欧州USG Peopleを買収(2016年・リクルートHDの決断)

更新:
論点欧州の派遣基盤を買収で得るか
リクルートHD:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
北米・豪州に続く人材派遣基盤を全株取得で一括して得た地域補完

何をなぜ決めたか:北米・豪州に続く人材派遣基盤を全株取得で一括して得た地域補完

概要

2016年6月1日、リクルートホールディングスがオランダを中心に欧州で総合人材派遣事業を営むUSG People N.V.の株式を取得し、その子会社98社とともに傘下に収めた買収。2015年12月22日の取締役会で発行済普通株式の全株を対象とする公開買付けの実施を決め、2016年4月1日から買付けを行った。取得原価は181,140百万円、取得後の議決権比率は98.68%である。

背景

人材派遣の海外展開は2010年の米The CSI Companies, Inc.の買収に始まり、国内人材派遣事業で確立した経営手法が海外でも応用可能と判断して、2011年に米STAFFMARK HOLDINGS, INC.と米欧で事業を展開するAdvantage Resourcing 2社、2015年に豪Chandler Macleod Group Limited等を取得してきた。欧州への進出は、この海外展開の速度と規模をさらに高めるためであった。

内容

選んだのはアムステルダム証券取引所に上場し、2015年12月期に連結売上高2,550百万ユーロ・連結EBITDA90百万ユーロを計上していた会社であった。普通株式1,400百万ユーロで80,045,480株を現金取得し、資金は負債調達と手元現金で充当した。のれん125,246百万円を10年間の定額法で償却することとし、顧客関連資産61,198百万円と商標権21,162百万円を別に計上している。

含意

連結財務諸表に含めた業績は2016年7月1日から12月31日までで、人材派遣事業の売上高は1兆687億円(前連結会計年度比20.1%増)へ伸びた。IFRSでは取得日以降の売上収益272,236百万円・当期利益4,546百万円が示される。人材派遣事業に帰属するのれんは2022年3月期で208.9十億円、うち欧州が158.0十億円を占める。

いつ何が起きたか9件
考察:欧州で取得したのは帳簿に無いもの
考察

考察:欧州で取得したのは帳簿に無いもの

支払った181,140百万円に対し、受け入れた資産と引き受けた負債の差は357億円ほどにすぎない。残りはのれんと顧客関連資産・商標権という、それまで帳簿に姿のなかった資産である。買ったのは事務所でも車両でもなく、オランダを中心に積み上げられた取引先との関係そのものだっただろう。人材派遣の海外展開は2010年の米CSIに始まり、STAFFMARK、Advantage Resourcing、豪Chandler Macleodと重ねられてきた。欧州はその最後の空白であり、子会社98社ごと一度に埋めた。自前で拠点を開設して年を重ねる方針は採らず、対価を払って時間を短縮する選択であった。

もっとも、この買い物の重さは、会計基準が変わったところで姿を変えている。日本基準では10年間の定額法で償却し終えるはずだったのれんが、IFRSへ移ると償却されず、毎期の減損テストにさらされ続ける。取得日の認識額も141,530百万円へ組み替えられた。実際、2020年3月期にはドイツの資金生成単位で無形資産の減損損失を計上している。それでも人材派遣事業に帰属するのれんは同期の184.8十億円から2022年3月期には208.9十億円へ増加し、その大半を欧州が占める。償却して消える買い物ではなく、毎年その値打ちを問われ続ける資産になったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
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図と表

リクルートHD:人材派遣事業の売上収益とセグメント利益

売上収益(百万円)セグメント利益率(%)
リクルートHD:人材派遣事業の売上収益とセグメント利益
(百万円)売上収益セグメント利益備考
2017年3月期1,158,27165,652日本基準の人材派遣事業の売上高は1兆687億円(前期比20.1%増)
2018年3月期1,285,58572,724
2019年3月期1,275,02782,952この期からセグメント利益をEBITDAから調整後EBITDAへ改めた
2020年3月期1,232,36381,288ドイツで38億円の無形資産の減損損失を計上した
2021年3月期1,184,85276,211
2022年3月期1,361,85393,170
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期・第60期・第62期(2018年3月期・2020年3月期・2022年3月期)【事業セグメント】外部顧客からの売上収益・セグメント利益
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期・第60期・第62期(2018年3月期・2020年3月期・2022年3月期)【事業セグメント】外部顧客からの売上収益・セグメント利益

リクルートHD:買収により生じたのれんの推移

リクルートHD:買収により生じたのれんの推移
(百万円)Recruit Global Staffingののれん人材派遣事業ののれん連結のれん合計備考
2017年3月期137,935−303,273日本基準ののれんは125,246百万円。IFRSでは141,530百万円を当初認識
2018年3月期149,804−312,944顧客関連資産は60,681百万円で、平均残存償却期間は12年
2019年3月期143,211−410,651連結のれんの増加はGlassdoor, Inc.の取得による
2020年3月期−184,800383,16310億円単位の開示で184.8十億円。うち欧州は137.6十億円
2021年3月期−197,700399,36110億円単位の開示で197.7十億円。うち欧州は149.0十億円
2022年3月期−208,900436,01710億円単位の開示で208.9十億円。うち欧州は158.0十億円
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期・第59期(2018年3月期・2019年3月期)【重要なのれん及び無形資産】 / リクルートホールディングス 有価証券報告書 第60期〜第62期(2020年3月期〜2022年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】各セグメントに帰属する地域別のれん金額 / リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期・第60期・第62期(2018年3月期・2020年3月期・2022年3月期)【連結財政状態計算書】のれん
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期・第59期(2018年3月期・2019年3月期)【重要なのれん及び無形資産】 / リクルートホールディングス 有価証券報告書 第60期〜第62期(2020年3月期〜2022年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】各セグメントに帰属する地域別のれん金額 / リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期・第60期・第62期(2018年3月期・2020年3月期・2022年3月期)【連結財政状態計算書】のれん

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業USG People B.V.2016年7月にUSG People N.V.から社名変更。アムステルダム証券取引所上場
事業の内容総合人材派遣事業オランダ・アルメール市に本社。資本金は40,559千ユーロ
同時に取得した子会社98社USG People B.V.の子会社を同時に取得した
取締役会の決議2015年12月22日発行済普通株式の全株を対象とした公開買付けの実施を決定した
公開買付けの開始2016年4月1日買付けの結果、USG社は当社の子会社となった
企業結合日2016年6月1日連結財務諸表に含めた業績は2016年7月1日から12月31日まで
取得の法的形式現金を対価とする株式取得取得企業と判断した根拠も、現金を支払って株式を取得した点にある
取得した株式数80,045,480株株式取得前に所有していた議決権比率は0%
取得した議決権比率98.68%関係会社の状況に記載された議決権の所有割合は98.6%
取得原価181,140百万円対価は全額現金。決議時の取得価額は普通株式1,400百万ユーロ
取得による支出175,948百万円取得価額から受け入れた現金及び現金同等物5,191百万円を控除した額
取得関連費用1,258百万円アドバイザリー費用等。うち540百万円はIFRS移行日以前の発生
のれん125,246百万円10年間の定額法。今後見込まれる超過収益力に由来する
顧客関連資産61,198百万円のれん以外の無形固定資産に配分した額。償却期間は14年
商標権21,162百万円同じく配分した無形固定資産。償却期間は10年
受け入れた資産合計150,768百万円流動資産53,624百万円、固定資産97,143百万円
引き受けた負債合計115,041百万円流動負債64,379百万円、固定負債50,661百万円
非支配株主持分735百万円連結開始時。為替換算調整勘定は20,903百万円
通期換算した売上高161,052百万円期首に結合したと仮定した場合の概算額。監査を受けていない
通期換算したEBITDA6,585百万円営業利益+減価償却費+のれん償却額。監査を受けていない
IFRSでの取得対価177,775百万円現金及び現金同等物。日本基準の181,140百万円とは金額が異なる
IFRSでののれん141,530百万円為替予約の公正価値5,421百万円を当初認識額に加算している
取得日以降の売上収益272,236百万円IFRS。2016年6月1日以降の分で、当期利益は4,546百万円
被取得企業の規模連結売上高2,550百万ユーロ2015年12月期。連結総資産1,281百万ユーロ、連結純資産487百万ユーロ
支払資金の調達方法負債調達と手元現金決議時に充当予定として示した方法
結合の理由グローバルな事業基盤の獲得海外展開を加速・拡大するため欧州の総合人材派遣を取り込む
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第57期(2017年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】 / 第56期(2016年3月期)【重要な後発事象】 / 第58期(2018年3月期)【企業結合等】
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第57期(2017年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】 / 第56期(2016年3月期)【重要な後発事象】 / 第58期(2018年3月期)【企業結合等】
参考文献

参考文献

参考
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第56期(2016年3月期)【重要な後発事象】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第57期(2017年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】【沿革】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第58期(2018年3月期)【企業結合等】【重要なのれん及び無形資産】【事業セグメント】【連結財政状態計算書】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第59期(2019年3月期)【重要なのれん及び無形資産】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第60期〜第62期(2020年3月期〜2022年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」

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