カナデビア欧州・豪州の環境プラント企業の連続取得と、日立造船からカナデビアへの商号変更
国内の官需だけで環境を柱にできるのか——同業を買い集め、81年使った社名を降ろすまで
- 概要
- 2010年12月にスイスのごみ焼却発電会社AE&E Inovaを49億円で完全子会社化したのを最初の一手として、豪州Osmoflo、ドイツSteinmüller Babcock Environmentへと買収を重ね、2024年10月に社名を日立造船からカナデビアへ改めた経営判断。
- 背景
- 2002年に造船を切り出したあとも2006年3月期に290億円の当期純損失を出し、環境プラントは伸びても稼ぎ場所は国内に偏っていた。2010年3月期の連結売上2,735億円のうち日本向けが84%を占め、欧州向けは12億円であった。
- 内容
- Inovaは株式の取得原価26百万円に増資引受4,493百万円を積んで取得し、2017年2月に豪Osmofloの70%を52億円、2022年2月に独Steinmüllerを取得(価額非公表・負ののれん発生益37億円)。買い足しの主体はやがてInova自身に移った。
- 含意
- 2025年3月期の連結売上は6,105億円で過去最高となり、海外が49%、環境が74%を占めた。社名から「造船」が消えたのは、欧州事業の積み上がりが本体の名前を追い越した結果に近い。
買ったのは会社ではなく、官需の外の需要であった
株の代金は26百万円、増資引受は4,493百万円。2010年のInova取得の数字は、支払ったものが会社の値段ではなく、欧州で仕事を取れる立場であったことを示している。国内のごみ焼却発電は自治体の発注周期に業績が縛られる事業で、2010年3月期には売上の84%が日本向けであった。同じ技術で別の発注者に売れる場所を持つことが、造船を手放したあとの会社に欠けていたものだったとみられる。
ただ、この道が本体の判断だけで開いたわけではない。2022年のSteinmüller取得は日立造船ではなく子会社のInovaが行い、37億円の負ののれん発生益を生んだ。買った会社が次の買い手になる形で、欧州事業は12年かけて厚くなった。2024年に社名から「造船」が消えたのは、その積み上がりが本体の名前を追い越した結果であって、社名を替えたこと自体が転換だったわけではないといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
造船を手放しても柱は立たなかった
2002年に造船事業を切り出したあとも、収益の柱は立たなかった。2006年3月期の連結売上高は3,338億円で、当期純損失は290億円である。造船を失って縮んだ事業規模のまま、環境プラント・産業機械・舶用エンジンで稼ぐ形をつくり直す課題が残った。2009年3月には神奈川工場を閉め、造船関連の拠点整理も続いた[1][2]。
環境プラントは伸びていたが、稼ぎ場所は国内に偏っていた。2010年3月期の連結売上2,735億円のうち日本向けは2,308億円で84%を占め、ヨーロッパ向けは12億円にとどまる。ごみ焼却発電は自治体の発注に依存する事業であり、国内の施設更新の周期がそのまま業績の波になる。国内官需の外へ出る道を探すほかなかった[3]。
40年育てたごみ焼却炉という製品
買う相手は、欧州でごみ発電設備の設計・製作・販売・保守・運営を手がけるAE&E Inova(スイス・チューリヒ)であった。日立造船は、廃棄物処理施設事業の海外展開を加速する方針のもとで欧州市場を確保し、さらには全世界の市場を視野に入れた事業展開を図るため全株式を取得したと有価証券報告書に記している。国内官需の外側に、同じ技術で売れる市場があった[4]。
技術の系譜も遠くはなかった。1969年10月の講演で、永田敬生社長は陸上部門で伸ばしたい分野として公害防止、環境衛生、デロール式塵芥焼却炉、水処理装置を挙げている。1981年には子会社の日立造船エンジニアリングが都市ごみの焼却設備や産業廃棄物・廃水処理設備を手がけていた。ごみ焼却炉は、造船から派生して40年かけて育てた製品であった[5][6]。
決断
49億円で買った欧州の足場
企業結合日は2010年12月20日、取得した議決権比率は100%であった。取得原価は49億円で、内訳は普通株式の取得原価26百万円、取得に直接要したアドバイザリー費用等390百万円、追加出資の増資引受4,493百万円である。株そのものにはほとんど値がつかず、資金の大半は取得後の増資に充てられた。受け入れた資産は279億円、引き受けた負債は237億円、のれんは6億円にとどまった[7][8]。
買収後の社名はHitachi Zosen Inovaとした。連結の欧州向け売上高は2011年3月期の20億円から2012年3月期に236億円へ跳ね、2014年3月期には569億円になった。自治体の発注周期に縛られた収益構成に、別の発注者による需要が加わる。2014年4月にはアタカ大機を吸収合併し、国内の水処理事業も一つにまとめた[9][10]。
買い足しを続けた12年
買収は1件で終わらなかった。2013年3月、使用済み核燃料の保管・輸送機器を扱う米NAC Internationalを完全子会社化する。2017年2月14日には豪Osmoflo Holdingsの株式70%を現金52億円で取得した。同社の逆浸透膜技術と自社の多段フラッシュ法などを組み合わせ、中東をはじめとする海外地域での海水淡水化・産業用水処理の受注機会を広げるという理由であった[11][12]。
2022年2月9日には、ドイツのSteinmüller Babcock Environmentを取得した。取得価額は当事者間の合意で非公表としたが、時価純資産が取得原価を上回ったため37億円の負ののれん発生益を計上している。同社はドイツと北欧でごみ焼却発電の実績を持ち、英国・スイス・中東・ロシアを得意としてきたInovaとは市場も製品も重ならないと説明された。この取引の当事者は日立造船本体ではなく、子会社のInovaであった[13][14]。
結果
海外がほぼ半分になった売上
2025年3月期の連結売上高は6,105億円、営業利益269億円、当期純利益221億円で、いずれも過去最高であった。地域別では日本3,131億円に対してヨーロッパが2,071億円に達し、中近東283億円、北米258億円、アジア255億円を加えた海外の合計は2,974億円で、全体の49%を占めた。セグメントでは環境が4,535億円で74%であった[15][16]。
事業の中身が変わるにつれ、社名との差が広がった。2024年10月1日、日立造船はカナデビア株式会社へ商号を変更する。新社名は日本語の「奏でる」とラテン語の「Via(道・方法)」を合わせた造語で、多様性を尊重し絶えず技術革新を追求することで、オーケストラがハーモニーを奏でるように人類と自然に調和をもたらす新しい道を切り拓いていくとの思いを込めた、と会長兼CEOの三野禎男氏は記した。1943年から81年使った社名から「造船」の字が消えた[17][18]。
- カナデビア 有価証券報告書【沿革】
- 日立造船 有価証券報告書(2011年3月期・連結/企業結合)
- 日立造船 有価証券報告書(2017年3月期・連結/企業結合)
- 日立造船 有価証券報告書(2022年3月期・連結/企業結合)
- 日立造船 有価証券報告書(2006年3月期・2010年3月期・2012年3月期-2014年3月期・連結)
- カナデビア 有価証券報告書(2025年3月期・連結)
- カナデビア 統合報告書2024
- 証券アナリストジャーナル 1969年第7巻第11号「日本造船業の現状と将来――日立造船の現状と将来」(永田敬生)
- 証券アナリストジャーナル 1981年第19巻第12号「日立造船エンジニアリング」(岩崎三郎)