点で、最初の適応症である肝硬変のADR-001は第Ⅱ相を終えた段階にとどまり、承認申請には届いていない。塩野義製薬という売り先を確保し、整形外科領域の会社を買い、細胞の製造拠点まで揃えた体制が、次の十年でどれだけの果実を返すのかは、なお開かれた問いである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
再生医療参入の条件

再生医療参入の条件

科目 概要 備考
研究開発の対象 ヒト脂肪由来幹細胞 他家の脂肪組織から採る間葉系幹細胞。ヒト臍帯由来幹細胞のUDI-001も並行して進める
開発品の名称 ADR-001 肝硬変のほか腎疾患・重症下肢虚血・肺線維症にも同じADR-001で適応を広げている
最初の適応症 肝硬変 2017年に新潟大学とともに、肝硬変を対象とする再生医療の治験を日本で初めて開始
肝硬変を対象とする開発の段階 第Ⅱ相終了 2025年5月時点。承認申請には至っていない
社内の体制 再生医療研究企画部 2013年に新設。部長の山田哲正氏は2018年6月に取締役へ就任した
細胞加工の許可 特定細胞加工物製造許可 2016年11月にロートリサーチビレッジ京都内のロート幹細胞加工センターで取得
提携先 塩野義製薬 2018年9月に肝硬変を対象とする再生医療等製品候補の開発及び販売でライセンス契約
整形外科領域の取得 インターステム(旧オリンパスRMS) 2021年3月23日に議決権比率100%を取得。自家培養軟骨細胞キットを開発する会社
取得原価 1,622百万円 対価は現金。取得関連費用は計上していない
のれん 1,313百万円 取得時は暫定的な会計処理により1,972百万円。翌期の確定で658百万円減少した
細胞製剤の製造 ロートセルファクトリー東京 2023年にグループへ加えた。細胞製剤の市場拡大に対応する安定供給の体制づくり
参入期の研究開発費 4,062百万円 2013年3月期・連結。セグメント間の取引消去後の総額

出所:ロート製薬 有価証券報告書 第77〜89期(2013年3月期〜2025年3月期)【研究開発活動】【企業結合等関係】、ROHTO Well-being Report 2025(再生医療等製品パイプライン一覧)

研究開発費と設備投資の推移

ロート製薬:研究開発費と設備投資の推移

(百万円) 研究開発費設備投資額減価償却費 備考
2008年3月期 3,7973,7664,169
2009年3月期 3,7356,1054,303
2010年3月期 3,7333,8234,542
2011年3月期 3,6978,3484,257
2012年3月期 3,7178,0024,890
2013年3月期 4,0625,7285,256 再生医療研究企画部を新設。研究開発費は前期から345百万円増えた
2014年3月期 4,5476,5065,735
2015年3月期 5,5854,0156,059
2016年3月期 5,8364,3616,044
2017年3月期 6,1463,8535,552 ロート幹細胞加工センターで特定細胞加工物製造許可を取得
2018年3月期 6,5785,5065,593
研究開発費と設備投資額
研究開発費(百万円)設備投資額(百万円)

出所:ロート製薬 有価証券報告書 第72〜82期(【研究開発活動】【設備投資等の概要】・連結キャッシュ・フロー計算書)

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参考文献
出典・参考

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