リクルートHD米Glassdoorを1,430億円で買収:企業の口コミデータベースを1,430億円で買い足したHRテクノロジー事業の第2手

更新:

時期 2018年6月
意思決定者(推定) 峰岸真澄 社長兼CEO
論点 HRテクノロジー事業の拡大
概要

2018年6月21日、リクルートホールディングスが米国のGlassdoor, Inc.の議決権付資本持分100%を、現金を対価として取得した経営判断。取得対価は1,295百万米ドルを取得日の直物為替レートで換算した143,045百万円で、Glassdoorの保有純現金の調整等を含む。取得関連費用1,193百万円は販売費及び一般管理費に計上した。

背景

会社は中期的に、米国及びグローバル市場においてIndeedの既存事業の拡大とM&Aを通じてHRテクノロジー事業を積極的に拡大する戦略を掲げていた。2018年3月期にはIndeedだけで構成されるHRテクノロジー事業を報告セグメントとして新設したところで、事業別の経営戦略にも求人広告領域のグローバル拡大と採用プロセスを効率化する新規事業の開発・M&Aを並べていた。

内容

Glassdoorは2007年に米国で創業し、求人情報とユーザー投稿による企業レビュー・給与情報という独自のデータベースを展開してきた。求職者による求人企業の口コミを、Indeedの求人検索と求職者・求人企業のマッチングに重ねる構想を掲げている。2019年3月期末の月間ユニークビジター数は約6,700万人、従業員数は約900人であった。

含意

取得日の資産合計52,704百万円・負債合計10,163百万円に対し、のれんは暫定で100,504百万円。無形資産29,573百万円の内訳は顧客関連資産14,466百万円・商標権9,000百万円・その他6,106百万円で、取得対価の配分は翌期に確定し、のれんは99,828百万円となった。米国の非流動資産は144,255百万円から282,214百万円へ、HRテクノロジー事業の従業員数は5,904名から9,882名へ増えている。

筆者の見解

口コミという在庫を持たない資産

6年前に買ったIndeedが求人を持たない検索エンジンだったとすれば、こちらは求人すら要らない。Glassdoorが抱えていたのは、働いた人が書き残した企業の評判と給与の記録である。取得日の資産合計は52,704百万円で、対価143,045百万円の3分の1にすぎない。差し引かれた残りが無形資産29,573百万円とのれん100,504百万円で、のれんの構成要因を会社は「将来の超過収益力及び既存のHRテクノロジー事業とのシナジー」と説明している。帳簿に載る形を持たない書き込みの集積に、対価の7割を払ったことになる。

買った後に伸びたのは、まず人であった。HRテクノロジー事業の従業員数は5,904名から9,882名へ増え、期末のGlassdoorの従業員は約900人。残りはIndeedの側の増員である。米国に置いた非流動資産は144,255百万円から282,214百万円へ倍増し、以後の6期でも380,000百万円台までしか増えていない。この買収が米国での資産の厚みをひと息に決めたとみることができる。取得日以降にGlassdoorが上げた売上収益と当期利益は注記されておらず、口コミがどれだけ稼いだかを外から確かめる手立ては残されていない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Glassdoor, Inc. オンライン求人広告及び企業情報サイト運営。2007年に米国で創業した未上場企業
本社所在地 米国デラウェア州 第59期の関係会社の状況では資本金10米ドル、議決権の所有割合100.0%
取得日 2018年6月21日 2019年3月期の第1四半期に子会社化が完了した
取得の法的形式 現金を対価とする株式取得 被取得企業の支配を獲得した方法としてこの1行だけが記されている
取得した議決権比率 100% 議決権付資本持分の割合。発行済全株式を取得した
取得対価 143,045百万円 1,295百万米ドルを取得日の直物為替レートで換算。保有純現金の調整等を含む
対価の内訳 現金及び現金同等物 143,045百万円の全額。株式の交付や条件付対価の記載はない
取得のための支出 126,847百万円 連結CFの子会社の取得による支出。受け入れた現金16,197百万円を控除した額
取得関連費用 1,193百万円 連結損益計算書の販売費及び一般管理費に計上した
取得した資産合計 52,704百万円 流動資産20,705百万円、非流動資産31,999百万円。暫定的に算出した金額
引き受けた負債合計 10,163百万円 流動負債9,178百万円(繰延収益5,980百万円を含む)、非流動負債985百万円
取得した資本合計 42,541百万円 現金及び現金同等物16,197百万円、営業債権の公正価値3,378百万円を含む
識別した無形資産 29,573百万円 顧客関連資産14,466百万円、商標権9,000百万円、その他6,106百万円
のれん(暫定) 100,504百万円 取得対価143,045百万円と資本合計42,541百万円の差。取得日時点の暫定額
のれん(確定) 99,828百万円 第60期で取得対価の配分が完了し676百万円減。前期の財務諸表は遡及修正せず
確定後の資産・負債 資産52,807/負債9,590 単位は百万円。非流動資産が32,101百万円、資本合計は43,217百万円となった
のれんの構成要因 超過収益力とシナジー 今後の事業展開で期待される超過収益力と既存のHRテクノロジー事業とのシナジー
結合の主な理由 HRテクノロジー事業の拡大 Indeedの既存事業の拡大とM&Aで同事業を積極的に拡大する戦略に沿う取得
買収時の月間利用者 約6,700万人 月間ユニークビジター数。2019年1月のGoogle Analyticsに基づく社内データ
買収時の従業員数 約900人 2019年3月期末。同期末のIndeedは14ヶ国29都市で約8,900人

出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第59期(2019年3月期)【企業結合等】【関係会社の状況】【連結キャッシュ・フロー計算書】 / 第60期(2020年3月期)【企業結合等】

リクルートHD:米国の売上収益と非流動資産の推移

(百万円) 米国の売上収益米国の非流動資産連結売上収益 備考
2014年3月期 上場前で有価証券報告書がなく、開示がない
2015年3月期 日本基準。IFRSの地域に関する情報は2018年3月期からの開示
2016年3月期 IFRS移行日2016年4月1日の米国の非流動資産は155,813
2017年3月期 332,497156,3201,941,922 米国の売上収益は連結の17.1%
2018年3月期 381,632144,2552,173,385 HRテクノロジー事業を報告セグメントとして新設した期
2019年3月期 437,530282,2142,310,756 2018年6月にGlassdoorを取得し、米国の非流動資産が倍増した
2020年3月期 491,837339,3162,399,465
2021年3月期 486,620343,9002,269,346 新型コロナウイルス感染症で企業クライアントの採用活動が減退した
2022年3月期 846,748365,2222,871,705
2023年3月期 1,081,707374,8713,429,519
2024年3月期 939,354387,1513,416,492 米国の売上収益は連結の27.5%
米国の売上収益と連結に占める比率
米国の売上収益(百万円)米国の売上収益率(%)

出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期〜第64期(2018年3月期〜2024年3月期)【事業セグメント】地域に関する情報

リクルートHD:HRテクノロジー事業の従業員数の推移

(名) HRテクノロジー事業連結合計 備考
2014年3月期 上場前で有価証券報告書がなく、開示がない
2015年3月期 販促メディア・人材メディア・人材派遣の区分で、HRテクノロジーの区分はない
2016年3月期 同じ3区分。人材メディアの従業員数は9,328名
2017年3月期 同じ3区分。人材メディアの従業員数は11,589名
2018年3月期 5,90440,152 HRテクノロジー事業を報告セグメントとして新設した期
2019年3月期 9,88245,856 3,978名増。期末のGlassdoorは約900人、Indeedは約8,900人
2020年3月期 11,54949,370
2021年3月期 10,69446,800
2022年3月期 13,16151,757
2023年3月期 15,60658,493 報告セグメントの名称がマッチング&ソリューションへ改まった期
2024年3月期 13,15551,373 HRテクノロジー事業傘下の子会社が減少し、連結で7,120名減った
従業員数の内訳
HRテクノロジー事業(名)その他の事業(名)

出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第55期〜第64期(2015年3月期〜2024年3月期)【従業員の状況】連結会社の状況

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出典・参考
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第59期(2019年3月期)【企業結合等】【関係会社の状況】【従業員の状況】【事業セグメント】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第60期(2020年3月期)【企業結合等】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第58期(2018年3月期)【主要な経営指標等の推移】【事業セグメント】【従業員の状況】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第61期〜第64期(2021年3月期〜2024年3月期)【事業セグメント】【従業員の状況】」
  • リクルートホールディングス 有価証券報告書「第65期(2025年3月期)【沿革】【関係会社の状況】」

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